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四魔+デイズ  作者: 皐月二八
本編
11/23

七日目 歓迎用意と裏話

 前半はカイ視点、後半は第三者視点を入れてみました。

 第三者視点は、そんなに多く入れるつもりはないです。


……次話くらいから、少し進み始める……かも。

 その場に入った僕は、思わず身体が震えそうになった。

 魔法技術・そして科学技術の産物である各機械を身体の一部のように操り、声やジェスチャで意志伝達をしつつ、大勢の兵士が動いている。

 まるで、彼ら自体が一つの機械のように。


 それが、魔王軍の優秀さを何よりも物語っているように思えた。

 うん、自画自賛。



「魔王陛下及び姫様に向かい、敬礼ッ!」



 何処からかそんな声が聞こえると、その場にいた全員が一糸乱れぬ程完璧な敬礼を此方に向けた。

 内心、後ずさりそうになるのを堪えつつ、鷹揚に頷き返す。

 それを確認すると、兵士たちは一斉に作業に戻っていった。

 考えてみれば、此処は今や数少ない人間界との界境線付近。言葉を換えれば、“最前線”だ。兵士たちの士気が高いのも、当然のことだった。


 一番平和ボケしているのが魔王トップなんて、笑い話にもならない。


 気を引き締めていると、同行して来たパルラダ中尉に兵士がボードを渡した。統一魔界語(魔界第一公用語)で、何行かに渡り書かれている。筆跡から、程良く乱雑に高速で書かれていることが容易に想像できた。

 鳶色とびいろの瞳を一瞬だけ光らせ、パルラダ中尉は神妙な表情で僕に告げる。



「件の国籍不明集団の映像を解析した結果、ヤシマの国章が確認できました」


「ヤシマ?」



 それを聞いて、僕は首を捻った。


 ネメア大陸において、魔界と界境を接する人間界国家は四つ。

 フィデナルスク公国、帝政エルビトア、ウィーゼリア・スレイア王国連合、独立アールセノイド国だ。

 ヤシマ群島帝国は、その何れにも当てはまらない。いや、そもそもネメア大陸に存在しない。

 “群島帝国”の名が示す通り、ヤシマは大小無数の島々からなる島嶼国家で、ネメア大陸の南西から大洋の半分以上を領有する海洋国家だ。


……如何も此の世界と僕のいた世界は何処か似通っているらしく、王立大図書館で見た資料によると、ヤシマの地理環境や文化は日本と微妙に似ていた。



「如何して、そんな国の車両が…………」



 魔界を含めて(・・・・・・)世界中に交易路を持っている海洋貿易国家たるヤシマは、海軍力や飛行艇技術は魔界に劣らず優秀だった。しかし、陸軍に関して言えば、最小限度の其れでしかないと聞いている。

 これは、ヤシマが大陸の戦争に介入する気がさらさらないことの意思表示でもあった。


……僕が、此処まで詳しい理由もまた単純。魔王軍にとって、脅威となり得る海軍や飛行艇戦力を保有している国がヤシマだけであって、つまりは、ヤシマ艦隊は魔界にとっては最大級の“仮想敵”であるからだ。



「……その情報は、本当なのか? 偽装などは考えられないか?」


「十分考えられます。何しろ、ヤシマは大陸諸国の殆どと仲が悪いですから、通行許可が下りるかも分かりません」



 ヤシマは、海のど真ん中に在るという地理的事情、そして、世界有数の大海軍を保有しているという国力的事情もあって、人間界と魔界との争いに疎遠だ。人間界・魔界両方と交易を結ぶ国など、ヤシマを除けば独立アールセノイド国や中小国くらいしかない。

 また、大陸諸国とは違う独自の宗教・魔法・文化・伝統etcを持ち、大陸諸国との仲はあまり宜しくないと聞いていた。



「……ところで、陛下」


「うむ」



 黄土色の髪を掻き揚げながら、中尉はおそるおおる、といった感じで僕を見た。

……何だろう、頭の中で警鐘が鳴っている。



「――――先程から、ヒノ様の御姿が見られないのですが…………」






「――――――」



 振り返ると、あまりにも場にはそぐわない程の美女が三人・・



「……そう言えば、あの鳥頭は幻術が得意でしたわね。

 私は“植物”であの娘は“火”。つくづく、相性が悪いですわね」


「…………アレ? 気付いていなかったのですか? 姉さんが黙認したのかと思ったのですが。バレバレでしたよ?

