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プロローグ ~幻想世界~

   プロローグ ~幻想世界~



 ――瞬間、彼女の姿が消えた。


 否、消えたように見えたのは錯覚で、実際はものすごいスピードでこちらへ向かってきている。

 その手が携えるのは、雷の――槍。

 戦闘には不向きであろう真紅のドレスと美しい黒髪をはためかせ、非現実的な武器を持ってこちらへ迫る彼女は、一種の幻想だった。

 しかし、これは現実の出来事だ。


 天界も、魔界も、現実も。

 過去も、未来も、現在も。

『全て』を内容するこの世界に、『在り得ないこと』など、存在しない――!


 僕は咄嗟に炎の盾を創り出して右手で掴み、槍への防御に当てた。

 しかし、『どんな矛をも防ぐ盾』として創り出されたそれは、彼女の創り出した槍に容易く貫かれ、まるでガラス細工だったかのように砕け散った。

「なっ!?」

 驚愕と共に間一髪で槍を躱し、後ろに飛び退く。

 痛みを感じて下を見ると、右の脇腹部分の制服が破れ、少しだけ体が痺れていた。

「ふむ……なるほど。さすがは今年度の最優秀入学生。センスはピカイチだな」

 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらそんなことを言う彼女は、余裕の態度だ。自分が負ける可能性など、微塵も考えてはいないのだろう。

「お世辞はやめて下さい。どんな矛をも防ぐ盾があんな簡単に貫かれて、どこにセンスがあるって言うんですか」

「いやいや。実際、初めてで物を創造しただけでも、大したものだよ。そればかりか『どんな矛をも防ぐ』という設定まで、あの一瞬で組み込んでいたとは……いやはや、恐れ入った」

 全然恐れているように見えないニヤけ顔で言われてもな……。

 しかし、これはチャンスだ。今の内に――

「――今の内に、次の作戦を考えよう、か?」

 ……くそっ!

 これだから、力だけじゃなく、頭もあるやつは厄介なんだ……!

「恐い、恐い。これはあまり油断していられないな。早々に勝負を決めるとしよう」

 そう言って彼女は槍を構え、腰を低く落とした。

 来る。小手調べなんかじゃない、本気の一撃が――

 ――攻撃だ、と思った。

 先程の一戦で、力の差はわかった。おそらく……どんな防御方法・回避行動をとっても、彼女を止めることはできないだろう。

 加えて今回は、先程の失敗を踏まえての二撃目。

 絶対に僕の息の根を止めに来る。油断も、驕りも、手加減も……無駄なもの全てを削ぎ落とした、彼女の本気の一撃。

 ならば、僕もそれに合わせるだけだ。

 同じ武器で同じ構えから、同じ技を同じように繰り出し、彼女と全く同種の一撃で攻撃を相殺し、防御に代える。

それができなかったら――最悪でも相打ちで、彼女も道連れだ!

「ほう……?」

 彼女と同じ雷の槍を創り出し、同じ構えをとった僕を見る彼女の顔は……やっぱりいやらしいニヤけ顔だった。

「くっくっく……。面白い。本当に面白いな、君は……」

 その、運動会のリレーを一生懸命走る子どもを見るような目は癇に障ったが、今はこれしか手が無い。

 僕は、彼女の動きを模倣しようと目を凝らし――

「チェックメイトだ、少年」

「っ!?」

 ――気づいた時には、背後をとられていた。

「いい模擬戦だったよ。初戦でここまで戦えた生徒は、過去を振り返ってもそうはいない。今後の、君の活躍を祈る」

「クソったれ……!」

 敗北を理解し、悔しさに唇を噛む僕の背後から、槍が僕の心臓を貫いた。


 ――神無紘 DEAD 、 WINNER 神様


 薄れゆく意識の中、そんな電子音声を聞いた。


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