紅色の終止符
朦朧とした意識の中で、薄暗い部屋にかちりと鳴るジッポの音がやけに耳に響く。
私は重い体を起こして、黙って紫煙を吐き出している背中に抱きついた。
『ねぇ、今度は何時来てくれるの?』
火照った体が彼の素肌にぴったりとくっつく。その感覚が気持ち良くて、楽しむように肌と肌を摺り寄せた。
しかしその肌はするりと私の腕を擦り抜け、シャツに腕を通しボタンを留め、無言で余韻に浸る時間の終わりを告げた。
そして、吐き捨てる様に彼は言った。
「もう、俺達終わりにしよう」
無表情のまま私にちらりと視線を向けて、そして彼は背を向けた。
『…どうして……?』
彼の言った言葉がぐるぐると私の頭を駆け巡り、徐々に正常な思考の働きを失っていく。
『愛してるって、言ったじゃない!』
私は叫んだ。
『奥さんと子供がいるから?私の事嫌いになったの?』
怒りと悲しみとで、涙も出て来ない。
『私は、遊ばれていたの…?』
彼の背中はもう話したくないと物語っていた。
『なんとか、言ってよ!』
手元にあった写真立てを投げつける。
彼には当たらず、ガシャン!とテーブルの足に当たり、割れた。
段々呼吸が苦しくなっていく。
心臓の音が体中を巡る。
しばらくの沈黙の後、やっと彼は口を開いた。
「…最初から、結ばれない愛だったろ。」
振り向き様に言った後、紺色のスーツを羽織りかけた彼の腕に私はしがみついた。
『お願い、待って!捨てないで!!』
しかし私の手は冷たく払いのけられた。
「いい加減にしろ!」
ビクンと、一瞬体が震えた。
『俺には子供も妻もいるんだ!』
私を大声で怒鳴りつけた後、彼は手早く身支度を済ませ玄関に向かい、黒い皮靴を履いてドアノブに手をかけた。
「………ぃゎ…」
『…なんだよ?』
「絶対許さないわ…」
『は?……が…っ…』
彼はその場に膝からがくりと腰を落した。白いシャツを紅く染める様に、鮮血が滲み出て来る。
私は握っていた包丁を抜いて、今度は深く胸に刺した。
「あなたが悪いのよ。わたしを捨てるから。」
そして包丁を抜いた後、何故か可笑しくて、笑い転げた。
「ふ、ふふ。ふふふはははははははははは!」
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不意に襲った感覚と激痛に、俺はその場に崩れ落ちた。そして、二度目の痛み。
目の前には、高笑いをしている女が映る。
ふと、子供と妻の笑う姿が浮かんできた。
楽しそうにブランコで遊ぶ可愛い息子。
それを見守る幸せそうな妻。
そして生い立ちから今までの事がものすごい速さで脳裏を駆け巡っていった。
…あぁ、此れが死ぬという感覚か……。
徐々に遠くなって意識の中、狂った様に笑う女をぼんやりと見つめて、俺はゆっくりと瞼を閉じた。
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彼が動かなくなった所を見届けて、彼の体をリビングに引きずって移動させた。
そしてまじまじと見つめて腹部を触ると、紅い血がどろりと手の平に附着して私はそれに見とれた。
何て綺麗な色なんだろう。
私はもっと見たくて、彼の体を切りつけた。
《りかちゃん。》
ふいに、誰かに呼ばれた気がして振り向くと、閉めていたはずの窓が開いていてカーテンが揺れていた。
「だぁれ?」
私は首を傾げた。
揺れるカーテンから差し込んでくる夕陽が、床に転がっている愛しい人の抜け殻と、段々とドス黒くなっていく血を照らす。
私は彼の側に行き、彼と同じように寝転がって、冷たくなっていく唇にキスを一つ落した。
視界のアングルを天井に移し、綺麗なオレンジに染まっていくのを見つめながら、私は手元にあった包丁を高くかざして、思い切り喉を深く突き刺した。
風が爽やかに吹く外からは、子供たちのはしゃぐ声が聞こえていた。
こんな作品とも言えないモノをお読み下さり、ありがとうございますm(_ _;;m
私は小説を書き始めたばかりで、文法とか副詞とかその他諸々何も解っておりません;
ただ、ムチ入れのつもりで書きました。
これから徐々に覚えて行こうと思いますので、どうか宜しくお願い致します…