六日目 精霊の心中と外からの矢
リクエストに応じる形ですが、前半はシラウ視点を入れてみました。
後半はカイ視点です。
こんな風に視点の切り替えが此れからも入ると思います。第三者視点も入るかも。
視点の変更が在る際は、上記のように前書きにて明記します。
其れがない場合は、全部カイ(主人公)視点だと思ってください。
王族という立場に在る私たちだが、その暮らしは昔から、華々しいものではなかった。
私からすれば、兄上の御傍にいる時点で此れ以上ない程華々しいのだが、第三者の視点から客観的に判断すれば、大して華々しい優雅な生活といえないだろう。
母は、末の妹を産むと同時に亡くなり、父と名乗っていた男は、戦に熱中していた。
私……いや、ボクことシラウ=ヴァルキュリア=フェディークスが一時とはいえ軍に入ったのもその影響……というわけではなく、単に兄上のために身体を鍛えようと考えただけなのだが。
幼いころから、ボクたち四人の世話は兄上が行っていた。其れは理由の一端に過ぎないが、ボクたちが兄上を心の底から慕っていることは間違いない。
そして其れは、兄上以外に対する不信と憎悪に昇華した。
特に、“あの事件”以降は……私の想定は、一言で言い表すならば、遅すぎたの一言に尽きた。
兄上の御意志を尊重するだけではいけないことを、嫌というほど思い知った。
おかげで、私……いや、ボクも……むぅ、如何にも此の一人称は、まだまだ慣れるまで一苦労しそうだ。
……まぁ、何もマイナスの結果しか残さなかったわけではないため、取り敢えずは良しとしよう。
結果的に、兄上に反対する愚民共の排除の口実となり、王立政府の風通しも幾分か良くなった。
とは言え、油断は禁物。屑は無限に沸いて出てくる。連中は雑草のように、引っこ抜いても焼きつくしても生えてくる。
そのためには地面ごと消滅させるのが得策だが、其れは兄上の意志から逸脱してしまう。可能な限り、避けねばならない。
もっとも、ボク自身は兄上に危害が加えられでもしない限りは、好き好んで兄上の意志に反対するつもりも、ましてや逆らうつもりもないのだが――――如何もボクは、兄上の前では思ったことをそのまま口にし、考えたことをそのまま実行してしまう。
だから兄上は、ボクのことを何かにつけて物騒な言動をする妹だと思っているだろう。
……………………敢えて口にも行動にも出していない、心中で考えていることは、それほど生温いモノではないのだが。……アレを言動に出すと、流石の兄上もドン引きするだろうから……。
……ん、それにしても、少し冷えてきた。
背中に風があたり、コート越しに背中を刺してきているようだ。
……このくらいなら、自然の力に頼るまでもないだろう。暖房魔法は、このような気候を生き残る知恵として、太古の昔から継承されてきている。然程難しくもない基礎中の基礎魔法だ。
“精霊種”のウリは“自然の力”――――ボクの場合七つだが、ボクが生まれる前までは三つが最高と言われていた――――を操れることだ。此の力には、別段魔力はいらないが、精神力と言うべき力は消費する。まぁ、使い切ったところで猛烈な睡魔に襲われる(らしい)だけだが。
其れとは別に、魔物や人間の殆どが使える“魔法”も、(大多数の)“精霊種”は問題なく行使できる。但し、“自然の力”が使える代償なのか、一般的に“精霊種”は他種族と比べると魔力が少ない。
ボクも例に洩れず、姉妹の中では魔力は低い方だ。まぁ、それでも並みの同族の数億人分くらいはあるのだが。
ちなみに、兄上は冬季装備に兄上自身の暖房魔法、そして四姉妹全員の暖房魔法が重ねがけされているので、問題ない。
……此処は、寒いな。
兄上に寄り添いたくなる衝動を堪えつつ、周囲に気付かれない程度に身体を震わせた。
…………まったく、酷く寒い。爬虫類でもあるまいに。
「――――お」
誰かの声が引き金となり、全員空を見上げた。
風が吹く中、飛行艇が編隊を組んで飛んでいるのが見える。いや、大型飛行艇が編隊を組んでいる様は、寧ろ“艦隊”という表現が適切なのかもしれない。まるで、鯨の群れを見ているかのようだ。
