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04

「今日は2週間後に控えた体育祭の参加競技を決めたいと思います」


クラス委員長、佐藤くんの説明を背に私は体育祭で行われる競技名を黒板に書いていった。

先日の委員会決めで私は副クラス委員という役に就いた。自薦他薦を問わないという言葉に誰も手を挙げなかったため、たっちゃんの独断と偏見で決まってしまったこの役職。絶対パシリにするために押し付けたんだと私は決めつけている。

本人にその後確認しても誤魔化されたし。


そんな訳で、不名誉ではあるが決まった以上真面目に仕事をこなしていく。

今回のHRの議題は4月の最終日に行われる体育祭の種目決めだ。体育祭と言ってもクラスの親睦会を兼ねた簡単なもので、競技も少なければ午前中で終わってしまうという代物。

しかし、1人1つは必ず競技に参加しなければならない。


競技は借り物競走、障害物競争、100m走に200m走。男子のみの棒倒し、逆に女子のみの玉入れ。体育祭の花形、男女混合リレーと定番の競技で構成されている。


教室全体が何に出るかザワザワしている中、私はひとり障害物競争に目を奪われていた。なんとその内容を見ていくとTVで見た時から憧れていた飴玉探しかあるではないか。顔を真っ白にした芸人さんの顔を思い出す。

スムーズとはいかないものの段々と競技が決まっていくが、逆になかなか決まらない競技もあり委員長が困っている。そんな姿を無視して障害物競争の所にそっと自分の名前を書いておいた。




それから体育の授業は体育祭の練習を兼ねたものになった。リレーの練習をしたり走り込みだったり。そのうち障害物の練習もするみたいだ。


「よーし、今日は全員でリレーの練習をするぞ!」


米島先生は高らかに叫ぶと100mのタイムを考慮した即席のリレーメンバーを発表していく。

平均体重+10kgとちょっぴりではなく普通にぽっちゃりな私は運動が苦手だ。だから同じメンバーになった人たちの足を引っ張らないようにするのに頑張った。たかがとは思うかもしれないけれど、全力疾走の100mはキツい。


「おー、野口。頑張ってるな!」


先程走り終えたばかりで肩で息をする私とは逆に、米島先生は爽やかに白い八重歯を輝かせながら近付いてきた。

今日は暖かく、特に走り終えたばかりだからじわっと汗が出る。2つに結んでいるとは言え、乱れた髪が顔や首に張り付いて気持ち悪い。ハンカチで汗を拭きながら髪を結び直す。


「野口は体育祭に出るのは障害物だったな?

 ネットを潜ったり四つん這いになったりするから髪、気をつけろよ!」


結ぶ姿を面白そうに見ていた米島先生は、また白い八重歯を輝かせながら今度は逆に去っていった。

普段は三つ編みか2つ結びにして登校しているけど、体育祭の時はまとめないと踏んじゃいそう。


そうだ、切っちゃえば良いんだ!


なぜそんな単純な事に気が付かなかったのか。思い立ったら吉日とばかりに、放課後を待って部活に向かう理恵ちゃんと智ちゃんに別れを告げ、そのままお世話になっている美容室に向かった。


髪は長ければ長いほどお金と時間がかかると思う。美容室で月1回はトリートメントするし、シャンプーとコンディショナーはすぐに無くなる。洗った後は乾かさないといけないから毎回ドライヤーで乾かしてと、良いことなんて無い。


いつも行く美容室は最寄り駅の駅ビルにお店がある。思い付きだったから予約しないで行ったけど、平日の放課後すぐということもあって待たずにいつも担当者してくれているお姉さんにお願いすることができた。

お姉さんはしきりに「勿体無い」と言ってくれたけど何の思い入れも無いしばっさりと切ってもらった。

本当はショートにしたかったけど、お姉さんの他に周りのスタッフさんも必死に止めるので肩甲骨辺りまでにした。ついでに微妙に長かった前髪もスッキリ切ってもらうと、鏡の中にはまるで別の人みたいになった私の姿があった。


「うん、可愛い」


お姉さんも仕上がりに満足なのか優しく微笑んでくれた。なんとなく恥ずかしくて下を向けば、目の前に大量の髪の毛が落ちていた。


「これって、私の髪の毛ですよね? なんかカツラでも出来そう……」


「そうだねー、真由美ちゃんの髪は綺麗だから世が世なら高く売れたんじゃないかな?」


なんでも昔はカツラや人形の髪の毛など、本物の髪の毛を使っていたそうだ。人間の髪の毛を使われた人形なんて呪われそう。

なんてお喋りをしながらお姉さんにお礼を言って代金を払うと、私はそのまま1階にあるフードコートに向かった。


お目当てはクレープである。

私は2人掛けのテーブル席に座ると、鞄を反対側の椅子に置いてから大好きなイチゴチョコ生クリームにかぶりついた。


美味美味。


イチゴとチョコと生クリームの組み合わせは最強だと思う。世の中ではバナナチョコ生クリームのクレープの方が人気はあるみたいだけど、私はどうもバナナのあのネチョっとした食感が好きになれない。

あっという間にクレープを完食した私は、身も心も満たされて足取り軽く家に帰った。




帰った私を待っていたのはお母さんの絶叫と、お母さん以上に落ち込むお父さんの姿だった。

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