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05

思い切って髪の毛を切った次の日、私はいつもより30分も早い電車に揺られて学園まで来た。

昨日は遠足の前日みたいにわくわくして眠れなくて、かと思えばいつもより1時間も早く目が覚めた。お前は小学生かってツッコミをしたくなる程の単純さだ。


いつもより早い電車の中はラッシュより少し前の時間帯で適度に混んでいたものの座ることが出来た。サラリーマンの他に鈴ヶ森学園とは違う制服を着た高校生が何人もいて、私の座る座席の向かい側には隣の市にある工業高校の男子学生が2人座っている。


「あ~、鈴学って可愛い子が多いって聞くけどアレは無いわ~」


「完全に制服負けじゃん」


「自分の体型見てから高校選べっての」


ヒソヒソと音量は押さえてあるものの明らかに誰かを卑下した会話に顔を上げれば、向かい側に座る男子学生が不自然に顔を逸らした。


もしかして、私のこと……?


電車が停車駅に着いてからも気になって降りた時に後ろを振り返れば、さっきの男子学生がこっちを指差して笑っていた。


何あれっ!!


確かに私は太ってますよ。顔だってニキビはあるし奥二重だし可愛くないの知ってます。だからってあんた達に言われる筋合い無いからね。それにあんた達も人のこと言えるほど格好いい訳じゃなかったから!

そう1人愚痴っていても、冷静になるとただ虚しいだけだった。


それにさっきの男子学生も強ち間違ったことを言っていない。

でも、いざダイエットをしようと思っても両親やたっちゃんに「太ってないよ」とか「これぐらいが可愛いよ」などと甘い言葉を言われ、私もまだ大丈夫だよねと変な自信を付けて痩せるのを諦めてしまうのだ。

ふと下を見れば、スカートのウエスト部分に乗るシャツに隠れた贅肉が見える。それと一緒に少し短くなった髪の毛が揺れた──……




その日から私はダイエットを始めた。

料理はお母さん任せだったからお肉中心から野菜中心の食事へ協力してもらい、腹八分目を意識して間食も止めた。

お風呂でのストレッチや、寝る前の腹筋やスクワット、腕立て伏せなど苦手な運動も始めた。

甘い誘惑をしてくるお父さんには如何に私にダイエットが必要なのか説き伏せて自転車を買ってもらった。これからの登下校は電車通学では無く自転車通学だ。


いきなり痩せるとリバウンドが怖いから1ヶ月-3kgを目標に。


以前の私なら3日坊主で止めていただろう。しかし、ある意味人生2回目の今なら社会に出てからの見た目の重要性を知っている。

そのため、ダイエットと一緒にスキンケアにも気を使った。今から若さに甘えていると後々後悔するからね。

そして早くも1週間で体重は-3kg。上々だ。

初めはヒィヒィ言って筋肉痛が酷かった片道30分の自転車通学も、今では周りの景色を楽しむ余裕が出てきた。毎日履いているスカートのウエストが少し緩くなったし、おでこのニキビも劇的に減っている。

たった1週間だけど、朝と夕の体重測定は楽しみになって鏡を見るのが嫌いじゃ無くなった。


最近はお母さんの料理の手伝いをするためにキッチンに立つことも多くなった。初めの頃は包丁も使わせてくれていたのに、持ち方が危ないとか切り方が雑とかで徐々に持たせてくれなくなった。

お母さん曰わく、心臓がいくつあっても足りないと包丁禁止令が出てしまった。

蘇った記憶の中では主婦業していたはずなのに不思議だ。


「お母さん、このタッパーに入ってる煮物冷めたけどどうするの?」


「あぁ、それはお隣にお裾分けの分よ。届けてくれない?」


ウチのお隣と言えばたっちゃんの家だ。行きたい。でも昔から感が良かったたっちゃんにダイエットをしてることがバレた時、お父さんの様に説き伏せられる自信がない。

サッと渡して帰ってくれば良いんだろうけど、逆に鈍くさい私がどこでボロを出すか。


「ダイエットしてること、まだ達也くんに言ってないの?」


「うっ、だって反対されたらと思うと……」


「何よ煮え切らないわね。まぁいいわ。お母さん行ってくるからお鍋だけ見ててね」


そう言ってお母さんはエプロンを外しさっさと出て行ってしまった。


せっかく順調に痩せているのだから途中で諦めずに続けていきたい。痩せた姿を見せればたっちゃんだって反対しないで分かってくれるよ、きっと。

それに劇的に痩せる訳じゃないから気が付かないかもしれないし、このまま調子に乗らず地道に頑張って行こう。

単純な私はお鍋をかき混ぜながら明るい人生設計をニヤニヤと思い描いていた

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