もう一度
ずっと顔を伏せたままの彼女に話しかける言葉も見つからなかった。
ただ、「もう、お会いすることはありません。」の意味が知りたかった。
「あのさ、どうして……もう会えないって言ったのかな?」
「あ……私、結婚するんです。」
「……結婚?」
「はい。」
「彼……居たんだ。」
「彼は居ません。」
「えっ? 彼と付き合ってるから結婚するんだよね。」
「いいえ、私……一度もお付き合いしたことはありません。」
「付き合ってないのに結婚する?……なんだ? それっ。」
「父が決めた人と結婚します。」
「え?………あの……何時代?」
「父が言ったんです。『見合いして相手からの返事が良かったら…。』」
「良かったら、なんだよ。」
「良かったら結婚を決めると言いました。」
「あんたの気持ちはどうなんだ?」
「私は……こんな顔になりますし、体中…アトピーの引っ掻き傷だらけなので
貰ってくれる方に貰って頂けたら……。」
「好きでもないのに?」
「好きだから長く夫婦で居られるのでしょうか?」
「それは……そうだけれども……でも、好きだから結婚出来ると思うよ。」
「好きな人に……アトピーの酷い身体を見られたくありません。
好きでなかったら……どうでも…いい…と思ったりしっちゃって……えへへ。」
「……それは、俺には分からないけど……空しくないかな?」
「もう、いいんです。これが私なのだと思います。
あの、降りますので……お先に失礼します。」
「あ………。また会おうね! 絶対に……
俺、アトピーのこと学ぶよ。全く知らなかったに近いから……。」
「さようなら。」
「約束! また会おう。」
彼女は返事をせずに会釈だけして電車を降りた。
降りた駅の名前を俺は覚えた。
けれども、それは役に立たなかった。