舞い落ちたひとひらの花弁
まぁちゃんの息子たち二家族と俺の娘たち二家族は、仲良くなっていた。
まるで本物も兄弟姉妹のように………。
俺とまぁちゃんの友達たちとも会ったそうだ。
「お父さん……お父さんってば! ねぇ、聞いてる?」
「うん? なんだったっけ?」
「ほら、聞いてない!」
「済まん。」
「お継母さんが亡くなってからボケたんじゃないの?
まだボケるには早すぎるわよ。」
「そうだな……。」
「しっかりしてよね。」
「うん。」
「……あのね、私達4人って似てるんですって……。」
「そうか?」
「うん。おじさんたちにも言われたし、うちの夫もそう言うのよ。」
「そうか……。」
「雰囲気が似てるんですって!」
「ふぅ~~ん。」
「でねっ、お母さんのお位牌、あのまま私の家でいいでしょ。」
「そうだな。あの家はお前たちのお母さんの家だからな。」
「お金出したのはお父さんだけど、あの家に決めたのはお母さんで!
そして、あの家におじいちゃん、おばあちゃんを呼び寄せたのよね。
お母さんが……。」
「そうだな。」
「お父さん、本当に幸せだった? お母さんと一緒になって……。」
「幸せだったよ。」
「嘘……そう思いたいだけよね。」
「お前はなんてことを言うんだ。」
「だって、愛してたのは一人だけでしょ。それは、お母さんじゃない。」
「…………。」
「だから、もしかしたら……
私達4人は本当に兄弟に生まれてくるはずだったって思ってるのよ。
それは4人ともに……。」
「……………。」
「あのね、おじさんたちが言ってたの。」
「なんて?」
「おじさんたちは………
お父さんの結婚式の時に隣に座ってる人に違和感を抱いたらしいのよ。
お母さんが隣なのは変だって感じたってことよ。」
「変って……。」
「同じように、おばさんたちも………
お継母さんの結婚式の時にね。
隣にどうして、あんな人が座ってるんだろう?って思ったんですって…
あんな人は酷い言い草だけど……違和感満載だった、って言ってたわ。」
「そうか……。」
「それが、あの結婚式では全く違ってたって……。
しっくり来たんだってさ。
お父さんとお継母さん、お似合いの夫婦だって言ってたよ。」
「そうか……。」
「ねぇ、元気出してよ。
空からお継母さんが心配してるからね。」
「うん。そうだな。まぁちゃんは人のことばかりだったから……。
そういう人だったから……心配するな。」
「うん。そうよ。」
「俺が死んだら……。」
「縁起が悪いこと言わないで!」
「俺が死んだら、まぁちゃんと一緒にしてくれないか?
お前たちのお母さんは……
お前たちのおじいさん、おばあさんと一緒だから寂しくないだろう。
まぁちゃんは一人だから……。」
「うん。分かった。そうなった時はそうする。
けど、ず~~っと先にしてね。お願いだから……。」
「分かった。」
俺は、もし迎えに来てくれるなら……まぁちゃんがいい。
だけど、まぁちゃんは妻に遠慮して見守ってるだけだろうな。
そういう人だ。
きっと物陰から俺のことを見守ってくれて、邪魔しないように……って我慢するんだろうな。
妻とは真逆だから……妻は誰よりも自分を優先して欲しいと言える人だった。
だから、疲れていたな……俺。
妻には悪いとは思っているが、俺は妻が亡くなった時よりも今の方が……身体も心も半分……持っていかれたような気がする。
思い出すのは、まぁちゃんのことばかりだ。
あの時の桜のひとひらの花弁。
俺は押し花にして仏壇の前に置いている。
それは、まぁちゃんの化身のようで……俺は押し花にして大切にしている。
その押し花を娘が栞にしてくれた。
出掛ける時は、まぁちゃんから借りたあの本の中に挟んでいる。
今日も遅咲きの桜並木を歩いている。
桜の舞い落ちる花弁の中を……⦅まぁちゃん、桜がまだ咲いてるよ。⦆と話しかけながら……。