間章 言葉足らずな2人
少年は初めから無口だったが、少女は保育園での出来事から出来るだけ目立たないように振る舞うようになった。
それは保育園を卒園し、小学校を卒業しても変わらなかった。
それでも2人は一緒にいるのが当たり前で、少年は少女をいろいろと助けていた。
少女も無意識にだが、少年にかけがえのないものを与えていた。
少年は彼女を護るためにそばに居続け、少女はいつもそばで守ってくれる少年を必要とした。お互いに一緒にいたいと言ったことはないが、言わなくても分かっていた。そばにいるのが一番良いってことを。
2人の世界は中学生になっても共有しているものが多かった。
少女の両親はいわゆるオタクで、彼女の家には沢山のマンガやアニメがあった。両親の影響で彼女もそういったものを少年と一緒にたくさん見てきた。
アニメを観始めたのは保育園に入る前からだったが、中学生になっても飽きてはなかった。むしろ、中学生になって観れるものが増えてさらにはまった。
少女は幼い時からマンガやアニメを見続けてきたためか、想像力が豊かだった。目立たないように静かにしている分、頭の中で考えることが多くなったのも原因の1つだろう。
また少年は付き合いで少女と観るものの彼女ほどははまってなかった。それでもヒーローが出て来る作品には心が震えた。
2人でいろんな世界と考え方を知った。
魔法や異能力が存在する世界や、人間以外の知的種族がいる世界。自分たちが住む世界と同じような世界が舞台でも都会だったり田舎だったり、近未来的だったと全然違った。
また同じような世界観でも登場人物によって印象が変わる。
楽し気な女生徒の日常を描いたもの、熱くなるようなバトル、殺人事件の犯人を捜し、人生について深く考えたりするもの。
いろんな物語によって、少年が憧れたヒーローは彼に無力感を覚えさせ、少女の培われた想像力は彼女に不安な未来を思い描かせた。
それらの物語の世界に浸っている間は幸せなのに、自分のことを考えると目が覚めた。
少年はそれまで気づかなかった。個人の力で出来ることの限界を。自分が一般的な存在で、ヒーローのような力なんてないという無力感を。
少女はそれまで知らなかった。人の醜さや愚かさのような汚い感情を。自分がいじめられやすい存在だと言う事を。
そしてやがてくる出来事が2人にまた大きな影響を与える。その時に選んだ選択は、お互いにお互いを想ってのことであったが、それが正解になるとは限らない。
親密な関係だったからこそ言葉足らずでもここまでやってこれた。だけど、本当に大切なことは言葉にしなくては通じない。
少年は気づいてしまった自分の無力さに。
少女は想像力の生み出したいじめに怯え始めていた。




