さよなら王子様
現時点で何の罪もない赤ん坊が殺されるのでそういうのが苦手な方は撤退推奨
ケーシー・カトレットは伯爵家の三女にして転生者だ。
彼女は生まれた時にあれここって前世で見た気がするなラノベとかで……と思ったものの、ケーシーなんて名前のキャラはいなかったのでじゃあ自分はモブか、ストーリーに関わらないならそこまで大変な事もないだろう、なんて安心してもいた。
だがしかし、その安心は割と早い段階で打ち砕かれてしまった。
あっ、これ原作軸の一つ前の世代の話だ……そう気づいてしまったのだ。
ケーシーが知る原作のストーリーはとてもよくあるざまぁ系のやつだった。
甘やかされて育った王子が己の婚約者にと決められた相手を疎み、平民上がりの男爵令嬢と恋に落ち邪魔な婚約者を冤罪ではめ追いやる。
その後元婚約者となった令嬢は己が無実を見事証明し、そうして王子と男爵令嬢は落ちぶれる。
そんな、よくある話が原作なのだが。
王子が甘やかされた原因は、親によるところが大きい。
なんと王子の父親――国王陛下もまた学生時代に出会った身分の低い令嬢と恋に落ち、彼女をどうにかして正妃にしようと目論んでやらかしているのである。
王子の父の更に親――王子から見て祖父にあたる当時の国王は当然反対していた。しかし最後まで反対していたにも関わらず、結局はその娘を正妃にしてしまったのである。
なお、反対していたのに正妃にできた理由としては、当時の国王が命を落としたからだ。
邪魔な相手を始末しようとして毒でも盛られたのではないか? なんて物騒な噂も駆け巡ったが、ケーシーの見立てでは恐らく高齢によるものと血圧の急激な上昇で脳の血管がぷちんと逝ったのではないか、と思っている。
厳格な王に育てられたが故に、自分の子にはそんな苦労をさせたくないという思いと、ついでに身分が低い娘は自分が妃になって浮かれ、それはもう甘やかしたのもあって見事なぼんくらに育つのだ。
このぼんくら王子が原作でやらかす。
父親と母親がこれなら国もさぞ傾くだろうと思いきや、色恋に関してはダメダメすぎた王ではあるが、一応厳しく教育をされていたのもあって仕事に関してはまぁマシであった。優秀と断言できないのが悲しいところである。
宰相をはじめとする優秀な家臣たちの支えによって国はどうにかなっているのだ。上も下も無能だったなら王子が原作でやらかすよりももっと早くに国は消えていたかもしれない。
そんな、原作が始まる前にケーシーはいた。
なんか見覚えのある部分がちょこちょこあるなぁ、でもなんか違うなぁ……と思っていたが、原作より少し前の時間軸に生まれたと知った時はどうしたものかと頭を抱えた。
ケーシーはモブだ。
原作には一切出てこない完全なるモブだ。
だがしかし、このまま原作が始まって自分が知っている展開通りの事が起きてしまえば。
ケーシーやその家族が死んだりはしないと思うけれど、それでも相当に厳しい生活を余儀なくされるかもしれない。
というのも、邪魔だとされた婚約者のご令嬢、公爵家の生まれである。
王子がぼんくら一直線でもその分優秀な女性が支えればどうにかなるだろう、と思われての彼女の優秀さと後ろ盾含めた婚約だった。流石に王子の父は自分でやらかした事の弊害を後からではあるが理解しつつあったのだ。
自分は好きな人と結ばれておきながら王子には王命で婚約をさせるとか、王子にしてみればこれもまた親への反抗心ができた原因かもしれない。
王妃は確かに見目こそ麗しいけれど、元は低位貴族の出であるが故に後ろ盾とするにはとてもしょぼい。王妃としてというよりは、王にとっての愛玩対象。そんな印象だった。
