第1章 復活
第1章 復活
第1話 誕生
結界が揺らいだ。
4つの結界が揺らいだ。
かつての闘いで、眠りについた『命の欠片』だった。
彼らは闘いの時、自らの命と肉体に自己結界を張り精神のみで闘う。
結界を解けるのは、己しかいない。
今まで眠りから覚めたものはいない。
無数の欠片が眠っている。
その命の欠片が揺らいでいるのだ。
最初に気付いたのは、エシだった。
眠りについているはずの結界の異変に気が付いたのは。
エシは、グザに報告に行った。
グザはこの集落の最長老であり、集落の纏め役だ。
その集落は、日本の八幡平の北部に位置する。
彼らは集団結界により人と隔絶した社会を営んでいる。
その時は来た。
結界の1つが解け、産声が聞こえた。
命の欠片が復活した。
グザは、この赤子をシナに預けた。
エシは、24歳。妻のシナは20歳。二人には生まれたばかりの赤子がいた。
この赤子もユーラから、授かったものだ。
乳母となったシナは、この眠りから覚めた欠片を我が子として育てた。
次々と4つの目覚めが起きた。
それぞれが、乳母に預けられ育てられた。
第2話 欠片達
この集落の欠片達も、人と同じように食物を食す。
時々、結界の外に出て、自然の植物を集めたり、狩りをしたりする。
欠片達は、それらにも命が宿っている事を知っている。
だが、その命が何処からくるのかは知らない。
何処へ帰るのかも知らない。
知っているのは、自分達がユーラの欠片だという事だけだ。
だが、同じ命である事は伝え聞いている。
この欠片達の間に争いはない。
自らの命を尊び、他の命も尊ぶ。
生きる事が罪深い事も知っている。
尊びながら、他の命を食す。
彼らが人と違うのは、言語を用いない事だった。
テレパシーで、会話をする。
必要の無い時は、閉じる。
開いている時、暗示をかける事ができた。
多くの場合、何かで傷ついたものを治療するために使われた。
薬草の知識もあるが、自己免疫力が治癒を行った。
そして、5感が異常に優れていた。
それ以上に優れていたのが、感覚であった。
1つの情報、未知の情報から多くの情報を得る事ができた。
狩りの時動物を金縛りにする程度だが、念動力も持っていた。
彼らが天寿を全うし旅立つ時、ユーラに還る。
かつての勇者達は、今とは桁外れの能力を持っていたらしい。
血を重ねる度に、力は弱くなっていったようだ。
目覚めた欠片が10歳になった時、ユーラからメッセージが届いた。
それは、名前だけだった。
ミチヤ
クラサ
オウシ
トーヤ
第3話 目覚めた者
この集落では、10歳になると一人前と見なされる。
4片は、集落のユーラを祭る神殿に行った。
ここで儀式が行われる。
その時、4片は何者かに引き摺り込まれた。
周囲のものは、唖然とした。
かつて、このような事はなかったのだ。
別空間に放り出されたようだ。
様々な試練が待ち受けていた。
肉体的な試練。
精神的な試練
いつ果てるとも分からない試練が続いた。
4人は、お互いを励まし、それを乗り越えた。
それは、周囲のものには、一瞬としか感じなかった。
だが、戻ってきた4片は、逞しく成長していた。
りっぱな20歳前後の若者に見えた。
そして、手にはそれぞれ何かを手にしていた。
ミチヤは、冠を。
クラサは、玉を。
オウシは、剣を。
トーヤは、鏡を。
第4話 訪問者
ミチヤは、判断力が正確に素早くなっていた。
最長老のグザの経験を持ってしても敵わない。
クラサは、近未来を予測できるようになっていた。
吉兆、災厄の予測がぴたりと当った。
オウシは、念動力が桁はずれに強くなっていた。
肉体も軽く2mを越し、腕力も強くなっていた。
トーヤは、欠片達が自分を閉じても心が読めるようになっていた。
命の種の違いが分かるようになっていた。
クラサが、予言した。
「近いうちに訪問者がある」
気付いたのは、トーヤだった。
「ユーラの欠片が、結界の傍らにいる」
迎えのものが、その欠片を連れてきた。
「私は、マーサ。ユーラの導きでここに参りました」
彼らが持つ宝器は、共鳴し言葉を発した。
「集え」
ミチヤは、マーサの集落に赴く事にした。
第5話 出雲
ミチヤには、何の違和感もなかった。
その集落はミチヤの住む集落と何ら変わったところはなかった。
目覚めたもの達がいた。
サムシは、布を。
カクトは、旗を。
ミーサは、眼を。
マーサは、椀を。
サムシは、論理的な思考の持ち主だった。
彼は論理的に事象を考え、判断を降した。
カクトは、どのような能力を持つのか明らかではなかった。
だが、作業の指揮能力は群を抜いていた。
ミーサは、透視能力を持っていた。
居ながらにして、全てを見る事ができた。
マーサは、テレポーターだった。
一人まで、同行する事ができた。
彼らが持つ宝器が、また共鳴し、言葉を発した。
「大和へ」
第6話 大和
ミチヤとマーサは、大和へ向かった。
大和では、宝器が共鳴していた。
長老には、何が起こっているのか分からなかった。
共鳴を起こしている場所へランサを向かわせた。
彼らが持つ宝器が、また共鳴し、言葉を発した。
「仲間。」
シンクは、紐を。
ランサは、箸を。
ユキムは、雪を。
テンエは、袋を。
シンクは、強力で、広範囲の結界を張る事が出来た。
集落の集団結界の比では、なかった。
ランサは、テレポーターだった。
誰も同行する事は出来なかったが、月まで行った事がある。
ユキムは、浄化者だった。欠片達に安らぎを与えた。
人にも与える事ができるのだろうか?
