兄弟姉妹
まぁちゃんに俺の姿を遠目で……という話だった。
その前に娘たちが先に「まぁちゃんに会いたい。」と願い出て、二人は会っている。
まぁちゃん親子と俺の娘たちが会っている光景は不思議だった。
部屋の中の窓から見える光景は不思議だった。
和やかに談笑している。
まぁちゃんの顔は見えない。
見えているのは後姿だけだ。
俺は⦅会いたい……会えれば……。⦆と、その光景を眺めながら思った。
一頻り話を終えた娘たちが部屋に帰って来た。
息子さんたちと一緒に、まぁちゃんも病室に戻っていく。
その姿を面に焼き付けたいと、俺は食い入るように見つめていた。
「お父さん。」
「お父さんったら……。」
「あっ! 済まない。」
「会わせて頂けて本当に感謝しています。ってお礼を言ってたのよ。」
「そうか……。そう思ったんだな。」
「うん。」
「息子さんたちがこの部屋に来られたら、もう一度お願いしてみる?」
「何を?」
「お父さん、会いたいんでしょう?」
「それは………、お前たちの許しが必要だし……。」
「要らないわよ。許しだなんて……ねっ。」
「要らないわ。」
「いいのか?」
「お母さんが亡くなってるから……。」
「そうそう、それに……今の様子を見たらねぇ。」
「うん。」
「……ありがとう。」
「俺たち夫婦からの提案だけどな。」
「提案……?」
「まだ、あの頃の友達皆で見舞いに来てないんだよな。
召集をかけて、その中にお前を入れようと思う。
その方が自然だろ? どうだ?」
「いいのか?」
「そのことを息子さんたちに話してみるよ。この後すぐに。」
「頼む。」
「お願いします。」
俺だけでなく、娘たちも頭を下げてくれた。
そして、息子さんたちが部屋に戻って来てからお願いした。
今度は友達夫婦から話してくれた。
「あの……奥様はお亡くなりになって……。」
「はい。」
「そうですか……。
お元気だとばかり思っていましたので、会うことは考えられませんでした。」
「あれっ? 話してなかった?」
「うん。聞いてなかったよ。おじさん。」
「そうか……済まなかった。」
「あの……お父様は? お見えになりますか?」
「うちはずっと前に離婚しています。
それから直ぐに父は再婚しましたから、見舞いに来ませんよ。」
「そうでしたか……。再婚を……。」
「本当に困った父です。
息子と同年齢の若い女性を妻に貰ったんですからね。」
「えっ?」
「どういう風に知り合ったか、聞きたくもなかったんで知りません。
離婚して1年後に、俺がまだ大学生だった頃です。
再婚したのは、しかも相手は子持ちだった。
10代で子どもを産んでいる女性だったんです。」
「俺は就職して間もない頃でした。
だから、俺が家を出たんです。
そして、弟が卒業して直ぐに弟も俺の家に来たんです。
父親とその再婚相手と一緒に暮らせなかったんです。
父親は愚かですよ。
周囲は反対したんです。
年なのに、幼い子の父親になると言うのは苦労をする!と……。
でも、若い女性を妻に迎えられてということが嬉しかったようです。
全く誰の苦言も耳に入らなかった。」
「父は再婚相手に夢中だから、来ませんよ。」
「俺たちは父に再婚について何も言わないけれども、遺言を!と
遺言で、しっかり俺たちの分を書いて貰いました。
再婚相手の子に全てが行かないようにしたんです。
俺たちは権利は母にあると思っていますから……。」
「そうなんですね。
……理不尽ですよね。
同居して親を看取った妻って何も貰えませんものね。
離婚してなくても……。」
「苦労した妻が馬鹿を見る法律です。俺たちはそう思っています。」
「本当にそうだわ。」
「うちのお母さんは、その点も楽だったわよね。」
「本当! 同居じゃなかったし……。」
「ええ。そうよ。」
話に花が咲いている子ども達を見て、友達が言った。
「なんだか、あの子達、似てると思わない?」
「うん。なんとなく似てるよね。」
「そうか?」
「雰囲気と言うか……なんというか……。」
「4人兄弟姉妹って言っても通じるわ。」
「そうか?」
「そうだな。似てるよ。」
友達夫婦の提案は受け入れられて、早速、友達夫婦は皆に召集を掛けた。
そして、その日、俺のアパートに4人とその配偶者たちが集まった。
娘たちの提案だった。