王は愛する人と結ばれて幸せだと思っているが、しかし現実ではお飾りの妃を愛でているだけと周囲の反応との差が酷く、王になってから増えた執務によってようやくうっすらと現実が見え始めてきた……というのもあった。
実際やり手の宰相殿には国に忠誠を誓ってもお前に忠誠は誓わない、と言われたはずなのだ。なんか原作でそんな描写があった気がする。過去の回想シーンとかで。
ぶっちゃけ今現在、この国は宰相殿とその仲間たちによって支えられているといっても過言ではないのだ。
なんという泥船国家。
ケーシーはそれに気づくのが少しだけ遅かった。
伯爵家の三女ともなれば、政略で縁を結ぶにしてもいい家がないなんて事もある。
年齢や家柄と問わないのであれば結婚相手はいるかもしれないが、結果として良縁ではなく悪縁が結ばれるような事になるのは避けたい。
丁度いい相手というのが見つからなさそうだったのもあって、ケーシーはそれじゃあ、とキャリアを積む事に決めた。
学園で学び、見事王宮女官の職を勝ち取ったのである。
原作で知っている王子と今の王は確かに見た目は似ているけれど、しかし王はまだ厳しくしつけられていたから、原作の王子とは違うなぁ、ってか名前も違うしなぁ、よく似た別の異世界かなぁなんて思っていたあの頃の自分に原作開始前の時間軸ー! と伝える事ができたならどれだけ良かっただろう。
しかし完全に思い出したのは、王子が生まれた時なのだ。
名前を聞いてそこでようやく「あっ!」となってしまったのである。
王宮勤めであれば婚期は多少伸びる。若いうちに結婚相手が見つからなくても、城でなら仕事漬けになって同じく婚期が遅れた殿方もいるだろうし、なんて思いでケーシーも自ら安定した職と有能な殿方を捕まえられるかもしれない、そんな考えで選んだ進路。
ところがもしこのまま王子が成長して原作の通りになってしまえば、王子は邪魔な婚約者を追いやろうとするし、その後華麗に舞い戻ってきた令嬢にしてやられるのだが。
継承権こそ低くはあるが、王子の婚約者である令嬢にも王位を継ぐ権利はあった。何代か前に臣籍降下で王族の血が入ったからだ。それゆえに、王子の後ろ盾にもぴったりだとされていたのだが。
王子がぼんくらすぎて令嬢は王子を見限った。愛も情もない挙句自分に冤罪かますような男だ。それは仕方ない。ケーシーだって令嬢の立場であればきっとそうする。
最終的に王子は王族ですらなくなって真実の愛だと思っていた令嬢とともに落ちぶれて悲惨な末路を迎える。国は王族が新たに代替わりしたことで盛り返していくが……
その際、王宮での人員整理もあったはずだ。
宰相たちとともに頑張っていた者たちはともかく、そうじゃない国王や王妃に媚を売るだけの連中は容赦なく職を辞す事となったはず。
ケーシーは国王と宰相、どちらの陣営だと問われれば宰相だと答えるけれど、それにしたって大規模な人員整理によって、それなりに忙しくはなるはずなのだ。無能がいなくなれば落ち着いた後は逆にさぞやりやすくなるとは思うけれど。
なんだったら無能な王子を放置した事で今の国王と王妃も立場を追いやられるから、国にとってはいい事なのかもしれないけれど……
まず確実に仕事の量が増える。
そもそも無能の尻拭いをしている時点で余計な仕事があるのは確かだが、無能がいなくなればその分一人当たりに割り当てられる仕事量は確実に増える。
無能といっても仮にも王宮で働く資格を持っているのだ。尻拭いをするといっても、何もかも全部をやるわけではない。
というかたぶん一番尻拭いしてるのは宰相閣下なので、ケーシーにはそこまでの負担が今のところはない。
しかし、人員整理を行った際、恐らくはその負担がケーシーの見立てでは五割くらい増す。
