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四魔+デイズ  作者: 皐月二八
本編
17/23

一三日目 部下との会話と噴火の予感

 リクエストにもあったケモノミミキャラの登場です。彼女はプロット段階から、出すと決めていました。

 主人公の周りの女性は、妹だけではないってことです。ちなみに彼女も、職務以上に主人公の事を慕っています。

「……やはり、人間界側からの攻撃か?」


「その線が濃厚かと」



 王都が海獣の襲撃を受けたと聞き、僕たちは一先ず魔王城へと戻った。

 幸いなことに、被害を受けたのは一部の湾岸施設のみで、民間人は退避が済んでいた。しかも、軍の損害もごく僅かだ。



「被害らしい被害と言えば……入渠中の駆逐艦一隻が甲板を食い破られたくらいですよぅ……」



 少女の王室護衛隊員が、メモを片手に汗を流しながら報告する。明らかに邪魔だと思うくらい髪が長く、白髪の先端部分は完全に地面に垂れていた。

 完全に隠れている右目と違い、辛うじて見えている左目はルビーのように真っ赤で、さらに頭からは兎のような長い耳が飛び出し、ひょこひょこ動いていた。

 スラリとしていて、その背丈はシラウといい勝負だ。そして、背中に自身の背丈より長い刀を二本、クロスさせるように背負っている。

 彼女は“妖獣種ようじゅうしゅ”。獣の特徴を身体に残している魔物だ。


 名前はシュナーベル。一応、僕専属の王室護衛隊員の中でもトップクラスの実力者で、実際にトップだ。妹たちの御蔭で出番は殆どないけど、僕の秘書官的なポジションについている。

……物凄く気弱なのが難点だけど。



「王都防衛の方はぁ……クレベール装甲騎兵長や王都防衛軍の御蔭で、最小限の被害で済んだようです……が……」



 彼女はメモに視線を落したまま、おずおずと切り出した。



「……今回の件、人間界あちらがわの差し金と判断するのが妥当ですので……議会では、早くも一部の貴族や議員が騒いでいますぅ」


「……仕方がないか」


「……黙らせ、てきましょうかぁ?」



 チラリと、おどおどした様子で結構物騒なことを言うシュナーベルを見て、思わず苦笑しそうになった。

 妹たちは、彼女を始めとする僕専属の護衛隊の面々に、良い感情を持っていない。

けど、彼女たちが途轍もなく優秀であることもまた確かだ。


 王室護衛隊隊長ファドゥーツ卿は僕専属というわけではないけど、周囲からは僕の信者シンパとみられている。其れは間違いなく、彼は僕の子供の頃からの顔見知りで、プライベートでも仲がいい。ナンバー二、副長のフィレンも同じくらい顔見知りだ。

 護衛隊全体も、専属を除けば妹よりも魔王……僕の命令の方が優先される。

 だから、実質的には妹たち専属以外の王室護衛隊は、僕の専属みたいなものだ。


 僕専属の護衛隊は、大まかに二つに分けられる。僕専属護衛隊指揮官であるシュナーベル率いる護衛隊と、クレベール率いる装甲騎兵隊。このうち、シュナーベル率いる部隊の方は、僕専属の秘書や補佐、情 報士官なども兼ねている。


 王室護衛隊の総数は、全体で六〇〇〇人。このうち、四姉妹専属の護衛隊が四〇〇人ずつで、僕専属の護衛隊が一二〇〇人となっている。言うまでもなく、全員が選抜された精鋭だ。

 そしてシュナーベル隊が八〇〇人、クレベール隊が四〇〇人だ(名前が同じ“王室護衛隊”でややこしいので、各部隊ごとに指揮官の名前+部隊で呼ばれる事が多い)。


 此れでも、大分縮小させた方で、親父の代の時は一個師団分くらいはいた。もっともその要因は、妹たち四人が「一〇〇〇人も二〇〇〇人もいらない」と主張したからだけど。

 妹たちの実力を考えれば、実際あまり多くはいらないだろうけど、それでも体裁的に少なすぎるのも問題があるから、仕方がない。



「必要ない。どの道、現段階では反撃はできない。敵が何処の国かわからないし、個人の可能性もある」



 僕の返事に、シュナーベルは首肯した。仮に実際に人間界に戦争を仕掛けるにしても、其れは魔王正規軍の管轄で、彼女たちの領分じゃない。

 戦争に王室護衛隊が参加するときは魔王が直々に命じるか、魔王自らが先陣を切って突っ込む時か、或いは魔王城が敵に包囲されでもした時くらいだ。


 僕は先陣突っ込む気はないし、必要もない。それに魔王城が包囲された時は、つまり降伏する時も同義だ。


 もっとも、シュナーベルは王室護衛隊情報士官も兼ねていて、つまりは正規軍との連絡係でもある。だから、軍中央(正規軍)には案外疎い王室護衛隊隊員の中では、正規軍の事情に精通している方だけど。



「国なら報復なりすればよいですけどぉ……組織でも同じことですが……“個人”は如何しますか?