テンエは、転送者だった。
ここにある物質を何処かへ。
何処かにある物質をここへ。
ただ、命は転送できなかった。
長老は、結界の中にミチヤとマーサを迎え入れた。
彼らが持つ宝器が、また共鳴し、言葉を発した。
「旅立て」
ミチヤに、ある書物が渡された。
この集落に古来より伝わる書物だった。
紙に書かれているのではない。
念紙に書かれていた。
この集落に、その念紙を読めるものはいなかった。
この種族の歴史の断片が、書かれていた。
第7話 歴史の断片(1)
数百万年前、異なる命の欠片が地球を訪れた。
彼らは、他の命の欠片を探して旅をしているのだという。
ユーラは、歓迎した。
今までも、いくつかの命の欠片との出会いがあった。
しかし、彼らから還る先の事も、ましてや還る方法も得られなかった。
ユーラの悲しみをほんの少し癒し去って行った。
今回の欠片はユーラの悲しみを無くしてくれるという。
ユーラは、彼らの言うとおりに、自らの命を削り地上に放った。
放たれた欠片は、精神を紡ぎ、肉体を構成した。
彼女が持たないものを、彼らは持った。
彼女は、彼らを慈しんだ。
彼らの存在が彼女に喜びを産んだ。
それは罠だった。
今回の欠片の目的は、地球を支配する事だった。
彼らも同様に種族を作った。
ユーラのやり方を真似たが、うまく行かなかった。
彼らは、ユーラの欠片を騙し、他の生命体の遺伝子を操作した。
人の先祖となるものができた。
そのもの達は、不完全だった。
欲を持ってしまった。
知能を持ってしまった。
更に、支配されるはずのものが支配する事を覚えた。
ユーラの欠片達は、その欠片と闘った。
これ以上、命への冒涜は許されなかった。
闘いは、直ぐに収束した。
その欠片は、不完全なものを見捨て、何処ともなく去って行った。
不完全なものは、そのまま残った。
命を消す事はできない。
ユーラは、不完全さを取り除こうとした。
不完全なものは人と呼ばれた。
第8話 歴史の断片(2)
次々と異なる命の欠片が現れた。
彼らのほとんどが、地球を支配する事を目的とした。
ユーラの欠片達は、人の命を護る事に全精力を使った。
命の欠片は、直接物質世界に影響を及ぼす事はできない。
媒体が必要となる。
人を媒体とし、物質世界に影響を与える。
異なる命の欠片の助力で、人は凄まじい勢いで地球上に繁栄を築く。
もはやユーラの欠片達には、なす術も無い。
異なる欠片達は争い、残るもの、去るものに分かれた。
ユーラの欠片達も闘った。
繁栄と滅亡を繰り返し、残るものも欠片の一部を削り残し
何処かへと去って行った。
残った欠片達は、姿を隠した。
結界を張っているのだろう。
ユーラの欠片達は、闘いによってほとんどが眠りについた。
ユーラの悲しみは膨れ上がった。
だが、ユーラは望みを捨ててはいなかった。
生き残った欠片の存続と欠片の目覚めを願っていた。
第9話 集合
目覚めた者達は、皆集まった。
初対面のものも多い。
総勢12の欠片。
ミチヤは、歴史の断片を語った。
そして、共鳴から発せられた言葉「旅立て」。
彼らは、今後の行動について話し合った。
彼らのリーダーは、ミチヤとなった。
ミチヤは、今後の方針を示した。
「地球上の異なる欠片達を駆除する。」
「人から不完全さを取り除く」
「眠りについている欠片達をユーラに還す」
そして、旅立ちのメンバーを決めた。
ミチヤ
マーサ
オウシ
クラサ
トーヤ
ミーサ
そして、日本に残るメンバーも決めた。
リーダーは、サムシ。
シンク
カクト
テンエ
ユキム
ランサ
第10話 旅立ち
日本での彼らの役割も決めた。
「日本にいる異なる欠片の情報収集」
「結界要塞の構築」
「人の浄化」
「旅立ちのチームとの連絡」
情報収集は、カクトに任せられた。
彼は、3つの集落から有志を集め、情報収集を行う事となった。
要塞結界は、大和の近辺に造られる事になった。
担当するのは、シンクだった。
かれも人材を招集した。
浄化は、ユキムが担当した。
彼女は、大和を中心に『浄化の雪』を降らせた。
『浄化の雪』は、人の目には映らない。
浄化の雪は、支配欲と物質欲を人から取り除く。
テンエは、結界要塞内に必要なものを集めた。
物理的な要塞化も行われた。
ランサは、連絡役である。
定期的な連絡が、旅立ちチームとの間で行なわれる事になった。
彼らが持つ宝器が、また共鳴し、言葉を発した。
「チベットへ」