今の時点でケーシーが誰かのフォローに回って増えた負担はそこまでではないけれど、しかし原作通りの未来になって公爵令嬢が血筋も家柄も能力も申し分ない相手とともに返り咲いてこの国の女王となればケーシーの仕事量は確実に増えるのだ。
でも多分給料はそこまで変わらない。
……正直勘弁してほしい。
かといって、折角厳しい試験を合格して得た仕事を辞めるのもな……となるわけで。
考えに考えた結果、原作が始まらなければいいのでは? という結論に至り、ではそのためにはどうするのがいいのか、と考えた結果。
王子がいなくなればいいのでは? となったのである。
とはいっても、生まれたばかりとはいえ腐っても王子。国を継ぐ予定の大切な存在である。殺そうと思って気軽にできるものでもない。乳母や世話係がいるのでそんな中で犯行に及べば王族殺しとしてケーシーどころか一族にまでとんでもない迷惑がかかるだろう。
もしかしたら王子がマトモに成長して原作が始まらないかもしれない、という一縷の望みにかけたい気持ちももちろんあったが、しかし原作後半で宰相たちの回想シーンなどで語られた王子が生まれる前の――今の国王がまだ王子であった頃のやらかしは既に起きている。国王が選んだ女性は身分の低い見た目だけの存在で、既に自国のみならず他国からもお飾り王妃として陰で言われているのをケーシーもよく知っている。なんだったらケーシーもそう思っているくらいなのだ。
本来婚約者だった女性は側妃になるなど当然選ぶわけもなく、さっさと別の相手と結婚しているし、そちらで生まれた子の名前も原作にあったはずだ。
原作が始まるまでまだ少し先だけど、原作で語られた過去は今現在完全一致してるといってもいいくらいなので、淡い期待は抱くだけ無駄かもしれない。
となると、早い段階で王子にいなくなってもらった方がいいのかなぁ、とケーシーとしては思うわけで。
将来的に職場が大変忙しくなるのもなぁ、と思うし。
そうなる前に結婚相手見つけて寿退社できればいいが、そうならない可能性もある。
原作にケーシーというモブは出ていないので未来は未知数なのだ。
結婚相手がいないまま女官として働いている未来はあり得る。
十年以上先の話とはいえ、流石にその頃には体力も落ちてきているかもしれないし、ましてや何らかの病気に罹っているかもしれない。勿論そんな事はなく元気に働いてるかもしれないが、どっちにしても今仕事が忙しくなるなら若さと体力で乗り切れるかもしれないけれど、原作通りに王子が成人してからとなったなら。
ケーシーは無能として切り捨てられはしないと信じたいが、体力的に仕事を続けられるかはわからない。
その状態で忙しくなって身体がついていかなくなった結果、無能の烙印を押されて仕事を辞する事になったなら、と考えると未来は決して明るくなんてない。
そんな風に思い悩むケーシーであったが、なんと王子の世話係を命じられてしまった。
えっ、いいのか……? と悩んだのは勿論である。
いいの? だって私王子の事あわよくば死んでくれないかなと思ってるのに? という気持ちでいっぱい。
勿論今はまだ生まれたばかりの赤ん坊だ。
可愛い可愛い赤ちゃんなのだが、これが成長すると甘やかされまくった結果我儘で気に入らない事があるとすぐ癇癪起こす面倒くさい坊ちゃんになり、挙句の果てには父親と同じように婚約者の女性を捨てて国を傾けあわや滅亡の危機にまで晒すぼんくらとなる――というのを知っているのはケーシーだけ。
世話係といっても今の時点でやることは少ない。
乳母がいるし、どちらかといえばそちらのサポートに回る事の方が多い。
王子が成長していけば仕事内容も増えていくだろうけれど、今の時点では、まだ。
どうしよう、おあつらえ向きに王子を殺すチャンスがありそうな立ち位置になってしまったぞ……?
