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奇妙な邂逅

二話を少し編集しました。

物語には影響しませんが、隼哉のセリフを「兄貴」から「兄さん」に変更しました。

また、スマホではルビがきちんと表示されなかったので振り仮名は《》で括ることにしました。


 ホームルームの終わりを告げる鐘がなる。

「お?もうこんな時間か。それじゃあ終業式は明後日だから間違えて明日来たり、明後日遅刻したりするなよ」

 教師の宣言と共に生徒はバタバタと帰宅の準備を始めた。

 いつもより騒がしいのはテストの結果を友人に報告し、比べあっているからか。それとも今朝の事件のことで噂をしているからか。

 大輝は喧騒《けんそう》の和に加わらずに黙々と帰宅準備を始めていた。

 いつもなら友人とテストの出来について話すのだが、右手の中にある紗奈のテストが大輝の気分を下げていた。その事を友人は目敏《めざと》く察して、大輝をそっとしておいてくれている。

 自分のテストと紗奈のテストを別のファイルにしまい鞄に入れていると、携帯がメールの着信を知らせてきた。

 それは兄からのメールだった。

「池袋駅の西武口付近にいる」

 どうやら兄からの呼び出しのメールのようだが、どこか違和感を感じる。

 大輝は不審に思いながらも、今日は他に用事もなかったので呼び出しに応じることにした。

(そういえば紗奈の運ばれた病院も池袋にあるって言ってたな)

 なんとも不思議な話だが緊急搬送された病院で応急処置をした後、池袋の大きな病院に搬送されたらしい。なんでもそこでないとできない検査があるとか。

(よし、兄貴の用事が終わったらお見舞いにいこうかな)

 大輝は今後の予定を軽く頭の中で組み立てながら学校を出た。


 電車に揺られること四十五分。

 大輝は池袋駅西武口付近の改札に到着していた。

 時刻は十三時を尤《ゆう》に越えていたが、大輝は昼食を取っていなかったため空腹だった。

(よし、兄さんにご飯を奢ってもらおう)

 そう決意すると外を確認する。しかし兄は居なかった。

 大輝は仕方なく空腹を忍んで龍真を待つ。

 ―――五分が過ぎ、

 ―――十分が経ち、

 ―――三十分が経過した。

 しかし一向に龍真が来る気配はない。どうしたものかと思い、大輝はメールを送る。

 ひとつため息をつき、龍真が来るであろう方向を向く。そろそろ空腹の我慢も限界に近くなってきた。

 大輝は気晴らしのために辺りを見回し自分から龍真を探し始めることにした。

 視線を左に振ると、奥に巨大写真機という名の大型電気屋が視界に飛び込んでくる。そこから人の波に視線を落としていくが龍真は見つからなかった。大輝は念入りに道行く人を確認するが龍真の顔を確認できなかった。

 視線を顔を正面に向ける。次に視界に飛び込んできたのは横断歩道を挟んで営業している、ある日本人の名前を片仮名にした薬局屋だ。だが、目に写る人混みの中に龍真らしき人は見当たらない。こちらも念入りに探すが、やはり龍真はいない。

 次に視線を右に動かして大輝の首は固まってしまった。

(な、なんだあの人)

 周囲の人混みの中に妙な存在感を醸《かも》し出す少女がひとり、ゆっくりと歩いてきたのだ。

 歳は見た目から十代後半───十八、十九歳辺りだろう。バランスの取れたプロポーションに、女性にしてはやや身長が高く男子の平均身長よりもやや小さいくらいだ。

 日本人には珍しい──顔立ちが外国人ではなかった──白銀の髪を背中の肩甲骨辺りまで伸ばしていて、太陽に反射してキラキラと輝いていた。

 顔はどこかのモデルにスカウトされてもおかしくはないくらいに整っていて、清楚な雰囲気が少女を包む。

 が、特筆すべきところは少女の服装であった。

 今の季節は夏であり、今日の気温は特に高く三十度を尤に越えていたにもかかわらず、少女は肌を一切露出していない。

 少女は薄手の長袖の上にフード付きの半袖のシャツを羽織っていた。下半身にはジーンズを履いて、さらに手には白い薄手の手袋をしているほどの徹底ぶりだ。

 紫外線対策にしてはやり過ぎな感がある。

 第一、そこまで紫外線対策をするなら帽子や日傘のひとつでもしていておかしくはないが、頭部の紫外線対策は一切していない。頑丈に防いでいる肌にしてもUVカットのオイルを塗ればある程度は防げるはずだ。わざわざ暑い日に長袖のシャツを着る必要はない。

 大輝は最上の容姿を持ち、異様な格好をした少女の後を目で追う。

 他にも彼女の美貌や出で立ちに目を奪われる人は多々いるようで、複数の視線が彼女に向けられていた。

 少女が大輝の目の前を通りすぎようとしたそのとき、少女は不意に立ち止まり辺りをキョロキョロと見回す。

 視線が合った。

 大輝は流石に無遠慮《ぶえんりょ》に見るのは失礼だと思い視線を外そうとしたが、少女のがこちらへと近づいて来るのが見えて少し怪訝《けげん》な顔をする。

(オレ、なんかしたかな?……してないよな)

