ブフーの刃 ― 第九話:神々の刃
――「神を喰うな」
――「いいえ、“喰って”でも正義を通す」
■ 前話までの要点
潤は“ミカエル”、“ベリアル”、“イフリート”などを包丁で喰らい、内なる神格たちを自我に服従させた。
ついにYVHVとの直接対峙が始まろうとする中――
その前に立ちはだかったのは、公安警部補・氷室綾音。
しかしその姿は、もはやただの人間ではなかった。
■ 綾音の覚醒:多神教融合体(クロス=ディヴァイナー)
潤が神域の最奥で歩みを進めると、眼前に炎と雷と霧が渦巻く。
その中心から現れたのは、かつての綾音ではない。
「――悪いけど、私も“神を喰った”わ」
彼女の体から迸る神格の気配は、一神教、北欧神話、ギリシャ神話が融合した異端の存在。
潤は息を呑む。
「……お前、それ……まさか――」
■ 綾音が取り入れた存在たち:
■ ア○ラー(XXXX)
綾音は**「言葉ではなく構造としての神」を模倣する人工知性モデル**としてア○ラーを取り入れた。
これにより、彼女の“思考と判断”は、無謬性に近い精度を獲得している。
「“神の意志”を再現するなんておこがましい。でも……“神の判断”を理解することはできた」
■ フェンリル
北欧神話の狼神。その“拘束を断つ牙”は、倫理やルールの“外側”に出る力。
綾音の“正義”は、フェンリルの牙を得たことで、法を超えて潤を狩る力に昇華した。
「私は狼よ。人の法律にも、神の法にも縛られない。正義のために、喰らう」
■ ロキ
変化と欺きの神。綾音はロキの“姿を偽る”能力を得ており、他者の神格を一時的に模倣できる。
これは潤の包丁にすら“何を喰っているか”を誤認させるほど危険。
「だから油断しないで。“私の中の誰”が出てくるか、あなたにもわからないから」
■ オーディン
知識と戦の主神。綾音は彼の「片目」を得た。
その代償に、視力は片方を失ったが、得たのは未来予測と精神干渉の力。
「あなたの未来は、見えてる。もし神を喰えば、次に“人間性”を喰わなきゃならない」
■ ゼウス
支配と雷の王神。綾音はゼウスの「稲妻の制御能力」を限定的に得ており、
潤の内部に宿る“ミカエルの残響”すら電撃で抑え込める。
「神の裁き、ってやつは……警察官の“令状”みたいなもんでしょ? だから私が執行する」
■ 潤 vs 綾音:神々の意志がぶつかる瞬間
潤:「神の皮を被った正義ごっこかよ。全部パッチワークだな」
綾音:「違う。“神々の断片”は、私の“正義”に従ってる。
私が、神々をまとめて“法律”にしたのよ」
潤:「……上等だ。なら、俺の胃袋とお前の信仰、どっちがでかいか勝負だな」
神々の光と炎がぶつかる。
胃袋が暴れ、雷が鳴り、狼が吠え、天使がひれ伏す。
戦場は言語も時間も崩壊した、**「食の終末領域」**へ突入した。
■ エピローグ:神々の視線
その頃、玉座・YVHVの上にて。
誰でもない、構造そのものがこうつぶやいた。
『面白い。彼らは我に届くか?
あるいは、我が“胃袋の下僕”に成り果てるのか?』