僕たちが乗ってきたのと少し違う、しかし、れっきとした魔界製の魔界育ちだ。
「此れは凄い――――空中艦隊だなぁ」
男心を存分に擽る兵器の御出ましに、思わず溜息をついてしまう。
駆逐型飛行艇。早い話が、針鼠のように機関銃を装備し、強力な装甲で覆われた武装飛行艇だ。勿論、軍用だ。
人間界側が高速航空機を実用化できず、しかも人間界軍の主な航空部隊は飛行船や飛行魔法使い、竜騎兵・鳥騎兵などで編成されているため、魔王軍は航空機に然程高速性をこだわる必要もなかった。
大体、“魔鳥種”の殆どが並みの航空機を凌ぐ速度を出せるため(超音速ジェット機を凌ぐ者も珍しくない)、魔界では高速機は然程需要がないのが実情だ。
旅客機や輸送機も高速である必要はない。民間機ならなおさらで、コスト・パフォーマンスの面からみても、無駄に高速性を確保するのは得策とは言えなかった。
だからと言って、高速機の研究を止めては技術開発がストップしてしまう。
そのため、仕方なく一部の部隊だけ高速戦闘機を配備していた。
其れ以外の魔王軍航空機部隊は、やたらと河川・湖が多く、さらに世界の海の七割を勢力圏に納めている魔界の実情もあって、水上機や飛行艇が主力装備だ。
もともと魔界では、“魔鳥種”以外の魔物が空を飛ぶためのツールとして飛行機を開発していた。
ちなみに、現在の魔界技術ではジェット機やターボ・プロップ機は開発できない。
如何頑張ってもレシプロ機が精々だ。
勿論、駆逐型飛行艇もレシプロ機だ。ついでに言うと、双発。
ちなみに、魔界は民間の航空機開発・保有(特に飛行艇・水上機)がかなり盛んだ。いや、ブームになっていると言ってもよいかもしれない。
まぁ、そのせいで民間企業の技術が大いに向上したのは、僕自身予想していなかった副産物だけど。
……よくよく考えてみれば、民間の然程スペックが高くないシロモノでも、飛行艇は飛行艇。おいそれと開発できるモノじゃあない。そんなモノの需要が高まれば、供給を追い付かせるために技術レベルが向上するのも当然か。
「訓練中か?」
「哨戒も兼ねております。連中もさぞ張り切っていることでしょう。陛下の頭上に敵機の侵入を許せば、面汚しどころでは済みませんからな」
中尉の言葉に思わず苦笑した。
貴重な巨大飛行艇が群れで飛んでいるなんて、そうそうあるわけがない。普段通りなら絶対に御目にかかれない光景だろう。
其れが今日大空を遊弋していて――――その理由は明白だった。
「――――――お兄様」
「へっ?」
突然、アルムの声が真後ろから聞こえてきた。彼女の視線の先をみると、駆逐型飛行艇の編隊が――――突然、方向を変えた。
飛行機にはあまり詳しくないが、普段の飛行では、まずしない機動だということは何となくわかる。
その時、通信用魔石を装備していた兵士が顔色を変え、パルラダ中尉の耳元で二、三言囁いた。
悠然としていたその顔が、一瞬だけ歪む。
「――――陛下、界境線に向け、進行してくる集団を界境警備隊が捉えました。監視用魔玉から転送された映像の解析結果、件の集団は一〇輌前後の車両で編成されているようです。界境線に一直線に向かっています」
「……わかった。皆、視察はいったん中止だ。
中尉、済まないが、最寄りの魔王軍駐屯地に案内してほしい。其処に臨時の最高司令部を設ける。
到着するまでに、情報伝達網を整えてほしい」
「諒解しました」
「ファドゥーツ卿、貴隊の一部を界境警備隊に送ってくれ。意志伝達をスムーズにしたい。
但し、報告が来るまでは指示を出さない。手筈通りの対応をとらせておいてくれ。
私は軍の運営は素人だ。魔王軍の円滑な行動を期待する」
「御意」
二人が行動に出るのを確認して、僕はため息をついた。
労力の六割を、妹たちを押しとどめるのに神経を使うことになるだろうから。
此れからも妹四人や他の人の視点をちょくちょく入れていきたいと思います。
御意見御感想宜しくお願いします。