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「麻美、気づけよー」
「タケ先輩の存在感が薄いんですよぉー」
ケラケラ笑う2人を見て、賢治はふと沙織の肩に触れた。
「大丈夫か?」
「うん……まぁ」
「唇、血出てる」
「え……! あ、うん」
ふと賢治が沙織の唇の血を拭った。
沙織は真っ赤になっておろおろと挙動不審になりながら曖昧に頷くとわざとらしく髪をいじり出して落ち着かない様子を見せた。
その隣にいるのはどこか機嫌よさげな賢治。大方、自分の行動で沙織が真っ赤になってくれたことが嬉しいんだろうけど。
それを横目でみていたからかちょっと不機嫌になっている武を見て、幸先不安、と言うのだろうか。このいびつな関係に不安を感じずにいられなかった。
麻美の隣にいる友達も少し気まずそうにこそこそと話している。
どうする? どうしようか?
そんな声がヒソヒソと聞こえてきた。まだ、先輩に慣れていないみたいで、1人が意を決したように口を開いた。
「あ、あのさ……、麻美、そろそろ、行かない?」
麻美の友人らしき人物が麻美を読んだ。
気まずそうなその様子が印象的で、普通の新入生はこんな感じだよなぁ、と思った。
新入生同士ですらまだ慣れていなさそうなんだ。先輩となったらどうしていいかわからなくなってもおかしくないだろう。
すでに少し後ろにいる麻美の友人に対して、麻美は声を張り上げた。
「あ、ごめんね! 今行くよ!!」
それを言ってパッと顔を上げた。
「じゃあ、あたし、行きますね! また今度!!」
キラキラした笑顔で新入生にしては少しだけ短いスカートをなびかせて麻美は友達のもとに走った。
「タケ……」
沙織がいつもより低いテンションで何かを言う前に武が口を開いた。沙織の肩にはやっぱり賢治の手が置いてあった。
「やっぱ、かわいいよな。そう思わん?」
その言葉に空気が凍った感覚がした。
天然で鈍感っていうのは、いろいろ危険が大きいと思わずにいられないときだった。
沙織はひきつった笑顔を浮かべながら手をギュッと握りしめた。
賢治がさりげなく、沙織に大丈夫だよ、と言って笑顔を見せていた。
沙織は賢治にありがとう、と言ってそして武にいつものテンションで声をかけた。
「麻美みたいな子がタイプなんだ……?」
「え、いや……タイプっていうか、んー何だろ」
言い訳のように言葉を濁してはっきりと言わない武に少しイライラしたように、沙織は顔をしかめた。その様子に目ざとく気が付いたであろう賢治が口を開いた。
「な、はやく飯、行こうぜ」
その短い言葉に私たちは動き始めた。