そんな風に悩みつつも、流石にすぐさま殺そうとはできなかった。
そりゃあ今は赤ん坊だ。殺すとなればとても簡単にできるだろう。
ちょっと首を絞めればすぐ。
けれどそうなれば王子が殺された事はすぐさま露見する。
そうなると怪しいのは誰だ、となった場合すぐに犯人は見つかる可能性が高い。
前世と異なり科学捜査のレベルはそこまでないし、ましてや魔法なんて存在していないけれど、それでも怪しい人物を割り出して調べる程度の事はできるわけで。
それに、乳母とそれらのサポートに回る世話係の他に、万が一を考えての事か護衛も存在している。
怪しい動きはできない。
このまま何もできずに原作が始まるのを待つしかないのかしら……と悩みつつ、王子が生まれて気付けば半年が経過していた。
そして王子が死んだのはそれから二か月後の話だ。
もし何事もなく成長していったのであれば、王子が我儘放題にならないよう矯正する方向に頑張るつもりであった。とはいえ、甘やかされるのを当然と思ったお子様にそんな事をすればすぐさま閑職に飛ばされるだろうとも思っていた。
何をどう想像しても明るい未来が見えなくて、どうしたものかと思いつつケーシーは、仕事の合間に城にある育児書などを読み込むようになり――
そこで、気付いたのだ。
あれ? 前世では常識とも言えるはずのあれが、どこにも記されてないな……? と。
あれ? じゃあもしかしてこの方法使えるのかもしれないな……? と。
そうしてダメ元でケーシーは実行した。
直接王子に危害を加えるわけではない。肉体的な暴力であれば見とがめられるが、一見普通に世話をしているだけならば……
実際ケーシーの行動は誰にも見咎められなかった。
そしてその結果、王子は死んだ。
死んでしまった。
王子が死んだことで悲しんだ者たちは沢山いたが、それだけだった。
国王も王妃も嘆き悲しみはしたものの、そもそもこの世界、前世と比べると医療技術も科学的な面も劣っているので、生まれたばかりの子が死ぬのは割と当たり前であった。世話係の不手際も疑われたが、医者の見立てで恐らく何らかの病気になっていたと言われてしまえばそれ以上の追及もなく。
こうしてケーシーの行いは、完全犯罪となってしまったのである。
首を絞めるだとか、高いところから叩きつけるだとか。
そういったあからさまに危害を加える行為をケーシーはしていない。
ただ、そう、ミルクにちょっとはちみつを混ぜただけだ。
一歳未満の乳児に与えないでください、と前世でははちみつやそれを使った商品に注意書きもされていたけれど。
しかしこちらの世界では、どうにもまずボツリヌス菌の存在が認識されていないようだった。
そもそもこの世界にもそれが存在しているかどうかはわからない。
ここは地球ととてもよく似た世界であるはずだけれど、ところどころやはり異なっている部分があるので。
まだ微生物の存在も認識されているか定かではないので、ボツリヌス菌というのが実在しているかもわからない未知の存在と言える。
はちみつそのものはあるが、生後一年未満の赤ん坊に与えてはいけない、という注意は城にあった育児書のどれにも記されてはいなかった。
それもあって、ケーシーはダメ元でそれを実行したのだ。
確実に死ぬという確証があったわけではない。
もしこの世界にボツリヌス菌が存在していなければ、王子ははちみつ入りのミルクを美味しく与えられてすくすく育つだけだった。
ただ、可能性を上げようと思ってケーシーははちみつを少しだけ水で薄めてそれを密封して、哺乳瓶にミルクを入れる際に混入させただけだ。
少し甘さを加えた事で、王子はとてもよくミルクを飲んでくれた。
ケーシーの行いは、周囲からすれば王子のためを思っての事で誰からも叱責されなかった。
そう、誰からも。
乳母が何か言うだろうかと思っていたが、しかし乳母からのお乳も王子はあまり飲まなかったから。
乳母が眠っている間、代わりに王子を見ていたケーシーがその際にミルクを与えていた。
その行為は傍から見て特に怪しい行為ではない。
未来でやらかすとはいえ今の時点ではまだ何もしていない王子を死なせてしまった罪悪感がないわけではない。
しかしケーシーが知る原作通りの未来になれば、どのみち死ぬのだ。それももっと酷い有様で。しかもその頃には王子が死んで悲しむ者など誰もいない。むしろ死んで喜ばれる始末。
