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四魔+デイズ  作者: 皐月二八
本編
18/23

一四日目 会議は踊る、されど…… 前編

 大分遅くなってしまいました。


……ところで、私が想像するデュラハーン(女)って、何故か皆無表情無口なんですよね。解せぬ。

「――――で、あるからして、今回の件については現在、調査を進めている。すでに魔王軍航空軍のうち、第九航空軍……地上軍の中央軍“白虎集団(ヴァイス・ティーガー)”……海上軍第五艦隊……の三組織が中心となり、臨戦態勢を取っている。報告があれば、即座に動けよう」



 魔王城に併設された魔界王立議会大会議場の座席から立ち上がり、“拡声魔法”に乗せて声をあげる。

 その場にいるのは、魔界の言わば頭脳部分だ。魔王、妹たち、王室護衛隊幹部、正規軍首脳部、王立政府首脳部、各省庁のトップ、魔界王立議会の面々、そして傍聴席に、何人かの報道官。


……ちなみに、魔王軍こと魔界王立軍は、所謂陸・海・空の三軍に分かれていない。僕が前にいた世界で言うなれば、其れはカナダ統合軍に近い存在だ。つまり、一軍制を採用している。

 カナダの場合、統合化の背景には色々あるんだけど、魔王軍の場合は、統合化されたというわけでなく、元から一軍だったので、別に複雑な背景もない。単に、今まで陸・海・空の三軍に分かれることがなかっただけだ。


 此れは此の世界全般に言えることで、陸・海・空の三軍制を採用している国はあまり多くない。ていうか、無い。


 もっとも、魔王軍の内部には地上軍・海上軍・航空軍、そして他にも各大陸毎に其々大陸軍があったりしている。だから魔王軍地上軍は、実質的には“魔王陸軍”と言ってもよいだろうけど。


 今、僕が上げた三つの組織はこんな感じになっている。

 まず、第九航空軍。此れは多数の航空機や輸送機を保有していて、しかも緊急時――――有体に言えば、“有事”に真っ先に出撃して人間界軍に痛打を与えることを主任務とした組織だ。つまるところ、“一番槍”。人間界との界境線付近に展開していて、常にある程度の緊迫感を持っている。


 次に“白虎集団(ヴァイス・ティーガー)”。此れは陸上自衛隊で言うところの中央即応集団やアメリカ海兵隊に相当する(と僕が勝手に思っている)組織で、高速展開を第一とし、いざという時に即現場に急行しては脅威に対処するエリート中のエリート部隊。此方も、「平時だろうが有事だろうが知ったことか」と言わんばかりに、常時ピリピリの部隊だ。


 最後に第五艦隊。此の艦隊はネメア大陸近辺を管轄している、要するに最前線に最も近い艦隊だ。大小四〇隻程の艦艇が所属している。なかなかの規模だ。


 残念なことに、軍隊と言うモノは「動け」と言われて動ける程良くできた組織じゃない。「常在戦場じょうざいせんじょう」は何処の軍隊でも叫ばれている謳い文句だが、艦艇や航空機といった科学の産物は勿論、兵士も戦闘準備が整うまではかなりの時間を要するのだ。馬や竜なども同様。

 だからと言って、常に軍全体を何時でも動けるよう臨戦体制にしていれば、兵士たちの精神がまいってしまうし、それこそ湯水の如く軍事予算を投入しても足りない。



「さらに、界境警備隊も臨戦態勢に入っております」



 ウォーリザクセン軍務卿が立ち上がり、補足する。界境警備隊も魔王軍の一組織であり、つまり軍務卿である彼の管轄だ。

 それに、「ほぉー」とか、「おおー」と言った感じの感嘆のため息が続く。純粋に、魔王軍の準備の早さに驚き半分感心半分なのだろう。


 声をあげたのは、王立議会に属しているであろう議員たちだった。魔界の議会(国会)は日本やイギリスのように議院内閣制の上に成り立つ議会ではないため、権限は其れほど強くない。それでも、立法権や予算審議権はある。

