表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

ブフーの刃 ― 第五話:二人の氷室

地下病棟、監視室。


公安警部補・氷室綾音は、昏睡から目覚めた男を前に、銃を構えていた。


目の前の男――笠松潤は、確かに犯罪者だ。

だが今、その口から漏れた言葉は、明らかに叔父・氷室警視正の言い回しだった。


「あなたは引き金を引けるかい? “正義のためなら、家族を撃てる覚悟が警察官には必要だ”――昔、あなたの叔父が、よく言っていたでしょう?」


「……黙れ」


「声のトーン、間合いの癖、ちょっとした皮肉の混ぜ方。私の中の“氷室”が教えてくれる。これは、彼の戦法だった」


「黙れって言ってんだよ……ッ!!!」


綾音が引き金を引こうとした瞬間、病室のガラスがバン!と割れた。


「侵入者!? いや、内側から……!」


笠松潤は、ベッドの拘束具を“ブフーの包丁の欠片”で切断していた。

彼の背中には、小さな“黒い腫瘍”のようなものが脈打っていた。

それは“氷室の肉”から生えた、知性の寄生器官だった。


■ 「共食い人格パラサイト・メモリ

潤は語る。


「ブフーの包丁が能力を取り込むとき、“肉の記憶”を消化するんだ。

でも氷室の肉は、強すぎた。俺の中で“氷室人格”が生まれ、自己主張してくる……」


「それでも、使える。“俺”と“氷室”――正反対の精神が、ひとつの身体に入ってる。

論理と本能、正義と飢え、理性と殺意……」


そして――


「いまの俺は、“最強の捜査官”であり、“最凶の通り魔”だ」


■ 「あなたが、それでも叔父だというなら」

綾音は震えながらも銃口を下げない。


「だったら言ってみろ。“氷室”なら――どうする。自分を喰った殺人鬼を前に、何を言う……?」


潤はふと、沈黙し――


微笑んだ。


「……“お前の責任で、俺を止めろ”だよ。きっと、そう言う」


パンッ!


銃声が響いた。


弾は潤の肩を貫通したが、彼は微動だにしない。


「いいね……その覚悟。“氷室綾音”って人間、嫌いじゃない」


彼は窓から飛び降りた。

病院の地下排水路へと逃走。

直後、非常警報が鳴り響く。


■ 「胃袋の民」、次の手

その夜、組織「胃袋の民」は宣言する。


「“新生・笠松潤”の誕生をここに告げる。彼は氷室の知能、国家の戦術、そして我々の信仰を宿した存在。

“人類の進化形”が、ついに地上に放たれた」


「目標はただひとつ――すべての職業・階級・知能・権力を“喰う”こと。

日本という社会の“全スキル”を、ひとつの肉体に凝縮させる」


「その名も――“完全胃体パーフェクト・ガストロノーム計画”」


■ エピローグ:綾音の決意

警察庁地下。

綾音は特別室で報告書を書きながら、自らの肉を見つめていた。


「叔父さんの意思は……もう外にはない。あの男の中にあるなら――私の肉で上書きしてやる」


彼女はブフーの包丁の“複製品”を机に置く。


「――私も、喰う。私の正義を、あなたに叩き込むために」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