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四魔+デイズ  作者: 皐月二八
本編
16/23

一二日目 花妖と精霊の苛立ちは王都と共に

 ちょっと忙しい期間に突入しました。更新ペースが落ちてきていま す……もうストックもないし……。


 アルム視点でお送りしています。


 アルムとシラウのコンビ、書いていて楽しいです。

 お兄様は私たちに、ゆっくりするよう言った後、部下と共にセレイド島行政府に向かってしまいました。

 いけずな方です。お兄様の御傍にいないのに、ゆっくりできるはずがないことくらい、お兄様は御存知のはずですのに。


 そう思い、潮風が頬を撫でるのを感じながら、ふぅ、と息を吐きました。



「アルム様、“音速便”です」



 後ろから話しかけられ、何時ものように造りものの笑みを浮かべながら振り向きました。



「わかりました」



 私専属の護衛隊兵士が差し出した手紙を受け取り、送り主が書かれている部分を見つめ、思わず、その手紙を破り捨てたい衝動に駆られます。

 書かれていたのは、[フランソワ=クレベール]の名前。あの忌まわしい、首無し女(デュラハーン)……お兄様に近付く、あの女。



「――――王室護衛隊装甲騎兵長の分際で……」


「――――?」



 思わず小声が口から漏れ、私の正面に控えている半目の女兵士が、一瞬だけ怪訝そうな顔をしました。



「下がりなさい」


「はっ」



 そう言うと、スッと消える兵士。


 “音速便”は、“魔鳥種”の中でも上位種……より具体的に言いますと、音速で飛行可能な者たちで編制された郵便配達部隊のことです。民間の郵便局にも大都市になら存在しますが、どちらかというと官――――即ち、政府や軍で利用されているというイメージが強く、実際間違っていません。民間のそれとは、規模も人材も段違いなのですから。


 その音速便特有の、幾重にも渡る保護魔法がかけられた――――音速便は、迅速に運ばれるべき重要な知らせのために用いられるのが常識です――――封筒に書かれていた、装甲騎兵長の名前は、私の胸を不快感で満たすには、十分な効力を持っていました。


 装甲騎兵隊は、王室護衛隊の中でも重武装の機動戦に特化した強力な戦闘部隊です。指揮権は魔王、つまりお兄様が一手に握っており、要するにお兄様の配下ということになります。

 言い換えれば、私も干渉することができない存在。


 それが腹立たしい。


 嫉妬の炎が胸を焦がすのを自覚しつつ、手紙を一読し――――ため息をつきました。



「……シラウ」


「……何?」



 取り敢えず近くでボケっと突っ立っていたシラウを手招きすると、無表情ながら億劫そうにするという器用な真似をしながら、シラウが歩いてきました。



「……緊急事態です。王都湾に海獣が出没しました、掃討隊が迎撃しています」


「……? それが?」



 シラウは僅かに首を傾げました。此れがお兄様の前でなら、もう少し――――あと三ミリくらい、リアクションがオーバーになるでしょう。


 確かに、彼女の懸念は分かります。海獣が都市の鼻先に現れ、魔王軍と戦闘にはいるのは緊急事態ですが、珍しくもありません。魔王城の目と鼻の先にある王都湾(旧名ノルトキール湾)とて、例外ではなく……要は、“天災”と同じことなのですから。


 海獣も生物である以上、習性や活動周期・範囲は決まっています。定期的にやってくる災害、それが海獣襲来なのです。

 当然、決まった周期にやってくる以上、対策はとれています。魔王軍から抽出した海獣掃討隊もその一つです。



「今は確か、大型海蛇シーサーペントの活動時期だったはず……」


「いえ、やってきたのは、大型飛鮫ラプターシャークです」


「?」



 かなり重要なことなのですが、それでも、シラウの瞳に揺れは見えません。冷静すぎるのか鈍いのか、確実に前者なのですが、思わず疑いたくなってしまいます。


 ラプターシャークは、獰猛で群れで移動し、しかも自前の鷲の翼程もあるヒレと魔力で空を飛ぶこともできる(精々一〇分程度ですが)、船乗りにとっては疫病神の海獣です。

 通称“船喰い”と呼ばれる程強力な牙と顎を持ち、木造船は勿論鋼鉄の駆逐艦に大穴をあけることすらできるという厄介者の代名詞。


 ですが、本来なら態々湾に入り込んでまで地上に攻め入るような特攻魂は持ち合わせていません。大洋のど真ん中にでもいない限りは、居合わせる可能性は少ないはずです。



「……“操作魔法”の可能性が在るようです。王都防衛軍は、そう結論しました」


「……そう」


「お兄様の庭が……魔法で汚されることとなります」


「分かった」



 シラウは即座に頷くと、自身の周囲をくるくる廻っている球体の一つ、毒々しい紫色に輝いている其れを手の中に納めました。

 そして、ぎゅっと強く握ると、怖気が走るような光が手の中から漏れ出ました。



「……殺した(・・・)


「便利ですね、“毒”を司る其れは」



 毒を操れる“精霊種”はシラウだけ。彼女のオリジナルです。世界のあらゆる場所に瞬時に、望むままの毒を発生させることができ……遠隔地からの毒殺など、彼女にとっては欠伸が出る程楽なことでしょう。


「鮫の周囲の空気だけを、即死級の猛毒に変えただけ。……容易い」


「私の毒の方が、強力ですけど……。私の周囲にしか、出せませんから」



本当に、色々と使える妹で助かります。長女として、此れほどの手駒はいないでしょう。

……蛇女や鳥女と違い、表向きは私に従順ですから。



……それにしても、あの首無し女、お兄様の心労を避けるために、態々私に“音速便”を送ったのでしょうか……。

 そう言う気遣いも、余計に苛立たしいですね。



「……車と、同じ?」


「おそらく。ですが、人間界サイドの優れた魔法使いは、殆どが“魔海嘯”で戦死したはずですが……」


「雑草は、抜いても抜いても生えてくる」


「ええ、もっともです。鬱陶しい下劣な雑草は、処理をしても処理をしても追いつきません」


「……流石に、特定して居場所が分からないと殺せない。人間界むこう丸ごとなら、指を振るだけでできるけど」


「私もです。…………時に、シラウ」


「ん?」


「クレベールのこと、如何思いますか?」


「――――」



 シラウは黙り、忌々しげに息を吐きました。其れだけで、十分伝わります。



「あの女……間違いなく、一家臣以上の想いを、兄上に持ってる……死ねばいいのに」



 平淡な声で、シラウは魔王城にいるであろう銀髪の女を睨むように、目を僅かに細めました。

 しかし、急に後ろを向くと、スタスタと歩いていきました。



「おや、何処へ? 目的くらい、言って行きなさいな」


魔王軍やくたたず共に話を聞いてくる。……兄上の所有物である魔王城と王都に何かあったら、それで兄上が悲しむようなことになったなら…………許さない」



 その表情は見えませんでした。

……何時も通りの、無愛想な無表情でしょうね。


 多分私も、同じような表情をしているのでしょうが。


……まぁ、私たち以外のも、お兄様に近付く女は一人や二人ではありませんし……お兄様自らがお選びになっている分、仕方がないと言えば仕方がないのですが。






 魔界と人間界の関係は、東西冷戦をイメージしています。


 広大な魔界には多くの言語が在ります。登場人物がドイツっぽい名前だったり、フランスっぽい名前だったりごっちゃなのもそのせいです。

 但し、公用語が幅を利かせているので、地方独自の言語は失われつつあります。


 現実世界でも起こっている問題ですね。


 御意見御感想宜しくお願いします。


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