「ドイツ帝国議会(第二帝政期)が少し民主的になった感じ」と思ってもらえれば、多分差し支えないと思う。


 ちなみに、定数は三八七人。その中には貴族出身者も多いが、寧ろ一般民衆から選出された者の方が現在では主流化している。






 すると、一人の議員が挙手し、議長が発言を許可した。



「王都はすでに敵の攻撃に晒された! 今更調査など悠長すぎる、情報局は何をしていたのか!」



 情報局長ニコラウス卿を指差し、若い議員が叫んだ。

 いきなりの罵倒に、周囲はざわざわとどよめく。「そうだ」と追従して囃したてる議員、「莫迦野郎」と怒鳴る議員(どっちに対してだろうか?)、様々な声が入り乱れる。


 売られた喧嘩は買ってやるとばかりに、幽霊のように青白い顔と純白の長髪が特徴的な、壮年の偉丈夫が挙手をしながら立ち上がった。

 ニコラウス卿は元魔王軍元帥で、前線を引いて以降、情報局長を務めている。つまり親父の時代からの軍人であり、ウォーリザクセン卿も頭が上がらないという凄い人だ。


……まぁ、僕からしてみれば、子供のころから色々と世話をしてくれた好々爺だけど。


 でも公私の切り替えが激しく、公の時はこんな感じだ。彼は“幽鬼種ゆうきしゅ”……俗に言うところの“アンデッド”で、“神祖ノーライフ・キング”という究極のヴァンパイアだ。

 彼の実力は、シラウをして「三秒程手古摺るかもしれない」と言わしめるほどのものだという。……いや、あくまで噂だけど。シラウ本人がジョーク交じりに言った言葉だけど。シラウのジョークは何しろ真顔で言うもんだから、ジョークかどうかの境界線があいまいだけど。


 ちなみに、“首無し女(デュラハーン)”であるクレベール装甲騎兵長も“幽鬼種”だ。

 その彼女は、今は僕の左隣で突っ立っていた。

 ちなみに、右隣にはシュナーベルが控えている。


 王室護衛隊長ファドゥーツ卿は、今は発言者の一人として、王室護衛隊の幹部陣が集まっている席に武器を置いて着席していた。


 クレベールは事あるごとに落ちそうな首を時折支えながら、琥珀色無機質な瞳で僕を見つめていた。半透明な水色の長髪が揺れている。藍色のゴツイ鎧が全く似合っていない。左手には、自身の背丈の二倍程長い槍が握られ、その槍は血を吸ったかのようにどす黒い赤色で染まっている。


 ちなみに、彼女はシュナーベルよりかなり小さい。もっとも、シュナーベルが女性としては長身すぎるので、まぁ平均的なサイズと言えた。


 僕は後ろに座っている四人の妹たちを見る。

 そして、妹たちが一瞬だけ、クレベールとシュナーベルを刺し殺しそうな視線で睨んでいた様を確認した。

 嫌な汗がどっと噴き出るけど、何とか笑いかける。

 四人とも、其れに応えてくれた。最高の笑顔で。


……おっかないにもほどがある。うん。



「――――であり、今回の件、情報局は兆候を掴めなかったのであります。何せ諜報費用など不要という無理解で、我が情報局の予算は削減されたばかりですので」


「議会のせいにするつもりですか!?」


「そんなつもりはございませんし、そう聞こえたのならば誤解です。

 しかし、情報は安くないし、安易に手にはいらない。情報局に一日に入ってくる情報の数は目を疑う程です。そして、大切な一握りの情報は膨大な屑情報の中に埋もれている。かようなモノを探すのは、魔鉱脈の無い場所で最高級の魔玉原石を探すようなものなのです」



