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ひとひらの花弁  作者: yukko
もうひとつの……ひとひらの花弁
39/45

再会

4人とその配偶者たちは仲良くなった。

それは不思議なことだった。

そして、友達夫婦が招集した皆が緩和ケア病棟に行った。

俺は不安でいっぱいだった。

あれ程、会いたいと願ったまぁちゃんに会うのが怖くなった。


⦅俺は、俺が会いたいだけだ。

 まぁちゃんの気持ちを無視している。

 まぁちゃんが嫌がったら……どうしよう。………どうしよう。⦆


前に入った部屋で友達皆と一緒に俺はまぁちゃんを待った。

短い時間だったはずなのに、途轍もなく長く感じられた。

時間の経過とともに心臓の鼓動が大きくなっていった。

不安は膨れ上がるばかりだった。

ドアが開いて息子さんたちとまぁちゃんが入って来た。

まぁちゃんを見た俺は⦅まぁちゃん!……変わらない……昔と変わらない。⦆と思った。

勿論、違っている。

昔は無かった皺。そして、何よりも痩せている。

違っているのに昔のままだと思った。


「今日はわざわざ……!………どうして?

 どうして?…………。」

「まぁちゃん………。」

「………うっ………う…うっ……。」


まぁちゃんは顔を両手で覆った。

泣いているまぁちゃん。

俺の足は考えもないままに前に進む。まぁちゃんの前に……。


「本。借りてたままだったんだ。

 返さないと……と、思って……今日、持ってきたよ。

 まぁちゃん……俺の………。

 まぁちゃん、会いたかった………。ずっと、会いたかった。」


気が付くと俺はまぁちゃんを抱きしめていた。

そして、ソファーに座らせた。


「見ないで……こんな、おばあさんになった顔……見ないで……。」

「俺もおじいさんだ。一緒だね。」


顔を覆っていたまぁちゃんの手を、俺は顔から離した。


「ほら、俺の顔、見てくれよ。

 皺が凄いだろ。……一緒だよ。一緒だ。」


ずっと泣いているまぁちゃんの頬の涙を俺は拭いた。


「顔を手で覆ったままだったから、涙を拭いてあげられなかったよ。

 ……まぁちゃん……ごめん。俺、何も知らなかった。

 ご両親とのこと知っていたら、全く違う人生だった。

 あの家から出してあげたかった。

 出すのは俺だったんだ。そう約束してたのに……。」

「いいえ、いいえ! 私が……悪いの。

 ごめんなさい。………ごめん……なさい。

 ………駄目……離れて……。」

「何故?」

「奥様に申し訳ないわ。」

「妻は亡くなった。」

「えっ?」

「亡くなったから、俺は独身だ。

 まぁちゃんも独身だよな。それも一緒だ。」

「お亡くなりに……なんて言ったら……。」

「何も言わなくていいよ。

 俺ね。寂しいから付き合って、そして、そのまま流されて……

 そして結婚したんだ。

 好きだと言う気持ちは無かった。」

「………そんな……。」

「でもね、一緒に暮らしているとね。

 家族になっていたんだ。

 妻が亡くなったのは急だった。

 急だったこともあるかもしれないけれど……たぶん………。

 たぶん、ホッとしたのかもしれない。」

「ホッと?」

「うん。妻に対して罪悪感があった。好きでないのに、ってね。

 だから、罪悪感から逃れられたんだ。

 妻には悪いけれども……。

 でも! まぁちゃんのことを聞いた時、俺は違ってた。

 猛烈に会いたくなった。

 会って俺が出来ることをしたかった。

 今回も俺が無理を言って、会わせて貰ったんだ。

 まぁちゃん、ごめん。

 会いたくなかったよね。俺には………。」

「………いいえ、いいえ。

 ありがとう。嬉しかったわ。

 これで思い残すことは無くなった。

 ずっと、ずっと……会いたかったから………。」

「まぁちゃん、この本、返すよ。」

「……懐かしいわ。もう捨てられたと思ってたの。」

「捨てられなかったんだ。これだけは……。」


まぁちゃんは優しく本を撫でた。


「まぁちゃん、本を開けて。」

「はい。

 …………これは!………写真!……もう一枚も残ってないと……。」

「これね。俺が撮った最後の写真。

 覚えてるかな? 三脚を使って……。」

「……覚えてるわ。三脚を買ったばかりの頃に撮ってくれた。

 ……その後……別れたから……。」

「そう、最初で最後の三脚を使って撮った二人の写真。

 俺、捨てられなかった。

 あの時、現像から帰って来た写真を見て……

 俺は、この本を返したら、まぁちゃんがこの写真を見つけて……

 そう思って、わざと本に挟んでたんだ。

 結婚してから、この本が出て来たんだ。

 俺の本を段ボールに入れてくれたのが母だった。

 俺は出した時に気付いたけど、返すことが出来なかったし……

 返したくなかったのかもしれない。

 この最後の写真だけは持っていたかったのかもしれない。」

「…………。」

「まぁちゃん、今更だけど……

 今から失くした時間を取り戻さないか?」

「取り戻す?」

「うん。二人で取り戻そう。

 これから、俺は……まぁちゃんと一緒に時間をいっぱい持ちたい。

 本音は結婚して欲しい!……だけどな。」

「私……私……今、この瞬間だけで幸せ……。

 生きていて……良かった……。

 だから、もう充分です。……ありがとう。」

「俺が充分じゃないんだ。

 最後の瞬間まで俺は一緒に居たい。

 頼むから……もう二度と会えないと思っていたまぁちゃんに会えた。

 だから、このチャンスを俺は逃したくない。

 もう心の奥深くに、この気持ちを封印したくない。

 だから、まぁちゃん、俺は明日も来るよ。」

「………………嬉しい………。」


気が付くと部屋には俺とまぁちゃんの二人きりになっていた。

いつから二人きりだったのかさえ分からなかった。

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