……ったく、これだから無能な姉は……」


「――――何か言いましたか?」


「――――ええ、何か言いましたが」


「「……………………」」


「……五月蠅い……兄上、如何する?」



 最初にアルムがポツリと漏らした言葉で、僕は妹たち三人と顔を見合わせた。

 そして、何時も通りの言い合いが始まる。

 幻術――――熱を利用した空気の揺らめき。火影ホカゲを駆使した、ヒノだけが使える高度なこと極まりない幻術。



「……まぁ、しょうがない、かぁ…………」



 呆れかえる程ハイ・スペックなのが我が妹クオリティなのだ。それは、末っ子ヒノとて同じだった。

……それに、国際問題になる可能性を考慮すれば、ヒノもいきなり攻撃をかけることはしないだろう。

 彼女自身世界を焼き尽くす力を持っていようとも、僕が望まない限りは彼女は其れをしない。

 いや、彼女たち(・・・・)はそれをしない。


 それは、僕自身が良く分かっている。



「アルム」


「はい」


「“串刺し森”を支配できるまで、どれだけかかる?」


「一秒あれば」



 即答して微笑むアルムを一瞥して、そのあまりの頼もしさに笑いが零れた。

 “花妖種”は植物と繋がる。特に、アラルウネと呼ばれる下半身が花弁となっている魔物は、より深く植物とリンクすることができるのだ。

 アルムに至っては、世界中の植物を操り、思うが儘に、指先のように動かせる。


 “串刺し森”とは、魔界と人間界の界境線に広がっている針葉樹の森のことだ。界境線を可視化するため、魔法で創り上げられたものだという。

 界境線を引くように細長いその森は、上空から見れば、まるで大陸を串刺しにしているように広がっているように見えることから“串刺し森”と呼ばれるようになったそうだ。


 その森は、魔法で制御することで、いざとなれば強固な防衛ラインになる。

 植物を操ることは“精霊種”の一部も可能だけど、やはり“花妖種”の独壇場だ。

 当初は要塞線を建設することになったそうだけど、あまりにも時間とコストがかかるため白紙となったらしい。


 因みに、人間界側には要塞線が存在する。魔物の進行におびえた彼らが、必死に建築した要塞線で、“大きな壁”というそのまんまな名前で呼ばれていた。


 もっとも、人間界と魔界の越境者が皆無というわけじゃあない。細々とだけど交易は行われているし、双方に旅行に行く者もごく稀にだけど存在する。



「じゃあ、頼んだ。何時でも“攻撃”出来るようにしてくれ」


「――――はい」



 少し何か言いかけた後、アルムは黙ってくれた。

 彼女の言いたいことは分かる。

 本来なら、其れは界境警備隊の仕事だ。

 隣接国を刺激しないよう、界境警備隊は不必要に物々しくない装備で固めている。人数然り、人材然り。


 それでも。



「……心配だから、ね」



 この呟きを聞いて、妹たち三人が如何思ったのか……僕は、それを意識的に頭から追い出した。










「――――――フン、漸く協力する気になったか、島の蛮族が」



 開口一番そう言われ、一組の男女は顔を僅かに歪めた。

 豪華絢爛な装飾が施された部屋、円形のテーブルには、一〇人程の人間が顔を揃えていた。

 その雰囲気は、御世辞にも和やかとは言えない。其れが、先程の一言――――青色の修道服らしき衣に身を包んだ壮年の男が投じた一石により、さらに悪化した。

 殆どが気まずそうに、修道服男に睨まれた二人を見つめている。


 その男女は、他のメンバーとはいささか異なり、浅黒い肌に漆黒の髪と瞳を持っていた。

 そして、純白の詰襟軍服を着込んでいる。右胸には、世界語――――人間界側の第一世界公用語――――で、“ヤシマ国防軍”との刺繍、そして国章があった。



「“協力”とは些か齟齬がありますな。“巻き込み”の間違いでは? 我が軍が仕入れた情報によりますと、串刺し森に車両の一団が向かっていると。……何故か(・・・)、我が国の国章を掲げて」



 背の高い、見た目からしてかなり若い青年将校が、孕む怒気を抑えるような表情で言った。



「しかも、使っていた車両は貴国――――エルビトア製とのこと。我が軍は、そのような車両は運用しておりません」



 続けて言った言葉にも、修道服男は大して気にかけなかったようだ。鼻を鳴らし、嘲笑と共に返した。



「フン、女を連れ込むヤシマ人共は、やはり頭が鈍いようだ」



 指摘され、濡れ羽色の髪を持つ女性はムッとしたように渋面を作った。

 ヤシマは建国以来、強大な魔力を有する“巫女”が国のトップ、すなわち“女帝”となることで国を治めてきた、世界でも珍しい女帝国家だ。

 そんな御国柄もあり、ヤシマは他の国々と比べて女性の地位が高い。其れは社会的地位のみならず、優秀な女戦士を多く輩出していることから、国家の要たる国防――――つまり軍においても同じだった。


 一方、大陸諸国では、そもそも女性士官など数えるほどしかいない。


 特に宗教色の強い帝政エルビトアは、ヤシマからしてみれば唖然とさせられるほどの男社会であった。

 そんな些細な(と言っては語弊が在るだろうが)違いから宗教の違いなどもあり、ヤシマとエルビトアは兎に角仲が悪い。


 現在、中立国アドマーニに集まっているのは、“主要国”と分類されている、早い話が大国の人間だった。

 といっても、集まっているのは然程地位の高い人物ではない。

 大使館の駐在武官が精々だった。

 要するに、然程重要度が高くないのだが――――現在進行形で、魔界領に自国の国章を掲げた一団が吶喊しようとしているヤシマからすれば、正しく非常事態である。


 そもそも、大陸にヤシマ軍は駐屯していない。いや、いるにはいるのだが、交易拠点を守るために数千人規模の守備隊が点在しているにすぎない。当然、攻撃されても時間稼ぎくらいしかできず、ヤシマ本国から世界に冠たるヤシマ艦隊の到着を待つほかない。

 無論、自分たちから攻勢を仕掛けるなど問題外だ。



「簡単な話だ……誇りある一番槍だよ、ササカミ少佐」



 修道服男の不気味な笑いに、黒髪を持つ二人は視線を交わし合った。








 次回はヒノ視点が入るつもりです。


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