エイプリルフール
私がこの世界に生まれたとき、どれほど絶望したかわからない。
家は電気もガスも通っていない、まるで古びた物置小屋のような小さくて、外には人を簡単に殺せるモンスターなんていうわけのわからない生き物がうようよとしている。
私は街からは少し離れた村に生まれた農民の娘で、2歳くらいから見よう見まねで畑仕事を手伝っていると、両親は喜んで私に仕事を教えてくれた。
モンスターが村を襲うことはよくあって、お父さんもそれでよくけがをしていたものだけれど、そんな怖いこの世界の方が、幸せになれるかもしれないと思った。
生まれたときは携帯もないし、テレビもないし、貧しいからご飯も満足に食べられないから、いつも自分の不幸を夜泣きに紛れて呪っていたけれど、前の世界では両親に褒められることなんてほとんどなかったから。
5歳になって、同年代の子供と一緒に遊んでいたとき、それは起きた。
私たちが林へ木の実や薪を集めに行っていたとき、私たちの前にモンスターが現れた。
モンスターは角の生えたウサギ。今でこそウーノートという名前を知っていて、赤子の手をひねるくらいに簡単に倒せるモンスターだけれど、5歳の子供たちが立ち向かえるような相手ではなかった。
私はすぐに子供たちに逃がすように叫んだけれど、すくんで動けない子供たちは、みんな地面に座り込んでしまった。
そのうちウーノートは近づいてきて、近くにいたほかのウーノートも集まってきた。
私は死を覚悟してウーノートに突っ込み、そして、圧倒した。
無我夢中で手にしていた薪を振り回し、ウーノートの攻撃をいなしつつ確実に仕留めていった。最後の一匹を倒して正気に戻るころには、薪も、手も、顔も、全部が血で塗られていた。
そこに自分の血はない。すべてウーノートの血だった。
子供たちは私を見て怖がり、泣き出し、逃げ出す。
モンスターの時もそうしてよと思いながら、私はとぼとぼと家に帰り、声をかけようとしない両親を見て、私は家を出た。
束の間の幸せではあったけれど、それでも両親には感謝している。だから迷惑をかける前に家を出たのだ。
私は普通の幼女ではない。前の世界で30歳まで生きたおばちゃんだ。それに、モンスターを倒してしまえる力も持っている。
それからはひたすら出会うモンスターを狩りまくった。盗賊も、人さらいも混じっていたけれど、それもお構いなしで全員返り討ちにしていった。
街で素材を換金して、宿に泊まって、ほとんどは野宿で、武器は拾って、防具は買って。
果ては小さめのドラゴンをも一人で倒してしまった。
ただ、安心して暮らせる場所を探していたはずなのに。随分と遠いところまで行ってしまった。
10歳になって、初めてアース連合というものを知った。
どうやら私と同じような人たちが集まっているらしい。そう聞いて私は気晴らしにアース連合の拠点へと向かった。
そこで出会ったのが、今のかけがえのない仲間たち。
数百人と集まったその集団の中に、私と同じ国の人はそのうち10人ほどしかいなかったけれど、それでも同じ世界から来たということで、話が合うことがたまらなくうれしかった。
救われた。今こうして楽しい毎日を過ごせているのは彼らとの出会いのおかげだ。
だからこうして今日も、相方の赤木とともに任務に励んでいる。
精神年齢的にはもうおばあちゃんだけれど、それでも衰えないこの体。時を同じく過ごす彼らと、幸せな日々を続けるために、私は進むのだ。
「・・・それで、どこが嘘?」
「全部嘘。」
アリアはそういうと、鳥串を頬張ってもぐもぐと口を動かす。
「私は貴族の娘だし、怖い経験なんて全くなしで、モンスターの集団全滅させたし。それに前の世界では30歳じゃなかったし。」
「じゃあ何歳だったんだよ。」
赤木が酒をあおりながらそう聞くと、アリアはさらっと答えた。
「80歳。ひ孫がもうすぐ見れるところだったんだけどね。」
「・・・まじで?」
アリアは目を細めてからかうように笑う。
「さて、どうかしらね。」
久しぶりの赤木&アリアの出演でした。
本編ではないですが。
以上、エイプリルフールネタでした!