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「久しぶり、麻美」
沙織はどこかひきつった笑みを顔に張り付けていた。
麻美はそんな沙織に気が付くわけでもなくにこにこと笑っていた。
どうやら沙織になついているようで一生懸命に話しかけている。そんな様子を見てわけがわからない、といった表情をしていた私と賢治に沙織は説明をし始めた。
「中学の後輩なの……」
少し躊躇しながらそう言った沙織の表情は何だかパッとしないものだった。
陸上のマネージャーしてくれててさぁ……、そう付け足して沙織は武の方を気にしているようにちらりちらりと見た。
武はただ麻美に目を向けていた。そんな姿を見て、沙織は落ち込んだ表情を見せた。
そんな沙織に賢治は賢治でもどかしそうな表情を浮かべていた。
「さお先輩の友達ですかぁ?」
にこにこしながら覗き込むように言う。目が合うと彼女は一層深く笑みをこぼした。
「こんにちは! 麻美です!!」
勢いよく頭を下げる麻美。相変わらず優しい目をしていた武が頭を下げた麻美を見て声をかけた。
「麻美ぃー? お前、俺に気づいてないだろ?」
悪戯に笑っている武の声に麻美がバッと顔をあげてみた。
「え!? タケ先輩!? なんで!?」
ワタワタとする麻美は、女の私から見ても、好感のもてる子だった。まだ若干の幼さは残るものの、かわいらしい子だと思った。
同性から見てもかわいい女の子ってすごいな……。
近くで見てみても嫌なところは出てこなかった。とは言ってもそれは第一印象でしかなくて、まだわからないけれども。
ただ、何となく、沙織が心配になって、ちらり、と伺うように沙織を見た。
沙織は、武と麻美がひどく楽しそうに話す様子を見て、きつく唇をかみしめていた。
「あ……」
音を漏らしても誰も気づかなかった。何かを言うことも、どうすることも出来なかった。
賢治のもどかしそうな表情が嫌に目に入った。