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「気軽にタイムトリップ」できる世界  作者: 小鎌 弓


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2/2

タイムマシンに依存する世界

 ある日、世界的アーティストがSNSでつぶやいた。

「次の新曲は最高傑作だ!きっと音楽史を変えるぜ!」

 この投稿が熱狂的ファンによって大量に拡散されると、AIは、その膨大な「期待」のデータを「市場の確信」と誤認し、彼を「21世紀最高の偉大な音楽家」として扱う未来映像を生成するようになった。すると、その新曲は史上最高の伝説的な売上を記録した。


 マーケティング革命も起こった。大手メーカーが新商品のCMを世界中で大量配信した結果、「タイムワープ☆ビュー」が見せる未来には、誰もがこの商品を持っている映像が映し出された。

人々はそれを「未来の真実」だと信じ、我先(われさき)にと購入するのを見て、他業種の大企業も、次々とCMを世界中で大量配信して、未来映像を操作するようになった。


 そのころ、ある新興宗教の信者たちが、ネット上に教義を、連日狂信的に大量投入した。その膨大な量に、AIは「新たな信仰のエネルギー」と判断し、その宗教が「新3大宗教」となる未来を見せるようになった。信者は爆発的に増加し、教祖は世界中に豪華絢爛(けんらん)な神殿を建設した。


 生成される未来像が「現実」になるのを目の当たりにした人々は、「タイムワープ☆ビュー」が見せる未来を疑わなくなった。

 この強力な影響力に目を付けたのは、テロリスト組織だった。「勇者は、テロに参加し活動することが幸福である」というプロパガンダを大量に流し込み、AIを「洗脳」したのだ。「タイムワープ☆ビュー」の未来を見た勇敢な若者の多くが、テロ集団に参加していき、世界は混迷の炎に包まれた。


 各国政府は、事態を収束させるために、データ統制に乗り出した。政府直属のサイバー対策部隊を拡充し、優秀なエンジニアをヘッドハンティングでかき集めた。彼らの活躍で、テロリスト勢力の動向をキャッチしてその潜伏先を突き止め、一網打尽にしていった。また、彼らが流した膨大なプロパガンダを「ノイズ」としてAIから排除した。その一方、

「まじめに働き、正しく納税し、3人以上の子どもを産み育て、国を愛し、政府を絶対的に支持することが、最も豊かで幸福な未来である」

というような、政府が理想とする国民像データを国営AIを通じて巧妙に、かつ大量に投入させた。それにより、「タイムワープ☆ビュー」の未来映像は一変した。数年で、世の中は表面上安定し、税収は増加し、少子化は好転し、政府支持率は盤石(ばんじゃく)になった。


 一部の知識層がこのデータ操作に気付きデモ行進を行ったが、政府のサイバー部隊が「デモ参加者が悲惨な末路を辿る」といった抑圧的なデータを大量にAIに投入した。こうして、「タイムワープ☆ビュー」は、政府に都合のいい未来だけを見せる、国家公認のプロパガンダ装置と化した。


 「タイムワープ☆ビュー」で巨万の富を得た実業家は、地位や名誉、権力が欲しくなり、「自分を敬愛し従う者が、幸せなバラ色の人生を送る」というデータを最大量に投入し、自分が「唯一の権力者」であるとAIに学習させた。その未来映像どおり、人々が実業家を崇敬するようになり、彼は独裁者になった。

 が、それは1人だけではなかった。「自分が唯一の権力者・支配者である」という者が世界中に現れ、競うようにAIに大量学習させた結果、それぞれの地域で独裁者が現れた。


 こうして、お互いを認めない独裁者が世界中に乱立した。ついに、1人の独裁者が自らの力を誇示するため、核兵器のボタンを押した。それを皮切りに、次々と独裁者が核兵器のボタンを押した。

 現実世界は、一気に悲惨な状況へと転落した。全世界で、何十億もの死傷者が発生し、かつての美しい街は廃墟となり、瓦礫と化した。

 それでも、奇跡的に攻撃を免れ、被害が軽微だった地域はあった。奇妙にも、そこの人々は皆、笑顔でいた。

 なぜなら・・・彼らの顔には、「タイムワープ☆ビュー」のゴーグルが装着されていたのだ。そこには「バラ色の世界」が広がっていた。生成AIは廃墟の現実を「フェイク情報」として処理し、今まで大量に蓄積したデータを基に「愛する独裁者の下、繁栄を極める夢のような世界」を、映し続けていたのだ。

 人々は、AIが作り出した甘美な虚像に深く酔いしれていた。彼らにとって、瓦礫(がれき)と化した世界はもはや現実ではなく、VRゴーグルの奥に広がる偽りの幻影こそが、唯一の「リアル」となっていたのだ。


 廃墟の街の片隅で、ひとりの少年が目を覚ました。VRゴーグルは壊れており、もう映像は見えない。代わりに、冷たい風と焦げた鉄の匂いがあった。

 少年は、足元に落ちていたノートを拾った。それは博士のノートだった。ページの端には、震える文字でこう記されていた。

「人類は、時間を征服したわけではない。ただ、都合のいい『見たい現実』を見る技術を手に入れただけだ。人間は、自分自身で考えることを放棄してはならない。」

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― 新着の感想 ―
おお、「自分自身で考えることを放棄してはならない」なんとも、素晴らしい一言ですね! 面白かったです!
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