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四魔+デイズ  作者: 皐月二八
本編
8/23

四日目 赤色の視察旅

 視察編その一。

 暫くは魔王城から離れます。


 其れが終われば、一波乱起きます。

……カイの日常は、何時も波乱ですけども。

 此の世界でも最大級と言っていい広大な湖に、双発の飛行艇グライフが四機、着水する。

 そして、その上空を旋回していた空中騎兵や竜騎兵、そして水上戦闘機シュヴァーンたちも其々着陸、或いは着水していく。

 そんな光景を眺めながら、僕は妹たちに囲まれつつ、降りる準備をする。

 兎に角、僕以外の存在を嫌っている妹たちの機嫌を損ねることのないよう、僕たちが乗っている飛行艇グライフには、僕と妹、そして操縦士くらいしか乗っていない。



「……着いたな。よっし、頑張るか!」


「「「「おー!」」」」



 竣工して新しい機械の天井に拳を突き上げ、大きく伸びをする。

 機内で僕を中心に座っていた妹たちも、其れに応えてくれつつ荷物の準備に取り掛かった。

 冷静沈着で御淑やかなアルムも、物静かなエルフィアも、無口なシラウも、元から天真爛漫なヒノも、同じように声をあげ、僕を笑顔で見つめている。

……本当に、僕にはもったいない程の、よくできた妹たちだ。



 妹たちは、自分たちの荷物が第三者に触れられることを極力避けている。何故かは知らないけど、僕の荷物まで妹たちが管理しているんだよね。


 海かと思う程広大な湖に着水した飛行艇グライフから下りて、小型艇に乗り込み漸く久しぶりに地上に立つ。

 大地の有難味を噛みしめながら顔をあげると、視線の両端には綺麗に整列している軍服の人たちがいて、直線の道をつくってくれていた。



「魔王陛下、そして姫様方に向け――――敬礼ッ!」



 号令と同時に、小銃を抱え、腰に軍刀を吊り下げた兵士が一斉に敬礼する。我ながら、なかなか荘厳な光景だ。

 大袈裟とも思うけど、やらなければ格好がつかないのは理解できるから、やるしかない。全く、王族というのはヘンなところで非合理的だ。


 立っている兵士は、詰襟の闇のように黒い軍服を着込んでいる。そして、右腕には金色の、王室の紋章付きの腕章。

 つまり、王室護衛隊所属である証だ。






 魔王軍は正式名称が“魔界王立軍”であることからもわかるとおり、最高指揮権は魔王に在る。

 しかし、それはあくまで“最高・・”指揮権が魔王に在るというだけの話で、魔王の命令以外聞けない組織ではない。

 緊急時や王が不在時の際、代理の者や議会、魔界王立政府の指揮下に入ることも可能だ。


 しかし、世の中には何事も例外があるというもので、魔王軍と言う世界の三分の二を管轄下に置く大組織における“王室護衛隊”が、まさにその例だと言えた。

 王室護衛隊は文字通り、王族の近辺を守備する魔王城常駐(無論、王族が外出すれば王族についていく)部隊なんだけれども…………実際は、王室の“私兵”といった色が濃い。


 何しろ仕事柄、王室にとっては信頼できるメンバーで構成されていなければならず、しかも王族のプライベートにほんの少しでも首を突っ込む以上、メンバーや王族以外の者と多く接触し、情報が漏れるなどという事態があってはならないからだ。

 こうなると必然的に、王室護衛隊は王族が直々にスカウトしてきた、正規の魔王軍とは疎遠な者でなくてはならない。ありていに言えば、ナチスドイツにおける親衛隊SS(Schutzstafel)のような組織が彼らなのだ。


 おまけに王室護衛隊はひとくくりにされているとはいえ、実態は仕えている王族もバラバラの者が少なからずいた。

 簡単に言うと、僕には僕専属の王室護衛隊員がいて、妹たちにも妹たち専属の王室護衛隊員がいる。

勿論、王室全体に仕えている王室護衛隊員もいるし、寧ろ此方の方が多数派だ。


 ちなみに、専属の者は喩え魔王である僕でも、仕える者が違う場合は命令権を持たない。

 つまり、例えば僕がアルム専属の隊員に命令することはできないというわけだ。

当然、逆の場合も不可能。


 そして此の王室護衛隊の最大の特徴は、絶対指揮権を王室が握っていることだ。

 魔王軍(正規軍)の場合は、魔王に最高・・指揮権が在る。

 対して、王室護衛隊の場合は、王室に絶対・・指揮権が在る。


 つまり、王室護衛隊は編制上は魔王軍の一部隊なのだけど、実際は魔王軍トップであるウォーリザクセン卿ですら干渉できない、何とも不思議な……そして危うい組織というわけだ。


