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 生まれ変わったら猫になりたい。


 え?なんでかって?

 だって楽そうじゃない。

 日がな一日ごろごろして、人間なんかに媚びずに、でも好きなときに擦り寄って、それが許される。

 身軽で気ままで自分を世界の王様とでも思ってそう。


 あ、もちろんなるなら飼い猫ね。

 人間にご飯貰って一日ごろごろして過ごすの。

 外になんか出ずに、家猫として。

 至福だと思うのよ。熱くも寒くもない部屋でさ。一日快適。

 具合が悪くなったら病院にも連れて行ってもらえるし。

 いいものも食べさせてもらえる。

 ずいぶん前に遊びに行ったクラスメイトの家で見た猫は私が普段食べている肉よりもいい肉を貰っていた。

 あれには人としてへこんだ。


 とにかく猫がいい。

 怖いことも悲しいことも痛い思いもしない。

 え?猫ライフに夢を見過ぎだって?

 でもどっちにしても今の私の生活よりはずっとましな気がするのよ。

 正直人間はもうこりごりだ。

 自分より弱いものを見れば、容赦なく痛めつけるし。

 弱っても誰も助けちゃくれない。

 自分よりはるかに高い塀を平気で飛び乗れるくらい身軽で自由。

 生き方を押し付けられたりせずに自由気ままで、誰にも媚びない世界の王様。


 生まれ変わりがあるなら私は猫になりたい。


 そうぼんやりとつめたい雨の降る暗黒の空を見上げた。

 星はもちろん見えない。分厚い雲に覆われた空を見上げる私を強いライトが照らす。

 誰かがわたしを見下ろしているのがわかる。

 ぼやけた視界ではそれが中年らしいおっさんだということしか分からない。


 しかしそれもすぐ視界から消え、ついでばたんという扉が閉まる音と走り去るエンジン音が聞こえた。

 ああ、くそ。どうやらひき逃げされたようだ。

 最後まで誰にも手を差し伸べてもらえないなんてなんてまったく運に見放されているとしか思えないな。


 ため息を吐こうとするが、ごぼりと空気の代わりに出たのは真っ赤な液体。

 喉に詰まりそうなそれを何とか顔を動かし吐き出す。

 たったそれだけの動作が意識を飛ばしそうになるほど激痛が体を支配する。

 ひどく息が上がる。いくら空気を吸っても楽にならない。

 ひゅーひゅーと喉が鳴っている。聞いたことのない自分の体の音にそう長くないのは分かる。

 わたしは終わる。


 あーあ、最後までついてなかったな。

 まったくとんだ人生だよ。

 貧乏で、お腹すかせてなけなしの百円でパンを買いに出た先で交通事故って。


 ついでにだんだんぼやけてくる視界。

 先ほど感じていた痛みももはや感じなくなっていた。

 指一本すら動かせず、私は空を見上げた。


 ねえ、神様。

 私こんな人生送った上に、こんな最後を迎えさせるなんてドンだけ私のことが嫌いなのかな?

 それともなに?

 生き返るとかあるの?次は飛び切りよい人生とか?

 …いや、もう人はこりごりだ。

 だからさ、神様。

 本当に貴方がいて、そして貴方が本当に慈悲深い存在なら。

 どうか生まれ変わりがあるなら私を猫にして。

 少なくとも人間はいや。

 人間なんかどうしようもない。

 人間なんかになりたくない。


 生まれ変わるなら私は猫になりたい。





 人間なんてどうしようもない。

 ……そんなことを思っていた時期もありました。


「ほら、シェインおいで」


 はいはい。ぼっちゃん、行きますよ。


 呼ばれて、外に向かおうとしていた脚をすぐさま戻して坊ちゃんの元まですっ飛んでいく。

 猫なで声をあげながらぼっちゃんにダイブ!


「うわっ!ちょ……シェインくすぐったいよ!」


 飛びつくなり坊ちゃんのぷにぷにしたバラ色のほっぺをぺろぺろする。

 齢六歳にして宗教画の天使もびっくりなぼっちゃんのやわらかくて綺麗な金髪の毛先が鼻先を掠める。

 ううん。今日も芳しい。さすがぼっちゃん。


 さて、普通に考えたらどう考えても私が人間だったら怪しいことこの上ない情景描写に驚いているかもしれない。

 誰が驚いているか、私は知らんがな。


 でも、それが猫だったらどうします?

 ええ、私は今念願の猫になってます!

 神様。ありがとー!


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