笹に願いを、ニートに仕事を
なぞなぞをしよう。
昔話だ。
「昔々あるところに、働き者の男と働き者の女が居ました。二人は働きを認められ、結婚することが許されました。しかし二人は、結婚して幸せを手にすると、途端に働かなくなり、つまりニート生活を始めグータラグータラと時間を貪り、金を浪費し誰の役にも立たない人間になりました。それを怒ったどっかの誰かによって、二人のニートは遠い川の向こうへと引き離されてしまいました。さあ。このニートはだーれだ」
「織姫と夏彦をニートとかいうな!!」
「おお、驚いたな。夏彦って名前を知ってるのか。なかなか学があるじゃないか、凛五」
「ウチの方が驚いたよ! どこの世界に七夕伝説をニート生活に例える奴がいるのさ!!」
「でも間違ってないだろ?」
「大間違い! このニートはだーれだ、とか言ってる時点でヒトとして大間違いだから!」
そこまで否定されるのか。的を射た分かりやすいたとえだと思ったのだけれど、凛五はそれが気に召さないらしい。
「分かった、僕はヒトとして間違っててもいいから、織姫と夏彦をそんなに責めないでやってくれ、織姫と夏彦にだって心はあるんだ」
「なんでそうなった!!? ウチが責めてるのはニートでも織姫でも夏彦でもなくてりょうくんだよ!!」
僕が責められているらしい。僕の名前はりょうではなく、里王だが……とても適当に発音するとなんとりょうになってしまうんだよ!! らしいですよ。
「分かった分かった、もう時間もないし、無駄話はこの辺にして、予定を遂行しようじゃないか」
「なぞなぞなんてしだしたのは誰かな? あと、予定って何かな?」
「なんだよ、ちゃんと予習してこないからそうなるんだぞ」
「何を!? ウチは夜の十一時過ぎだと言うのにいきなり呼び出されて出て来ただけなんだけど!?」
「それだから凛五はだめなんだよ。何事も先を見据えて行動しないと、織姫と彦星みたいにニートになるよ」
「理不尽だ……りょうくん……七夕に恨みでもあるのかい?」
ないよ。これからあやかろうというのに、恨みなんてあるはずない。
「だってあいつら、自分たちがだらしないから遠くへ離されたのに。「可哀そうな二人……年に一度くらいは幸せに過ごしてね」みたいな扱いされてて気に食わないじゃん」
おっと、思っていたことと少し違うことを話してしまった。まあ……いいか。
「すごいこと言っちゃうね……」
「うん……だから、気に食わないあいつらに、僕たちの願いでも叶えてもらおうよ」
先祖の霊が宿る依代である笹の木を立てる。近くの林から切って来たばかりだから、まだまだ夜にも映えるくらいには青い。
「ぅわ、笹じゃん」
「笹だよ。食べるかい?」
「食べれない!」
「じゃあ、今年ニートに願う一つ目の願いは『笹が食べられるようになりますように』だな」
「好き嫌いを克服したい子どもかっ! それと、『一つ目の願い』って、織姫と彦星をどれだけ働かせる気だよっ!」
「だってニートだよ? 年に一度くらいがんばって働くべきだろ」
「だからニートじゃないよっ! なんでそれが通説みたいになってるのさ!」
凛五はなんとしても奴らを働かざるものだと認めたくないようだ。正直僕はどっちでもいい。
「じゃあ、どうするのが正しいんだよ」
「普通にお願いごと書いて笹に吊るせばいいじゃん。それで花火でもやったら楽しいじゃんっ。それが正解だよ!」
花火がしたいらしい。……。
「お願い事を吊るすって、なんか自分の願いを拷問にかけてるみたいだな……」
「なんでそんなこと思っちゃったっ!!!?」
思い付いてごめん。
「思ってしまったんだから仕方が無いだろ。あれだよ、生理現象だよ」
「でも言う必要はなかったよね?」
せっかく思い付いたのに、言わなかったら面白くないじゃないか。
「わかったわかった、もう言わないよ。そろそろ七夕が終わっちゃうし……願いを吊るそう」
「なんか言い方に悪意がある……」
凄みでも出そうとしているのか、漫画版で「ギロリ」とか言う効果音を書いてほしいのかは分からないが、下手くそに細めた眼で僕をにらみつつぶつぶつ言っている。
とりあえず一枚くらい、今日の内に書いておこう。時計も持ってないし、携帯電話なんて洒落たアイテムも僕らは持っていないから時間を確認する術が無い。もしかしたらもう七月八日になっている可能性もあるが……まあ、それは重要なことではないだろう。
「凛五、書けたか?」
「うんっ! りょうくんは?」
「僕も完璧だよ」
「どれどれ?」
『なんかいいこと起れ』
「大雑把! これじゃお星様もどうしたらいいのか分からないよ!」
「だってさ、知ってるだろ? 僕の運の悪さを」
「いや、まあ知ってるけど……十年続けた陸上で毎回トラブルに巻き込まれて試合会場にたどり着けたことが無くて公式記録を持たないまま高校で引退した伝説とか知ってるけど! これは酷過ぎないかい!?」
説明ありがとう。
「僕くらい不運な奴には、こんな願いでいいこと起こしてくれてもいいと思うんだ」
「お星さまは知ったこっちゃないと思うよ」
「なら、あいつらはニートと呼び続ける」
「脅迫!?」
多分そんなこと来週には忘れていると思うけど。
「凛五はなんて書いたんだよ……どんな願いを吊るし首にするんだよ」
「どうして言い直したの! どうしてわざわざ不正解に言い直したの! 吊るし首になんてしないよ!」
「じゃあ打ち首か……?」
「処刑から離れて!」
じゃあ。
「寝首を……掻く?」
「なんで殺しちゃうのっ! ウチは普通にお願いするよ、吊るすだけだよ」
首の話題はそろそろいいか。では本題に。
「そうか。で、結局なんて吊るすのさ」
「まだ言い方が引っ掛かるけど……はい」
「どれどれ?」
『りょうくんとこれからもずっと楽しく過ごせますように』
「凛五……」
「うはぁなんか照れて来たよ、もう早く吊るしちゃお」
「ずっと楽しく――なんて、ちゃんと働かないと織姫と夏彦みたいにニートになるぞ?」
「だからニートって言うな! このあほぉぉぉおおおおおお!!!!!!」
やあやあ、織姫さん。
やあやあ、夏彦さん。
僕の友達はこんなことを言っているよ。願っているよ。
もしも、怠けたことを反省しているのなら。
逢引しているところ悪いんだけど。
ちょっと働いてくれないかな。
笹に吊られた願いを叶えてくれはしないかな。
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読了ありがとうございました。
実はこの作品、まだ書きあげていない作品のサイドストーリーとして作りました。本編は鋭意制作中です。
嘘つきで冗談ばかり言っている少年の、本音はどこにあるのでしょう。
2014年7月7日深夜
・追記
織姫星殿、夏彦星殿。
本当にごめんなさい!!
2014年7月8日夜明け前