03
入学式の次の日、つまり今日はクラス毎で行われる学園案内と委員会決めがある。学園案内で攻略対象キャラ全てと顔合わせをし、その後で決めた委員会で好感度が少し上がるのだ。
受け身でいてもあっちから来てくれるのはありがたい。
「今から学園を案内する。順番は適当で構わないから男女別れて2列に並びなさい。他のクラスもいるから私語は慎むように」
たっちゃんの指示で廊下に列を作る。同じように他のクラスも廊下にいる所を見ると、新入生が一斉に学園案内に行くみたいだ。
ゲーム上での顔は知ってるし、人混みになるなら平均身長以下の私は埋もれてしまうと思って列の後ろの方に並んだ。
「えっ、野口さん。後ろで大丈夫!?」
私のすぐ後ろに並んでいた女の子に声をかけられたけど、昨日の出来事のせいでクラスメートの顔は一切覚えていない。頭の中ははてなマークでいっぱいだ。
「あ、突然ごめん。あたしは、野村 理恵。野口さんの後ろの席なんだ、よろしく!」
そこにいたのはポニーテールが似合う女の子。
「うん、よろしくね。学園の中はそのうち覚えるだろうし、私が前にいても潰されそうだから……」
「そうなんだ。あ、わたしは新井 智子。よろしくね」
もう1人、野村さんの後ろにいたのはニコニコ笑顔の女の子。
2人とも背が高いから列の後ろを選んだのだろうが、真逆の私を心配して声をかけてくれたのだった。
記憶の中に2人の名前は無いから、私と同じようなモブキャラかな?
列を崩さない程度に3人でお喋りしながら学園内を歩いて回る。クラス毎に回るルートが違っていたので、1学年8クラスある割りにはそこまで人混みは出来なかった。
そして、各教室に待機していた攻略対象キャラは全員がイケメンだった。
私たちのクラスは特別棟から回るルートだったので、まず出会ったのは髪を明るく染めたチャラ男の美術教師、村重 学だった。
実はこの先生、たっちゃんと高校時代からの友達で私も顔見知りだったりする。2人で呑んだ日はいつもたっちゃんの部屋に泊まるほど仲良しなのに、たっちゃんにそう言うとなぜか怒られる。
次に行った体育館で待っていたのは熱血の体育教師、米島 優。新任の先生で、童顔で背も低いことから生徒たちは友達みたいにフレンドリーに接する。八重歯がチャームポイントだ。
次は俺様の保険医、柏井 健太郎。大病院の次男坊で、色々な女子生徒と噂が絶えない自由人。当たり前だがこの噂はただの噂で、整体をしているだけという無理矢理なオチがつく。
最後は癒し系かと思ったら腹黒な英語教師、堀家 ナオキ(ほりいけ なおき)。フランス人とのハーフだけあって表現がストレートで好感度が1番早く上がるのだが、どの生徒に対しても同じような態度だからいまいち違いが分からないキャラだった。
分かってはいたのだが、攻略対象キャラ全員に会わされてなんだか色々と濃い学園案内だった。
疲れた……。
ちなみに、たっちゃんはドSキャラ。私に優しいたっちゃんがドSとは信じられないが、愛野さんを好きになったら変わるのかな。
「2人は委員会に入る?」
教室に戻ってからも3人でお喋りしつつ、気になったことを聞いてみた。
「あたしは部活動推薦だから無理ー」
「わたしもバスケ部のマネージャーする予定だから入らないよ」
この学園は部活動に力を入れているため、部活に入部する生徒に委員会は強制しない。もちろん両立も出来るが基本的に帰宅部に入るような人たちで決まってしまう。
私はどうしようかな。部活に入る予定も無いけど、攻略対象キャラとの好感度を上げる必要ないから入りたい委員会無いし。
「それでは今から委員会を決める。まずはクラス委員だが立候補者はいないか? 推薦でも構わないぞ」
……。
…………。
………………。
案の定、誰も手を挙げない。余程の自信がない限り自分から手を挙げる勇気ある者はいないだろう。誰かを推薦するのだって昨日の今日ではその人柄は分からない。このまま時間を無駄に過ぎるのかと思っていたら、たっちゃんは爆弾を投下してくれた。
「誰もいない様ならこちらから指名する。クラス委員は佐藤、副クラス委員は野口だ。拒否は認めない。
それでは他の委員会を決める。立候補者はいないか?」
えっ? 副クラス委員は野口……?
生憎、このクラスに野口は私1人しかいない。まさかと思って黒板を見ると副クラス委員のところに野口 真由美とフルネームできちんと書かれてあった。
他の委員会が次々と決まる中、私は後ろにいる理恵ちゃんに肩を叩かれるまで現実を受け止めることが出来なかった。
ちなみに、愛野さんは好感度が攻略対象キャラ全員に均等に振り分けられる風紀委員のところに名前があった。このゲームに逆ハーレムエンドは無かったから、誰を攻略するかまだ決まってないのかもしれない。