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リブート・オブ・アーク  作者: 和幸雄大
第1部:滅びの姫と眠りし少年
5/7

第4話:方舟の鼓動(アオト視点)

 鼻を突くのは鉄と埃の匂い。

 扉の向こうに広がっていたのは、暗闇に沈んでいたはずの巨大空間だった。


 半球状の天井、冷たく光る管。

 そして、中心に横たわるのは――眠る巨人。


「……これが……ノア=アーク」


 隣でセリナが、声を震わせながら呟いた。


 僕は壁面の端末に義手をかざす。

 途端に、微かな振動と共に光が走った。


『ユニット認証――アオト=ミナセ。接続を開始します』


 瞬間、壁が一斉に点灯した。

 暗闇に沈んでいた格納庫は、青白い光に包まれる。

 眠っていた船体が、まるで心臓を取り戻したかのように脈動した。


「動いてるの……?」

「まだ最低限の起動。……でも、もうすぐ本格的に稼働する」


 そう言った声に、自分でも驚いた。

 二千年も眠っていた僕に、完全に扱えるはずはない。

 それでもマザーブレインは、僕を“管理者”として認めていた。


 ……理由なんて、わからない。

 けど、選ばれた以上、やるしかない。


 セリナの視線が壁面の映像に釘付けになる。

 そこに映ったのは――焼け落ちた城。黒煙を上げる街。


「っ……これ……私の……レグノル……」


 彼女の肩が小さく震えた。

 その背中を見て、胸に鈍い痛みが走る。


 守りたかったものを、何もできず失った。

 二千年前の僕も、彼女と同じだった。


「……セリナ」


 呼びかけると、彼女は涙を堪えながらも僕を見た。

 その瞳には、まだ折れていない光があった。


「僕は……この船を、君たちの敵にはしない」

「使うなら、“守る力”として……そう決める」


 


 言葉を吐き出すと、義手が淡く光った。

 マザーブレインが、まるで頷くように応答する。


『環境安定化完了。ノア=アーク第壱区画――開放』

『外部接続、十秒後に開始』


 低い唸りが格納庫全体を揺らす。

 上部のゲートが開き、差し込む光が広がっていく。


 青白い推進炉が目を覚まし、空気が震える。


「まさか……飛ぶの……?」

「空を渡るのは神々の領域だと教えられていた」


 セリナの言葉に、僕は頷いた。

 そうだ、これはただの船じゃない。

 人類の希望を空へ運ぶ“方舟”だ。


 義手を強く握りしめる。

 二千年前に失われた夢が、今ここで再び始まる。


「行こう、セリナ」

「ここから、僕たちの戦いが始まる」


 轟音が全てを揺らし、船体はゆっくり浮かび上がる。

 崩れた天井の隙間から、光の柱が空へ突き抜けた。


 ノア=アーク。

 二千年前に託された最後の希望は、再び空へと駆け上がった。


 


 



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