ブフーの刃 ― 第二話:警察庁スライス計画
雨が静かに降りしきる、東京・霞が関。
その一角――警察庁庁舎の高層ビルの最上階で、刑事部捜査一課のエリート・氷室警視正は、部下の報告を受けていた。
「また出ました、“ブフーの通り魔”の犯行です。今度は港区の外資コンサルが被害者。心臓を抜かれてました。しかも、例によって食われてる……」
「……いい加減に捕まえねばなるまいな。これは“快楽殺人”などではない。明確な、“目的”がある行動だ」
氷室は、すでに“ブフーの包丁”の存在に気づき始めていた。
■ 潤、地下に潜る
一方、笠松潤は地下鉄の廃線跡、組織「胃袋の民」のアジトで、次の“狩り”の準備を進めていた。
「氷室……か。現職の警視正を食えば、俺の“頭脳”は次のステージに行く」
組織は情報を握っていた。氷室は東大法学部卒、警察キャリアでありながら情報戦・尋問術・現場指揮も熟す“完璧な警察官”。
その肉はきっと、**国家レベルの“知性”**を宿している。
ブフーの包丁の力を最大限に引き出すには、“格上”を喰うことが必要。
潤は氷室を“解体”することで、自らを「人間の頂点」へ押し上げようとしていた。
■ 作戦開始:「脳喰い」
数日後――
霞が関の庁舎に配送業者を装い侵入した潤。
スーツの下に隠されたブフーの包丁は、今日も不気味な金属音を立てていた。
11階のトイレで警察官を一人襲い、その制服を奪う。
警察庁内には、彼の存在を知らぬ者がまだ多い。すり抜けるのは容易だった。
そして、ついに氷室の執務室へ到達――
しかし、
「ようこそ、“笠松潤”君。待っていたよ」
ドアを開けたその瞬間、背後から電撃が走る。
「……ぐっ!? なっ……なぜ……っ」
床に崩れ落ちる潤。
目の前には、手錠を持つ氷室と、その部下たち――
これは完全なおとり捜査だった。
「君の包丁、興味があったんだよ。君が何を食い、何を求めているのかもな」
潤は歯を食いしばる。
「……お前みたいな完璧な人間が……何も奪われたことがないヤツが……俺の渇きを分かるわけないだろ……ッ!」
「そう思うかい? 私も、かつて“弟”を失ってね。通り魔に――君と、似たような男にな」
静かに語る氷室の声には、かすかな怒りが滲んでいた。
■ 「いただきます」の刃
次の瞬間――
ザクッ!!
警官の一人が、胸を裂かれた。
「ッ!? なんだ――!」
倒れたと思われた潤が、不自然な動きで跳ね起きた。
「ニホンウナギの肉を食べた。“麻痺無効”を獲得!」
「……まさか、直前に……!」
潤は、庁舎の近くの料理店で仕入れていたウナギを喰っていた。
電撃を“無効化”し、起き上がった彼は、狂気の刃を振るう。
「いただきます――氷室ッ!!!」