ブフーの刃 ― 第七話:胃袋の審判(ジャッジメント・ディナー)
■ 中空の胃界
そこは現実と信仰の狭間、食の概念が神話の理を凌駕する領域。
ミカエル(キリスト教の大天使)、ベリアル(堕天した悪魔)、そして新たな影――
イスラムの天使と**ジン(悪魔)**たちが現れる。
■ その者、黒翼をもって現れる――マリク
「罪人の魂を焼き尽くす者……それが我が責務」
大天使マリク――イスラム教において、地獄の門を司る“門番”。
その姿は炎のような翼を持ち、口を開かぬ沈黙の天使とされる。
マリクは、潤を睨みつける。
「人肉を喰らい、天使の肉すら求める愚かな存在よ。お前の胃袋に、楽園の許しはない」
だが潤は狂気の笑みで答える。
「いいぜ。地獄の門を開けてみろ。その門の蝶番まで喰ってやる」
■ 漆黒の風が舞う――イフリート、登場
炎のジン、イフリート。
イスラムにおいて最も強力な下級神的存在、悪魔とされるジン族の王。
その目には知性と獰猛さが同居していた。
「喰われる覚悟がある者にだけ、我は力を与える」
イフリートは、自らの肉の一片を切り裂くと、潤に投げた。
「食え。だが、その肉には我が“火”がある。お前が弱ければ、内側から焼かれ、灰になるだけだ」
潤は、即座に調理もせずに喰らう。
「……ッ、ああああああアアアアアッッ!!!」
彼の体が燃え上がり、血が蒸気となって噴き出す。
だが――生きていた。
燃え尽きるどころか、炎を纏う異能の肉体へと変質していた。
■ 綾音、神域に到達
天使と悪魔が戦い合う中、ついに氷室綾音が《胃界》へと侵入する。
「ここが……叔父さんがいた場所……!」
彼女の体には、**“公安制御型ブフー包丁・零号試作”**が埋め込まれていた。
精神と肉体を“合法的に”能力化するため、イスラムのハラール処理技術と、旧ユダヤのカシュルート規範を応用した超技術。
綾音は言う。
「肉は、“食い方”がすべて。喰うことを罪にしない方法で、正義を貫く。
私は、清められた包丁で正義を斬る」
■ 審判、始まる
ミカエル、ベリアル、マリク、イフリート、潤、綾音――
六者が円卓に並ぶ。
その中心には、血と記憶の肉塊が積み上がっている。
その場の誰かが宣言する。
「この世の全ての“知”と“肉”を喰らった者こそ、新たな世界の構築者となる。
神か、悪魔か、人か――すべて、今日ここで決まる」