 その者の所属国に引き渡しを要求しますか? いえ、そもそも見つけられるの……でしょうかぁ?」



 彼女独特の、時折変に間延びする声を聞いて、僕は微笑んだ。



「シュナーベル。君はもう少し、仲間を信頼するべきだ。情報省はやってくれるさ」



 こういった場合、調査は情報省の管轄となる。彼らは世界中に情報網を持つエキスパート集団だ。



――――それに、妹たちも、きっと動いているだろうし。



 諦めというか、そんな確信があって、僕は心中でため息をついた。

 ホント、過激な行動はよしていてくれるといいんだけど…………。彼女たち、こういった時は頑固だからなぁ。僕が言っても譲らない。



「はぁ、申し訳ありません」



 ウサミミをひょこひょこさせている護衛隊員は、恐縮しながら額の汗を拭った。

 あんなに汗かいて、着替えなくて良いのかな、なんてことを考える。彼女は緊張のせいか、僕と会っているときは何時もこんな調子で、滝のように汗をかく。



「それで、議会の連中はどうしろというんだ?」


人間界あちらがわに宣戦布告をしろ、とぉ……」


「だろうな」


「はぁい……」



 僕は頭を掻いた。

 こういった場合、実際に戦う軍人よりも、貴族や議会・官僚連中がずっと好戦的なことが多い。戦前の日本がそうだった。

 国際連盟を脱退した日本代表を煽った……というより引けに引けなくしたのは、やたらとタカ派の外務官僚だ。他にも、そういった例はごまんとある。


 軍人は立場上非戦を唄うことはできなくても、本音を言えば戦いたいと思っている連中はそうそういない。戦争をしても戦死者・負傷者は出るわ、長年苦労して蓄えた戦力がおじゃんになりかねないわ、碌なことにならないからだ。

 人間界に対しては、圧倒的優勢な(国力的に)魔界ですら此の様だ。



「人間界では最近、宗教家の連中が過激なことを言い廻っているそうだ」


「我が国の“拝魔教はいまきょう”のように、大人しくできないのですかぁ…………」



 現在、人間界で最も勢力が大きいのが、帝政エルビトアを中心に大陸に広まっている“スイリス教”だ。

 このスイリス教は“魔海嘯”後急速に力をつけた宗教で、エルビトアの教都スイリオルを総本山とする厳格な宗教だ。

 魔物の完全排除を志し、魔力に満ち溢れたゼイクードハイヒ大陸(魔物誕生の地でもある)の“奪還”(有史以来、此の大陸が人間のものだったことは一度もない。ずっと魔界領だった)を至上の目的とする、最高天使スイリスを崇める宗教だった。


 そして“拝魔教”は空気中に存在する魔力素そのものを信仰する宗教で、魔界の国教でもある。

 もっとも、厳しい戒律も何もなく、唯「魔力があることに感謝していきるべし」というだけの宗教だけど。だから全国民が(一応)信仰しているとはいえ、教会の権限は強くない。もっとも、多額の寄付金をもとに成り立っているから、資金には困っていないそうだけど。僕自身、何度か司教とかにあったことがある。ローブのような服を着込んでいる以外は、一般人と大差ない感じだったなぁ。


 その司教さん曰く、拝魔教は魔力を崇拝する宗教で、別に人間に敵対している宗教でもなく、異教を罰する戒律もないそうだ。但し、信者や宗教関係者には、人間嫌いな魔物も少なからず混じっているらしい。



「兎に角、早急に捜査を進めなくてはな。あと、タカ派もしっかり押さえてくれ」


「諒解しましたぁ」



 ウサミミ少女の敬礼を見ながら、僕は各々の私室にいるであろう、妹たちの姿を思い浮かべていた。






 実はおどおどしているキャラを書くのが結構苦手です。如何にも気弱っぽさが出せないというか……。


 現実世界でも此の世界でも、宗教が問題を複雑化させていきます。根は深く、その分頭が痛いんです。


 そんな話。


 ちなみに、個人的には私は松岡洋右外相に同情しています。あの人不憫すぎ。


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