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01

──春、憧れだった「私立鈴ヶ森学園(しりつすずがもりがくえん)」の制服に身を包んだ私を待っていたのは、前世の記憶を思い出すという衝撃的な出来事だった───




 桜色に染まった通学路を真新しい制服に包まれた学生達が歩いている。

 親と一緒に歩く人、友達とお喋りしながら歩く人、誰も彼も希望に満ちた表情で今日の空の様に晴れ晴れとしていた。

 ちなみに私、野口(のぐち) 真由美(まゆみ)もその1人だ。

 生憎と両親は仕事上の関係で入学式に来れないけれど、可愛いと評判で着るのにちょっと勇気が必要だった制服は似合っていると褒めてもらえたし、朝食後にリビングで親子3人の写真は撮った。

 わくわくしながら今日のために装飾された校門をくぐり、人の流れに沿って真っ直ぐクラス発表されている掲示板に向かう。

 人混みにうんざりしながら自分のクラスを確認すると1ーBに名前があった。






 入学式が終わったばかりの教室は騒がしい。

 同じ中学校から来た者同士で話している人や新しい友達を作ろうと色々な人に話しかける人など様々で、担任の先生が入ってくるまで大人しく席に着いて待っている人はほんの一握りしかいなかった。

 もちろん私はその少数派だった。

 同じクラスになった元同級生は顔は知ってるけど名前は知らないってレベルの男の子2人だけだったし、中学時代に友達の少なかった私には自分から話しかけるという上級行為が出来なかった。


 そんな状況が嫌で早く先生が来れば良いのにとか思っていると、タイミング良く教室のドアが開いて担任の先生が入ってきた。

 そこにはダークグレーのスーツに身を包み、背も高くいわゆるイケメンに分類される男の人が立っていた。


「早く席に着きなさい」


その先生から発せられた声は厳しく先ほどまで賑やかだった教室を一瞬で静かにし、席を離れていた人たちは一目散に自分の席に戻っていった。

教卓の前に立つ先生のシルバーフレームの眼鏡に縁取られた瞳は鋭く、眉間にシワも寄っている。一目で怒っていると思われる表情をしているが私は知っている。これは怒っているのでは無く緊張しているのだと。


先生の名前は、石口(いしぐち) 達也(たつや)


彼は私の住むマンションのお隣さんで、いわゆる年の離れた幼なじみだ。

私はこの事実に驚きよりも嬉しさの方が勝っていた。何故なら、この幼なじみは昔から私に甘かった。だから私はこの時まで、この1年は楽しい高校生活が送れるものだと確信していた。


教壇に立つ石口先生は黒板に自分の名前を書き、簡単な自己紹介を始める。


「先ほど入学式でも紹介されたが、これから1年間君たちの担任をする石口 達也だ。担当教科は数学。もちろんこのクラスも受け持つことになっている。以上だ」


淡々と自分の事を話す石口先生に誰も口を挟めない。女子生徒の熱の隠った視線も無視。


「では君たちにも簡単な自己紹介をしてもらおう。出席番号1番から始めて」


「はい」と席を立った出席番号1番さんはそれはもう可愛い子だった。ぱっちりとした目に緊張からかほんのり赤みがかった頬、肩まで伸ばされた髪には天使の輪が輝きサラサラと揺れていた。

彼女の名前は、愛野(あいの) (めぐみ)と言った。






その名前を聞いた瞬間、私は頭が割れるように痛くなった。そして次に襲ってきたのは自分の意思とは関係無く流れてくる莫大な記憶と言う名の映像だった。


さっきの入学式から始まり中学生時代に小学生時代、幼稚園から赤ちゃん。さらにあり得ないことに生まれる前の記憶まで流れてきた。

天寿を全うしたらしい私。孫に囲まれて笑い、娘が生まれた時は泣いて。結婚式にOL時代……


そこでまで来て私はOL時代の記憶に目が奪われた。仕事から帰ってきた私はお風呂もそこそこにあるゲームを起動させていた。


ゲームのタイトルは「教えて My teacher!~放課後の秘密授業~」


何とも恥ずかしいタイトルだが私はこのゲームが大好きだった。仕事の疲れはもちろん上司への不満や後輩が起こした面倒事など、このゲームで癒していたっけ。


このゲームは主人公である愛野 恵が私立鈴ヶ森学園で高校生活を送る中で勉強や運動と自分のスキルを上げ、攻略対象キャラである5人の先生とのイベントをこなしながら好感度を上げていくというものである。

2年生に上がると先生から告白されて、OKすれば先生と生徒の誰にも言えない秘密な関係が始まる。さらに私が驚いたのはこのゲームが大人向け、いわゆる18禁ゲームだと言うこと。

ゲームの世界では許される事でも現実世界では大問題だ。詳しくは知らないけれど18歳未満とは付き合っちゃいけないんじゃなかったっけ?


初めは小さかった手足の震えが体全体に広がっていき、今顔は真っ青になってることだろう。



どうしよう。


どうしよう。


どうしよう……──



なぜこんな記憶があるのだろう。

私はそれからの話もろくに聞かず、混乱する頭のまま石口先生の視線から逃げるように学園を後した。

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