再会
駅のホームで電車から降りて来たあの彼女を見掛けた。
ホームで次に来る電車を待っている様子だった。
無意識に俺は走っていた。気が付いたら走っていた。
「ハッ…ハッ…ハ………飲んだ後だから回る。」
「…!……あっ。」
「元気だった?
………何?………どうしてメイクしてないんだよ!」
「あ……済みません。本当にごめんなさい。」
「謝ってほしい訳じゃないんだ。
変わる気がなかったってこと?」
「済みません。」
「あれっ? ここ……どうしたんだよ?」
「あっ!」
「隠さないで見せて!……瞼が少し赤い……頬の一部も赤くなってる。
どうしたんだ?」
「済みません。お見苦しい物をお見せしてしまって……。」
「否……見苦しいとかじゃなくて……どうして、こんな風になったんだ?」
「………済みません。
もう電車が来ますので……。」
「教えてくれよ。俺も一応メイクとかしてるからさ。
気になるんだよ。どうしたら、そんなに赤くなるのか知りたいんだ。」
「……アトピー……だから……。」
「アトピー? アトピーで顔が赤くなるの?」
「はい。 あの…………。」
「何?」
「私、化粧出来ないんです。」
「えっ?」
「アレルゲンが不明なんですけれど、前に洗顔石鹼を変えただけで……
顔が真っ赤になったことがあります。
この赤い所も……お気を悪くなさらないで下さい。
どうか、お気を悪くなさらないで聞いて頂きたいんですが……。」
「いいよ。分かったから……俺が施したメイクだね。」
「………はい。済みません。」
「なんで謝るの?」
「私が言わなかったから……はっきりお断りしていたら良かったのに…。」
「悪くないよ。聞かなかったんだから、俺が……。」
「でっ、治る?」
「今、強いお薬を飲んでますから……
それに瞼の所のお薬と頬の所のお薬も出して頂きましたから……。」
「別なの? 薬。」
「はい。場所によってと酷さによってお薬が変わるのです。」
「そうなんだ。」
「この前は急いで帰って済みませんでした。
早く帰って化粧を落としたかったんです。
済みません。
それから、あの日、私は急に来て!って言われて行っただけなんです。
代打なんですよ。三振バッターアウト! なぁ~んちゃって……。」
「ごめんな。本当にごめん。」
「いいえ、貴方は全く悪くないです。
あ! 電車! 乗ります。
さようなら……お元気でお仕事頑張って下さいね。」
「また、会いたい。」
「もう、お会いすることはありません。
さようなら。」
「なんで?」
「さようなら。」
俺は彼女が乗る電車に乗ってしまった。一緒に……。
彼女は困惑していた。
「同じ方向だから!」
「そうですか……。」
俺と近づきたくなかった様子だった。
彼女はなるべく離れて立っていた。
そして、電車から降りるまで俯いていた。ずっと……。