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リブート・オブ・アーク  作者: 和幸雄大
第1部:滅びの姫と眠りし少年
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第5話:黒の魔女、空を仰ぐ

 ――その瞬間、空が裂けた。


 峡谷の底から駆け上がる青白い光は、真昼の空をも貫いて、尾を引く星のように天へ昇っていく。

 大地に残る者たちは、ただ黙ってそれを見上げるしかなかった。


「……あれが、“旧世界の遺物”」


 焦土と化したレグノル王都の外縁。

 黒煙の残る石畳の上に立ち尽くし、私は空を見上げていた。


 名はジュリア・マクミルラン。

 テンレア同盟・情報局長官。

 そして、“七聖”のひとり――《黒の魔女》。


「……予兆、か。ノクス、あなたの観測どおりね」


 意識を集中すると、念話通信が開く。

 冷たい声が、頭の奥に響いた。


『王国での例の確認はできたか』


 ノクス・アルヴェイン。

 “因果の記録者”にして、七聖最古の観測者。


「確認したわ。あの地下遺構に眠っていたのは……ただの遺物じゃない」

「空を割り、天へ昇る――あれは“世界の概念”を越えている」


『予見された可能性と一致。あれは、記録されなかった過去の一端』


「……終焉の兆し、というわけ」


 口元がかすかに動き、乾いた笑みを浮かべる。

 だが、そこに喜びも余裕もなかった。


『転生者特権法に基づき、旧遺構の封鎖と制圧を推奨する』


「相変わらず、機械みたいな結論ね、ノクス」


 私は溜息をつき、再び空を仰ぐ。

 青白い軌跡はまだ残光を引きながら、やがて雲の向こうに消えていった。


 その時。


「ジュリア様!」


 魔導観測官が駆け込んできた。

 額に汗を浮かべ、震える声で報告する。


「魔力観測器に異常反応! 空から広域干渉波が……ノクス様の予測されていた事象と一致!」


「……なるほど。“見られてる”のは、こちらの方ってわけね」


 背筋に冷たいものが走る。

 ただの監視じゃない。

 あれはもっと――因果そのものに触れるような視線。


「ノクス、これも因果の“記録”に含まれていた?」


『部分的に。しかし収束が早すぎる。このままでは選ばれなかった過去が、未来へと確定に向けて変質する』


「それは困るわ。未来は私たちが選ぶもの。……誰かに書き換えられるなんて、退屈にもほどがある」


 黒いローブを翻し、私は焦土から背を向けた。

 舞い上がる灰が夜鳥の羽のように散る。


「――全権発動。《転生者特権法》を行使」

「旧遺構の調査・発見・制圧作戦を開始する」


 それは命令というよりも、呟きに近い声だった。

 だが確かに、そこには“意志”があった。


 恐れか、それとも……かつて手放したはずの希望か。

 今の私には、まだ答えは出せない。


(――空に浮かぶ“終焉の亡霊”に、焔の矢を射るときが来たのよ)

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