恋人はスパイ
研究室のパスキーにカードを捧げる白衣の祐一。
祐一はフラスコなどの実験用具の並ぶ棚の横を歩き、入り口と対面した場所にある一人用のテーブルの上にあるパソコンにUSBを指す。
ニヤリと笑いながら祐一はキーボードを叩き、USBを抜く。さっと研究室から出る祐一はカードキーを取り出す。
そこには祐一ではない顔写真が写っていた。
「感謝するぜ、科学者さんよ。これは持ち主にバレないように返すか、処分だな」
カードキーを持ったまま更衣室に入り、私服で1階の窓から外へ脱出する祐一。
そこには笑顔の愛花が待っていた。
「今日も早かったね」
「年々早くなってきただろ?」
愛花が笑顔で頷く。
歩道を歩き2人で帰る道中、愛花がゆっくりと口を開く。
「ねえ、私達今年で30でしょ?」
「そうなるな」
「将来のこととか考えてくれてる?」
祐一は「将来のこと……?」と呟き沈黙が流れる。
「そうだよ!私だって女だよ!30すぎたら結婚したいし子供も欲しいし色々考えちゃうよ……」
「……そうだよな」
祐一は斜め上を向き呆然と青空を見つめる。
愛花が不満そうに祐一を見つめる。
車通りの多い道路で三輪車にのった子供が道路に飛び出した。
愛花が叫ぶ。
祐一は愛花を一瞥して優しく微笑み、道路へ身を投げ出した。
祐一の前を車が走る。
愛花の視界を遮る車が通りすぎると、三輪車の子供は歩道に戻って道行く人に守られていた。
ほっとする愛花。
だけど、祐一が居ない。
誰かが轢かれた形跡もない。
「一体どこにいってしまったの……?」
愛花はそう呟いてから祐一は消え去ってしまった。
祐一は奥まった道をメガネ学生に変装し制服で歩いていた。
「愛花……ごめんな。俺にはお前に幸せな未来は見せてやれない。いっそのこと、俺が居なくなれば愛花も俺のことを忘れるだろう」
祐一は一筋の涙を流しながら笑っていた。




