母との会話
家に帰って店のオーナーである母に彼女のことを話した。
「アトピーなのね。その子……。」
「うん。俺、知らなくて『社会人だったらエチケットとして化粧すべき!』
そう言ったんだよ。
悪かったなぁ………。」
「そうね。悪かったわね。
でも、今更じゃないの?」
「うん。そうなんだけどさ……なんか俺に出来ること無いのかなぁ~って……。」
「無いわよ。」
「即答だな。」
「それは皮膚科のお医者さんでないと無理だからね。」
「分かってるよ。それくらい……。」
「アレルゲン無しだったら……ストレスかなぁ?」
「ストレス?」
「そうよ。アトピーの原因にストレスと睡眠不足もあるって聞いたわ。」
「誰から?」
「皮膚科のお医者さん。」
「そうなんだ……ストレスは有りそうだなぁ……。」
「?」
「あのさ、結婚って親が決めないよね。」
「そりゃそうでしょう!」
「あの子……親が決めた相手と結婚するって言ってた。」
「えっ?」
「母さんでも『えっ?』って思うんだ。」
「そりゃ思うわよ。私の頃でも親が決めて結婚って無かったわよ。
勿論、お見合いで結婚する人は居たと思うけどね。
それも、最終的に決めるのは本人だったと思うわ。」
「封建時代みたいだろ?」
「昭和……30年くらいまでの話かな?
昔は写真一枚持って嫁いだって聞いたわ。」
「写真一枚?」
「そう! 写真一枚手にして嫁ぎ先に行ったのよ。」
「会っても無いのに?」
「そうらしいわよ。伯母さんが言ってたわ。
写真一枚持って満洲へ嫁いでいったって……。
他にも、お見合い当日が結婚式だったり、ね。」
「それって……。」
「そうよ。親が決めた結婚だったのよ。
でっ、その子は親が決めた相手と結婚するのよね。」
「うん。そう言ってた。」
「それって……親が強すぎるわ。
もしかしたら……虐待……が隠されているかもしれないわね。」
「虐待!」
「そうよ。幼い頃から続いている虐待が隠れているのかもしれないわ。
身体的に何もされていなくても、精神的に子どもを追いつめて……
そういう年月だったのかもしれないわね。
まぁ、想像だからね。事実じゃないからね。」
「会って聞きたいんだけどな……。
もう会うことはないって宣言されたからなぁ……。」
「じゃあ、無理ね。」
「はぁ~~っ。」
「あんたは、自分の仕事を頑張りなさいよ。
ヘアメイクの腕をもっと上げなさい。」
「へいへい。」
「はい!でしょう!」
「はい。」
俺は人間の体の不思議を感じた。
そして、親の言いなりになるしかない彼女のことを思った。
でも、彼女には会えなかった。