 今日は知らない人に良く目をつけられる日だな、などと暢気《のんき》に考えていると、少女は大輝の正面に立って無遠慮に全身を観察し始めた。

 大輝は余りに大胆な行動に面食らって立ち尽くす。

 しばらく無言で見つめ会う二人。

 ようやく思考が正常に働き始め、注意をしようと口を開くと、少女が先に話しかけてきた。

「あなた、何者?」

 大輝は混乱の極みに達していた。

 いくら美人でもここまで変な人だと、もう好意など沸いてこない。

 大輝はこれ以上関わらない方がいいと判断し踵《きびす》を返すが、少女は先回りし大輝の行く手を阻む。

「あなた、何者?」

 同じ質問を繰り返す少女。

 少女は迂回して去ろうとする大輝の行く手に体を割り込ませて引き留める。それから二回程同じように方向を変えて離れようとする大輝を少女は引き留め続けた。

 ここまで無遠慮で失礼なことをしておきながら、少女の表情は申し訳なさそうな顔も、大輝をからかって楽しんでいる顔もしていない。何一つ変わらず終始無表情だった。

「お願い、答えて」

 大輝はため息を吐くと意を決する。

(こうなったらとことん付き合ってやろうじゃないか。──兄さんが来るまでだけど)

「柊大輝です」

 少女は首を横に振った。どうやら名前を聞いているわけではないらしい。大輝は頭に疑問符を浮かべながらも、自分のパーソナルな情報を訊いているのかと考えた。

「十七歳、高校生です」

 また首を横に振る。まさかと思いながらも大輝は国籍や住んでいる都道府県名等を言っていく。

 しかし少女は返事をするどころか一回も首を縦に振ることもなかった。

「お、男です……?」

 大輝は何者か、という質問の答えをこれ以上思い付かず、疑問系になりながら当たり前のことを言う。

 しかし──いや、ここはやはりというべきか、少女は首を振る。

「あなたの粒子分布はおかしい。

 あなたは、何者?」

 早くも心が折れそうだった。話が通じなさすぎる。

 少女はしばらく考え込むと徐《おもむろ》に手袋をはずし、大輝の腕に手を伸ばしてくる。

 伸びる手が震えていた。

 大輝は内心首をかしげながらも握手を求められているのだと判断して手を伸ばす。しかし少女の方がなかなか大輝と握手をしない。伸ばした手を引っ込めたり、また出したりと握手するのを──もしかしたら人と触れ合うことを──躊躇《ためら》っているようだ。

 だんだん周りの視線がいたくなってきた気がするが、辛抱強く待つことにした。

 少女がまた恐る恐ると手を伸ばす。遅々《ちち》とした動きだが今度は途中で止まることも、引っ込めることもしない。

 そして、ようやく二人の手が触れ合った。

 瞬間。

 握手した右手に電気が走ったかのような痛みを感じた。

 大輝は驚いて手を振り払ってしまう。

 少女は無表情のままだったが、少しだけ、本当に少しだけ驚愕《きょうがく》しているように見えた。

「ご、ごめ──」

「神坂愛深《かみさかあいみ》」

「──……え?」

「私の名前」

「あ、うん」

「柊大輝」

 愛深が大輝を指差す。

「あなたの名前?」

「うん」

 愛深は小さな声で大輝の名前を何回か呟く。

「よろしく、大輝」

 手を差し伸べる愛深。その顔は無表情ながらも、大輝にはどこか嬉しそうに見えた。

 今度は大輝の方が恐る恐ると握手をする。

 二人の手がしっかりと繋がれた。

 今度は痛みが走ることもなく無事に済むと安心し、手を離すと直ぐに愛深が腕を掴む。

「来て」

「あ、ちょっと……?」

 愛深は大輝の手を引いて西武口の目の前にある横断歩道を渡るが、途中で信号が赤になり中州で止まる。

 目の前を車が通り過ぎた。

「あの、今日人と待ち合わせているからどこかに付いていくとかはできないんだけど」

「大丈夫、すぐ終わる」

「すぐって……どのくらいで?」

「今」

 そう言うと愛深は大輝を道路へと突き飛ばす。

 大輝は片側車線の真ん中、どんなに頑張っても車から逃れられない位置へ突き飛ばされた。

 車が迫る。

 運転手の驚いた顔が目に飛び込む。

 大輝は逃げようとしたがなぜか足が動かない。

(あ、これは無理だ)

 大輝は避けられぬ事実がこの身に降りかかることを覚悟する。

 迫る車が妙に遅く感じた。

 そして─────

 大輝の体が吹き飛んだ。

来週は土曜日に更新したいと思います。


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