12
食堂をキョロキョロして、開いている席を探した。
「あ、有希チャン、ここ空いているよ」
もうすでに何度か聞いている声をまた聴いて、声の主を探る。
「蒼井くん」
「おぉ! 隣、いいか?」
武は私が反応するより先にそう言うとスタスタと歩いて行った。
蒼井くんの隣に私、その横に沙織、そして、私と沙織の前にそれぞれ賢治と武が座った。
「沙織、唇どうした?」
お昼を食べながら武が目ざとく沙織の傷ついた唇に気づいてグッと顔を近づけていた。目の前でそんなことが行われているとちょっと赤面ものでしかない。
「べ、別に!」
耳まで赤くして沙織は武から顔をそらした。その顔は嬉しそうにほころんでいた。賢治はちょっとだけ機嫌の悪いような顔をしていた。まぁ、それはそうだよね。
「うわ、こんなん目の前で見せられたくないよね」
飄飄と蒼井くんが言うと少しだけ笑みをもらした。蒼井くんがいてくれてよかった。
少し、空気が軽くなった気がした。
「あれ、付き合ってないの?」
蒼井くんはツンツンとしながらちらりちらりと武に言いかえしている沙織とそれに対して笑っている武の2人を小さく指さして言った。
「みたいね」
そう言うと笑った。
「それにしてもツンデレだよねぇ」
クスクス笑っていう蒼井くんに何かを返そうとすると賢治が口を開いた。
「ったく……何なんだよ。いったい」
ふてくされたようなその小さな呟きに、思わず顔をあげて賢治を見る。視線を感じたのだろうか、賢治は沙織と武から視線を外して、私を見た。
「ん? 有希、何?」
言いたいことでもあんのか? と優しく笑う賢治に私は少し、心配になった。
私の前でくらい、私にくらい、強がらなくていいのに。
全部、今更なのに。もどかしくなる。でもそんな思いを伝えることはできないまま、私は曖昧に笑って見せた。
「何でもないよ。ねぇ、賢治、……大丈夫? 無理、してない?」
言葉を選びながらそう言うと、一瞬目を見開いた賢治が笑った。
おそらく言いたいことが分かったのだろう、笑ってありがとう、大丈夫だと言った。何だか、その少しの動作だけで、心が軽くなったような気がした。
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