第3話:「宇宙時代の陰謀」
モスクワ近郊の第1設計局(OKB-1)に潜入しました。
*1961年:コロリョフの秘密
トニーとダグは、モスクワ郊外のコロリョフの第1設計局の施設の影に身を潜めながら、目の前の光景を信じられずにいた。セルゲイ・コロリョフ——本来なら1966年に亡くなるはずの天才技術者——が、生きていた。
施設の内部では、ガガーリンの宇宙飛行を間近に控え、ソビエトの科学者たちが忙しそうに動き回っていた。しかし、そこにはもう一つの異変があった。トニーは望遠レンズを覗きながら、異様な光景を目の当たりにする。
「ダグ、見ろ……あの機材、明らかに1960年代の技術じゃない。」
古式ゆかしい管制室の片隅には、真空管式の大袈裟なコンピューターに混じって、複数のノートパソコンと見られる物が置いてあり、その画面には、多数の数値やグラフが緻密に表示されている。
トニーとダグが見たアメリカのアポロ計画で使用されているNASAの管制室より遙かに先進的な風景が見えた。
「多分、未来の技術を使っている……時間改変派が関与している証拠だ。」
二人は施設内への潜入を決意する。
*潜入調査と危機
夜の帳が降りるのを待ち、トニーとダグは施設のフェンスを超え、慎重に建物内へと忍び込んだ。彼らは機材庫を探り、未来の技術がどこからもたらされたのかを突き止めようとする。
計画書を発見したダグはトニーに言った。
「この記録を見ろ。開発スケジュールが明らかにおかしい。通常なら数年かかるはずの技術が、わずか数ヶ月で完成している。」
ダグは机の上の書類を手に取り、目を見開いた。
「これは……そしてアポロ計画が実施された結果のレポート?考察?シミュレーション結果?
われわれも未だやっていないことを、実験せずに出来ているから速いんだ。
開発工程表?この時代のものではない。」
突然、施設内に警報が鳴り響いた。
「見つかった!」
二人は逃げるが、ソ連の警備隊に包囲されてしまう。銃を突きつけられながら、彼らは連行され、施設の奥へと連れて行かれる。
*コロリョフとの対峙
暗い部屋に連行された二人の前に、静かに歩み寄る男がいた。
「あなたたちは何者だ?」
セルゲイ・コロリョフの鋭い視線が二人を貫いた。彼の背後には、未完成の宇宙機の設計図が広がっている。
トニーは、慎重に言葉を選びながら答えた。
「我々は歴史を守る者だ。あなたの技術は……どこから来た?」
コロリョフはしばらく沈黙した後、低い声で言った。
「我々は夢を実現しなければならない。アポロ計画より先に、ソビエトがアメリカに先んじて宇宙を制することで、世界の均衡が保たれる。」
ダグは一歩踏み出し、問い詰める。
「この技術は、未来のものだ。どこから手に入れた?」
コロリョフは目を細め、慎重に言葉を選ぶ。
「ある協力者からもらった。」
「時間改変派か……?」
トニーの問いに、コロリョフは答えなかった。しかし、その沈黙がすべてを物語っていた。
*未来技術の正体と決断
突如、部屋の扉が乱暴に開かれ、黒い服を着た男たちが現れた。彼らはコロリョフに何事かを耳打ちすると、トニーとダグを鋭く見た。
「彼らを連れて行け。」
二人は再び拘束され、施設の地下へと連れて行かれる。そこには、さらに驚くべき光景が広がっていた。
未来のソユーズで使われている技術で最適化が計れた宇宙船の模型や試作品。——明らかに50年も60年もかかる結果が展開している。
ダグは呟いた。
「これは……宇宙開発の歴史を明らかに時間短縮している。材料がそろえば作れるところまで.....」
トニーはコロリョフを見据えた。
「あなたの協力者は誰だ? 時間改変派の黒幕か?」
しかし、コロリョフは何も答えず、ただ静かに二人を見つめていた。
その時、施設内に爆発が起こり、混乱の中でトニーとダグは拘束を解かれる。レジスタンス派のスパイが二人を救出しに来たのだ。
「急げ! 施設を脱出するんだ!」
彼らはスパイの助けを借りて地下通路を抜け、再びタイムトンネルを作動させることに成功する。
直前、トニーは振り返り、瓦礫の中に立つコロリョフと目を合わせた。
「彼は……歴史の分岐点にいる男だ。」
ダグが肩を叩く。「今は脱出するんだ。」
光に包まれ、二人は消えた。
*1968年:歴史の影響
管制室に戻った二人は、すぐにニュースを確認した。
「おかしい、ソビエトの月面着陸は……起こっていない。何が変わった?自発的に変えたのか?」
歴史は元のように修正された。しかし、トニーの表情は晴れなかった。
「だが、コロリョフはどうなった?」
ダグが報告書を確認し、驚愕の表情を浮かべた。
「彼は……1966年に死亡したという記録に戻っている。しかし、その間にソ連の宇宙開発は大幅に加速し、アメリカを脅かす存在になったままだ。」
時間改変の影響は完全には消えていない。そして、新たな改変の兆候が現れる。次のターゲットは……1962年のキューバ危機だった。
(第4話へ続く)
セルゲイ・コロリョフが活躍している。所謂コロリョフ設計局が舞台です。今は、S.P.コロリョフ・ロケット・宇宙会社「エネルギヤ」ですね。ロシアのソユーズ宇宙船、プログレス補給船、人工衛星などの宇宙機と宇宙ステーションのモジュールの設計・製造会社になっています。。