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沙織と私がケンカした、と言うのは結構な勢いで広まった。
「宮野さん、沙織ちゃんと喧嘩したんだって」
「えー、それホント?」
「みたい! 最近話してないし」
コソコソと話す女の子たちがちらりちらりと見られていた。少し、イライラしていると有希ちゃん、と松井さんが話しかけてきた。
「大丈夫? 噂、すごいよ?」
思わず苦笑いを浮かべてそう? と聞いた。
一体なんでこんな妙な話が急激に広がるのだろうか。
「聞く分には楽しいけどねぇ」
松井さんのにやりにやりと笑った顔が印象的だった。
「有希チャン有名人だねぇ?」
「え?」
蒼井くんが楽しそうに話しかけてくる。
「何それ」
「あれ? 自覚なかったの? これ、有希チャンたち4人の話だからこんなに広がってるんだよ?」
「意味、わかんない」
何となく、わかるような気もしないでもなかった。
沙織は男女問わずに明るく、優しい。
賢治は生徒会長候補として有名。
武も犬みたいな容姿でみんなに可愛がられていた。
それでも、どうしてか、それを素直に認めたくない私がいた。
蒼井くんは有希チャンらしいや! とケラケラ笑った。
まったくもって意味が解らない。わかるように説明してもらいたいものだ。松井さんはやっぱり楽しそうに笑っていた。
放課後、監査委員の説明という名目で居残りをしながら蒼井くんを待っていた。
「はやく来てくれないかなぁ」
最近、よく、と言うか、クラスの子の中で唯一話す松井さんはもう帰ってしまった。
今日は好きなアーティストのアルバムが出るの!! とか騒ぎながら慌てていた。
CD、買えたのだろうか。放課後の少し暗い教室で校庭を見渡すとタケと麻美の姿が見えた。
あぁ……沙織はまた部活に行かなかったんだ……。
ボーっとしながら外を見ていると誰かの視線を感じた。
「有希」
「賢治?」
これまた珍しいものだ。小さく息を吐いた。
「珍しいね」
「あのなぁ……」
砕けた賢治の口調に私は笑みをこぼした。
「ふふふ。何?」
「あぁ……もう何か」
賢治は聞きにくいことなのか少しだけ頬を掻いた。
「何? 沙織のこと?」
賢治に向き合いながら誰の物とも知らない机に座った。
「あ、あぁ」
「わかりやすいね。賢治は」
「それ、有希にしか言われない」
苦笑をもらしていた賢治に私は笑った。
「有希チャン? ごめんねー、待たせ……。ってあっれぇー?」
「確か……監査委員の蒼井だっけ?」
「賢治くん、君、今更有希チャンを生徒会にスカウトー? 悪いけど、先にアプローチ」
「蒼井くん、そんなんじゃないから。賢治、ごめんね。蒼井くんと約束してんの」
「あ、おい。有希!!」
賢治の言葉に振り向いて薄く笑った。
「喧嘩しただけよ。心配かけてごめんね」
蒼井くん、行こう? そう言って背中を向けて教室を出た。
「有希!! 何かあれば聞くから」
賢治の言葉に一度振り返り、ありがとうと言った。