 実際、過去には王室護衛隊の者を使って、王族同士による暗殺合戦が行われたことすらあるという。


 そんなことを考えながら、僕を先頭に王族五人がゆっくりと、静寂に包まれた空間を歩く。

 足を止めると、目の前にはやたらと色白い、のっぽの男性が此方を見下ろしていた。

 王室護衛隊隊長、ファドゥーツ卿だ。

 めちゃくちゃ長身に分類できるアルムにも劣らぬ長身で、灰色の髪と瞳が特徴。

 彼の金(ボタン)が映える黒色の詰襟軍服を眺めながら、まるでイタリアの黒シャツ隊みたいだと、聞く人が聞く人ならかなり失礼な部類に入る感想を抱いてみる。


 おっと、こんなことしてる場合じゃなかった。



「ファドゥーツ卿、護衛、御苦労だった」


「光栄であります、陛下!」



 白すぎる頬を僅かに朱に染め、卿は見事としか表現できない敬礼を見せた。

 ちなみに、此の人はシラウと同じく“精霊種”だ。



 そしてファドゥーツ卿はそのまま、此のネメア大陸中西部に位置する特別開発区にある小さな村――――つまりは此処の村長に挨拶を促し、形式通りの挨拶を済ませる。


 そして、其れを見て、周囲の村人が万歳三唱し、妹たちはそんな村人たちに笑顔で手を振った。

――――僕だけにしかわからない、無理矢理造った笑顔で。






 嘗ては人間界に属していたこの場所には、人間が造った施設が数多く残されている。

 僕たちが泊まることになった、宿泊施設もその一つだ。


 僕が一部屋、妹たち四人が大部屋に泊まらせてもらっている。

 その大部屋のドアをノックすると、直ぐにヒノが抱きついてきた。



「おにーちゃん! 逢いたかったよぉ!」


「うぉう!」



 驚いて咄嗟に身を引こうとすると、蔓が伸びて妹を引きはがした。



「あ、ちょ――――」


「黙りなさい。お兄様は公務で御疲れになっていますわ」



 アルムが低い声で言い、エルフィアとシラウも無言で圧力を送る。



「…………はぁい……」



 姉三人に囲まれ、ヒノは肩をすくめて降伏のポーズを取った。



「さぁさ、兄さん、此方に」



 パタパタと犬のように尻尾を動かしているエルフィアに誘われ、僕はソファに腰を下ろした。

 たちまち、四人の妹が必要以上に身体をすり合わせ、密着してくる。

……うん、流石に、もう慣れたよ。小さいころから、べったりだったからね。



「……お兄様」


「うん?」


「やはり、疲れますわ。……有象無象共に、笑みをバラまくのは」


「……ゴメン」



 アルムの愚痴とも言える呟きに、僕は即座に頭を下げた。だって、其れしかできないし、そうするしかないってわかっているから。



「姉さん、何を言っているんですか?」



 エルフィアが不機嫌そうに、蛇のように無機質な目を姉に向けた。



「私たちは兄さんに尽くすために生まれてきたんです。どんな不快な思いをしようと、どんなに酷使されようと、兄さんのためなら――――」


「エルフィア」


「何でも、そうなん――――で――――も――――――――に、兄さん…………」



 少し、興奮しやすいところが彼女の悪い癖だ。

 そんな感情を意図的に出しながら、下半身を僕に巻き付かせている美女を見る。

 先程までの蛇のような瞳はたちまち消え、今度は蛇に睨まれた蛙のように縮こまった。



「……すみませんでした、兄さん」


「……ありがとうな」



 そんな彼女の頭を撫で、姉妹全員の顔を見渡す。全員が、僕を見つめ返してくれた。



「…………入植して来たばかりの彼らには、支えが必要なんだよ。

例えば――――“魔界の宝石”とも言われた、四人の姫君の笑顔、とか……」



 本当に言いづらいけど、言うしかないよなぁ……。

 はっきり言って、妹たちを連れて来たのは士気高揚のためだ。

 “新天地”を求めて、魔界から見れば辺境の、つい最近まで人間界だった場所。

 多くの兵がたおれ、戦火の爪痕が残る場所。


 そんな場所にわざわざやってきて、頑張って発展させていこうと思っている村の人々や、同じ人間や祖国に見捨てられ、呆然としている人間のためにも。



――――やっぱり、もっと頑張らないとな。



 せめて妹たちの美貌を抜きにしても、しっかり臣民を纏め上げられるようになりたい。


 そんなことを考えながら、僕はシラウが淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。






「……シラウ、此れ、鉄の味が……ちょっと血のような味がするような…………」


「………………きのせいだと思う」


「……今、指先隠さなかった?」


「…………」


「「「…………」」」


「……ねぇ、何でみんな、自分の指先に傷を付けようとしているの? ねぇ!?」



 こんな妹たち四人を、ちゃんと護れるように。






 魔王軍の小銃は、第二次世界大戦時の米国のM1ライフルのような感じの半自動装填式で、魔法弾もあります。

 そんなどーでもいい設定付き。


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