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リブート・オブ・アーク  作者: 和幸雄大
第1部:滅びの姫と眠りし少年
2/12

第1話:崩壊の王国 

雪が舞っていた。


灰色の空を背景に、白い結晶が風に流され、荒れた山岳地帯の崖を覆い尽くす。

その断崖を、ひとりの少女が必死に駆けていた。


銀色の長髪を振り乱し、薄く血に濡れたローブをはためかせながら。


 ――私の名は、セリナ=リュミエール・レグノル。

 かつて白銀の城を戴く王国の王女にして、今や滅亡した王家の最後の継承者だった。


「……エリーナ、カイ……」


荒い息の合間に、私は不安をかき消すように、逃がしてくれた従者たちの名を震える唇でつぶやく。

忠誠を誓った者たちは、最後の戦で私を逃がすために離れた。


もう戻る道はない。

誇り高き王都レグノルは、〈七聖〉のひとり――《黒の魔女》ジュリア・マクミルランによって蹂躙され、灰に帰したのだから。


背後から迫る追撃の気配に、心臓がいやでも跳ねる。

黒き魔女の魔法が放った一撃は、すでに山の地形すら崩壊させていた。


次の瞬間――。


轟音。


大地が裂け、崖が崩れ落ちる。

足元の岩盤が砕け、私の身体は虚空へと投げ出された。


雪と土砂が絡み合い、視界が白と黒に混じっていく。

落下の衝撃で意識が遠のいていくなか、彼女は最後にかすかな言葉を口にした。


――まだ、私は……死ねない。


暗闇の底で、私は目を覚ます。


息は荒く、体中が痛みに悲鳴を上げている。

だが――そこは崖下の岩場ではなかった。


見慣れぬ光景が、ぼんやりと視界に広がる。


錆びた鋼鉄の柱が林立し、苔に覆われた金属の床が続く。

壁には奇妙な記号が刻まれた扉が並び、まるで異質な迷宮に迷い込んだかのようだった。


「ここは……いったい……」


掠れた声でそう呟き、痛みに耐えながら体を起こす。

モンスターが出ないことを祈りながら、壁に体を預け、ゆっくりと異質な迷宮を進む。


どれくらい進んだだろうか。


奥の薄暗い部屋に、透明な壁越しに装置がひとつ鎮座しているのが目に入った。

内部をよく観察すると、眠るように横たわる一人の少年。


雪のように白い肌。

右腕には、淡く光を宿す機械の義手。


その姿はあまりにも現実離れしていて、私は思わず息を呑む。


部屋に入る方法はないかと、扉らしきものの前で周囲を確認する。


何かに触れた瞬間――ピッ。


扉が自動的に開く。

驚きながらも、先ほど見た人を確認するため、ゆっくりと装置に近づいていく。


装置に横たわる人を見た感じは、まだ幼くも感じた。

装置に手を触れると冷たい感触がしたが、落下の衝撃で痛めた足が私を現実に引き戻す。

体のバランスを崩し、装置の縁を無意識につかむ。


『認証信号受理。蘇生プロセスを開始します』


どこからともなく聞こえてきた女性の声。

私はあわてて周囲を確認する。


低い機械音と共に蒸気が噴き出し、赤い警告灯が点滅する。

透明なカプセルがやや前に動き出し、真横の体勢で停止すると静かに開かれた。


やがて、少年が瞼を開く。


 ――灰色の瞳。


それが私の第一印象だった。


その冷ややかな光に、心臓を締め付けられた気がした。

だがその瞳には、同時に確かに“生”を求める熱が宿っていた。


「……ここは……どこだ……?」


弱々しい声。

だが、その響きは確かに生きていた。


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