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四魔+デイズ  作者: 皐月二八
本編
23/23

一九日目 停滞しつつ予兆あり

 予定を変更し、一度カイ視点を入れました。

 一度、前線の状況を大局的に書いておこうと思ったので。

「何、人間界軍が越境してこない?」



 翌日、執務室には妹たち三人(ヒノを除く。彼女は前線視察に向かっていた)とウォーリザクセン軍務卿、そして軍の高官が二人集まっていた。



「御意にござります。現在、界境線の向こうにはエルビトア神聖軍が六個師団程確認できており、フィデナルスク公国軍も二個師団程詰めているのが確認できています。これは情報局及び航空軍戦略偵察第五六航空師団が確認した、精度の正しい情報です」



 書類に目を落としながら、直立不動の軍務卿は淡々と答えた。



「合わせて八個師団――――四個軍団といったところか? 確かエルビトアの神聖軍の総数は、常備軍で五〇個師団程度だったな?」


「はい、正確には五三個師団で、これに神殿を頂点に置く騎士団が一二個加わりますが。

 公国軍は三七個師団です。

 つまり、両国合わせて九〇個師団前後です」


「魔界王立軍のネメア大陸軍は……一五九個師団だったか」


「はい。開発に重点を置いているため、半数以上は工兵重視の編制となっています。また、人間界軍の侵攻に備え、その六割は魔界領西側――――つまり後方に設置されております」


「大陸軍総司令部は、何処に置かれていたかな?」


「ネメア大陸政府が置かれる大陸首都、“ワルゼ”ことワルト・ゼルゼーレンに置かれております。

 なお、現在の大陸軍総司令官は嘗て重砲軍総監を務めていられたヒルデマイヤー元帥が任じられております」



 壁にかけられている幾つかの地図のうち、ネメア大陸が描かれているそれのある場所を杖の先端で差しながら、若い軍人がはっきりした声で説明をしてくれた。

 先程軍務卿から紹介されたこの軍人は、魔界王立軍参謀司令部陸上部第一課(作戦担当)所属のグレーベ中佐だ。

 小柄なうえにやたらと細身の魔人種で、見た目に反して何と言うか、声がやたらと力んでいる。

 僕が前にいた世界ならば、間違いなく応援団団長に推薦されていただろう。


 この中佐が鉢巻きに学ランを着ている姿を想像して噴き出しそうになりながら、僕は杖の先端を目で追った。


 それはネメア大陸西南部で、ほぼ端っこを指している。

 最前線からは、それこそカムチャツカ半島からモスクワくらいの距離がある(と思う)。


 因みにネメア大陸は、ユーラシア大陸北部、つまりロシア連邦領だけを切り取って、それを三倍程でかくしたような姿をしている。



「まずは防御に徹して兵站線叩きに励もうという此方の意図が見抜かれたか? だが、どの道このままでは人間界軍はジリ貧だぞ。総兵力は此方が上なのだから」



 実際はあまり人間界軍に攻勢をかけたいとは思わないが、それを口に出すのは止めておく。

 魔海嘯と御聞く異なる点は、今回の戦争はあくまで防衛戦争というところだ。実際魔界領を護り切れればよく、敵地をこれ以上切り取っても旨味は薄い。



「それで、界境警備隊は?」


「撤収して大陸軍と配置換えを行っているか、合流しております」


 もう一人、魔界王立陸軍界境警備隊司令部付きの参謀であるジラルド少佐が答えた。この人は妖獣種の女性で、猫のような耳と目を持っていた。



「うん。……最前線の様子は?」


「睨み合い、ですな。人間界軍界境付近の魔砲陣地は沈黙した模様です。一方、此方の魔砲陣地は健在ですが、敵軍に動きがないことと射程圏内の敵がほぼ沈黙したこと、そして弾薬補給と整備のために現在は攻撃を控えております。

 歩兵も同様で、トーチカに籠りながら監視と迎撃準備をしております」


「空は?」


「向こうのフネはあらかた落としました。手駒が尽きたのかはわかりませんが、今のところ偵察はおろか、我が方の航空偵察に対し迎撃も行っておりません」


「悠長というか、チグハグだな。ひょっとして、向こうは戦争準備が終わらぬうちに宣戦したのか?」


「可能性はありますが、何とも言えません」


「我々は九の防衛ラインを迅速に構築しております。第一防衛ラインは界境線から僅か西部のアフレビスク――――グレゴリキー――――アテデノムスクを結ぶラインです」


「……具体的には?」


「旨いチーズが採れる酪農の名所ですね」



 しれっとした表情で、グレーベ中佐がとてもわかりやすい説明をしてくれた。その口元は笑っている。

 ウォーリザクセン軍務卿に睨まれるも、小さく肩をすくめて素知らぬ顔だ。

……成程、参謀司令部はクセモノ揃いという噂をファドゥーツ卿から聞いたことがあるけど、実話らしい。


 妹たちも快くは思っていないだろうけど、怒っているわけではなさそうだし、彼女たちが初対面の相手に快さそうな態度で接しているところなんて、僕は見たことがないし。



「参謀司令部の方針は?」


「すでにナハト作戦は始まっているので、それに沿って行われます。神聖軍や公国軍は兵力が揃うのを待って進撃する腹積もりかもしれません」


「変更はない、と?」



 念を押して聞くと、三人の軍人は一斉に頷いた。



「此方からの攻勢は不可能です。大陸軍全体としては十分な戦力がありますが、最前線付近の戦力は一〇個師団程度です。兵力の前線への移動は進められておりますが、時間がかかります。

 陛下の御蔭でネメア大陸魔界領全体に鉄道が通っているため、兵力配置は迅速に進んでおります。

 航空輸送も問題なく行われております」


「開戦してからまだ三日目だ。急ぎすぎて事故でも起こせば目も当てられないぞ」


「御意」


「……嵐の前の静けさ、というわけか?」



 僕の声に、その場にいた全員から緊迫した空気が放たれた。






 しかし、僕は知らなかった。

 人間界軍の行動がやけに悠長だった理由が、シラウやヒノによって将校や指揮官の多くを失い、指揮系統が混乱していたからだということを。

 それを眺めながらアルムがほくそ笑み、エルフィアが作戦通りだと人間界軍をせせら笑っていたことを。






 次話こそはヒノ視点、そして前線の話を書いていきます。


 御意見御感想宜しくお願いします。

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