 おっと、ニコラウス卿と議員の応酬が白熱しているようだ。ニコラウス卿が言った「無理解」には、あからさまに「王立議会の」という主語が隠されていたなぁ。

……魔王の権限で、情報局の予算を増やすべきかもしれないな。何時の時代も、情報は武器だ。いかな槍よりも強力な、其れこそ戦略核に匹敵するような。

 流石に今すぐには無理だけど。






 大会議場の中央には、大型映像表示用魔石によって映し出された巨大なスクリーンが浮かんでいる。

 其処には、発言者の名前と発言内容が、公用語を含む様々な言語で映し出されていた。


 両者の発言が終わり、スクリーンが切り替わる。議長のローゼンクランツ卿の顔が浮かび上がった。相変わらず、口元が凍ったような変な薄笑いを浮かべている。常に閉じられている左目が相まって、ぎこちないウィンクのようだ。



「……うん?」



 ふと何気なくドアの方に目を向けると、ちょうど誰かが入ってくるところだった。服装からして、情報局所属のようだ。

 小柄で背中に蝉の翅のようなものを生やしているその職員は、小走りで席と席の合間を縫い、情報局の高官が集まっているエリアへと向かっていく。



「……“穴熊ダックス”の奴ら……品がないですね」



 クレベールが無機質な瞳にわずかに嫌悪感を浮かべて、小声で呟いた。


 “穴熊ダックス”は正規軍や王室護衛隊が、裏方で諜報任務に従事する情報局職員を嘲る際に多用する表現だ。情報局のシンボルが穴熊あなぐまだというところから来ている。

 “潜る”諜報員を有する情報局のシンボルとしては兎も角、正規軍や王室護衛隊員には、暗殺者じみた諜報員のやり方に不快感を覚える者も少なくない。



「緊急のようだな」



 妙な胸騒ぎがして、僕は彼女に苦笑を投げかけるのを忘れてしまった。


 件の蝉職員――――おそらく“怪蟲種かいちゅうしゅ”なのだろうが――――は、情報局の高官の一人の耳元で、何かを呟いているようだ。

 緊急の知らせなら通信用魔石で知らせるのだが、生憎、此処はその手のモノを封じる結界が発動している。盗聴や情報漏洩を防ぐためだ。残念ながらその結界は、緊急用の通信だけを通してくれるほど便利な存在じゃあない。


 高官は職員に何か指示を飛ばし、下がらせる。そして高官は自らニコラウス卿の元に向かい、何かを囁いた。


 勘の鋭い者は、目敏く気付いていたようだ。気付くと大声で持論を述べる若手議員を除く、大多数がニコラウス卿を注視していた。

 ニコラウス卿が挙手し、何人かが息をのむ。多分、其れには僕も含まれていたと思う。

 ローゼンクランツ議長とギルデンスターン副議長は互いに目配せし、同時に頷いた。



「宜しいか?」


「――――ええ。バレーナ議員、どうか一度中止を願いします」


「―――――で、あるからして……え……? は、はい」



 鋭い眼光で見下ろす議長と副議長にたじろぎ、長広舌を振るっていた議員は着席した。



「……先程、情報局第一課帝政エルビトア方面担当部より新情報が打診されました」



 一同を見渡しながら、ニコラウス卿は厳かな口調で話し始めた。



「――――エルビトア宗教庁高官が、何者かにより暗殺されたようです。……王都襲撃の件の、指揮者と思われていた高官です」



 場がどよめく。

 僕は、思わず振り返ってしまった。


 四人の妹たちは、そんな僕を見て、笑った。






 カナダの軍隊は本当に統合化されていて、陸・海・空の三軍編制ではありません。統合軍一軍編制です。


 ちなみに、羅門 祐人さんの『真・大日本帝国軍 陸海統合の嵐』では、日本帝國軍が統合軍となった世界を書いています。個人的にかなり好きな小説です。


 サブタイトルの元ネタって、知られているんですかね?

 『会議は踊る、されど進まず』。ウィーン会議でのかけ引きっぷりを見て、フランス代表タレーラン氏が皮肉った言葉です。


 御意見御感想宜しくお願いします。


 次話は後編です。

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