そう考えると、今大勢の人たちに悲しまれているのはまだマシな方ではないかしら……? なんて。
赤ん坊を殺したという罪悪感を薄めるように、そんな風にも思って。
ケーシーは粛々と日々の仕事をこなしていったのである。
いつかやらかすとはいえ、それでもまだ何もしていなかった赤ん坊を死に至らしめたのだ。
天罰が下ったとしてもその時は仕方がない。
そう思ってもいた。もし自分が結婚したとして、果たしてきちんと育てられるのだろうか、とも思った事もあったが、結局は結婚相手も見つからないままなのできっとこのまま子を持たず自分の人生は終わるのだろうとも。
ケーシーが思った通り、彼女の人生は生涯独り身であった。一度だけ、そういった関係になりそうな男性と出会ったけれど結局ケーシーから身を引いたためそれ以降彼女にそういった意味での出会いは訪れなかった。
王子が死んで三年後、新たな子が生まれたがそちらは王女であった。
原作にはいなかったキャラではあるが、それとて王子がいたから次の子を必要としなかったからなのかもしれない。それでもあのボンクラ具合を思えばスペアとしてもう一人か二人は作っておくべきでは? なんて思った事もあったのだけれど。前世で。
王女は王子よりもさらに甘やかされて育つのではないか……? と懸念されていたけれど、しかしその頃には国王も色々と思うところがあったのかもしれない。
確かに甘やかされてはいたけれど、それはしかし宰相たちが思う可愛がる範囲内に収まっていたからか、周囲も特に苦言を呈すほどではなかった。
原作では王妃が特に王子を甘やかしていたけれど、王女を生んだ王妃はしかし姫にはあまり興味を示さなかった。元々見た目の愛らしさで王の寵愛を得ていた女だ。それ以外は何も持ち得ていなかったが、そこに娘とはいえ同じ立場になりえる存在が現れた事で何か、思うものがあったのかもしれない。
結果として原作の王子よりは甘やかされる事もなく、教育は恙なく行われていた。
恐らくではあるが、原作では国王も王妃も同じように王子を甘やかしていたが、王女に対しては王妃がそこまで目を向けなかったこと、その他にも年を重ねた事で王妃の美しさに若干の翳りが見えてきたこと、そして今更のようにお飾り王妃の存在がいつまでたってもお飾りのまま、精神的な成長があまり見受けられないというところで、王の目がようやく覚めつつあったのかもしれない。
王女の婚約者に誰が選ばれるか、ケーシーにはわからないが。
それでもこのままいけば原作のように国が危なくなることはないのではなかろうか。
とりあえず宰相の眉間にいつも居座っていたしわが最近なくなりつつあるのは、良い事なのかもしれない。
――とある公爵家に生まれた少女は首を傾げていた。
わたくしの婚約者って確か王子だったと思うのだけれど……あれ? ここってあの作品の世界よね? 確認したくても他の誰にも聞けないし……うーん、違ったのかしら……?
そんな風に思いながらも、まぁ冤罪からの断罪カウンターして自分がこの国の頂点に君臨するのも大変そうだし……とあっさりと思い直したのである。
そしてもう一人、男爵家に貴族として迎え入れられた少女もまた、学園で出会うはずの運命の人がいないため、
「どうして王子様がいないの……!?」
と困惑していた。
王子は確かにぼんくらだけど、だがしかし一緒に泥沼な人生を送るつもりはないからこそ、自分はそのための準備をして破滅ルートを回避しつつも王子と結ばれるつもりだったのに……!
だが肝心の王子様が学園のどこを探してもいないのだ。
もしかして、よく似た別の作品の世界だったのかしら……?
と、意気消沈して落ち込んだ少女は早々に気を取り直してでは他の運命の相手を見つけなくちゃね! なんてとても前向きに考え直した。
そんな二人の転生者の存在を、もちろんケーシーは知る由もなかったし、ヒロインや悪役令嬢と呼ばれる立場にあったはずの転生者たちもケーシーの存在など知る機会すらなかったのである。
次回短編予告
平民だった娘が貴族に引き取られた。
けれど彼女は貴族としての自覚なんてないようで……!?
「でも、平民ならこれくらい普通の事ですよ」
そう言い続けた結果、訪れた結末は――
次回 憧れ平民ライフ!
更新は明日。