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ひとひらの花弁  作者: yukko
もうひとつの……ひとひらの花弁
36/45

娘たちと息子たち

友達夫婦に娘が「まぁちゃんに会いたがっている。」ことを伝えた。

まぁちゃんにとっては迷惑だろう。

俺は今のまぁちゃんに会いたい。

だから、娘の気持ちを伝えて可能であるなら、俺も会って貰いたい。


「それは……。無理だと思う。」

「無理か……。」

「まぁちゃんは、会いたくないと思う。

 遠目でだけで……まぁちゃんは…いいのよ。

 貴方は…………。」

「………会いたいんだ。俺が……まぁちゃんに……。」

「駄目よ。それは駄目。……会えないよ。」

「どうして?」

「女心を分かってあげて!

 あの子、貴方に会いたくても会えないわ。」

「どうして?」

「老いた姿を見られたくないのよ。分からない?

 老いただけじゃないわ。痩せて……。

 だから、無理よ。」

「うちの娘は二人とも、俺に『まぁちゃんと会わないと俺が後悔する。』と言った

 んだ。

 その通りだ。もう俺は後悔してる。

 別れたことを今更だけど、後悔してる。

 まぁちゃんを知らなかったことを後悔してる。

 これ以上の後悔をしたくない!

 これは俺の我儘だ。」

「幻滅するかもしれないわ。年を重ねたのよ。

 貴方の記憶の中のまぁちゃんじゃないわ。」

「それは、俺も同じだ。」

「夫と相談するわ。返事はそれからでいい?」

「いい。」


俺は友達夫婦からの返事を待った。

返事は二日後に来た。


「まぁちゃんの残された時間は少ない。

 だから、急いでいる。

 それでも、まぁちゃんに聞いてない。

 多分、会わないと言うから……。

 それで、息子さんたちに話したんだ。お前の気持ちを……。

 娘さんたちが会いたいと言ってることを……。

 彼らは子ども同士で会いたいと言ったんだ。

 それから、緩和ケア病棟にボランティアとして来ていることにして会って欲しい

 と……ボランティアで来た人として会ってもいいと…いう返事だった。

 ただ、お前には……遠目で姿だけ見させてあげて欲しいと……。」

「どうして、娘だけ?」

「息子さんたちは、お前にも会いたいと言っている。

 だが、母には遠目で姿を見せて貰えるだけで充分だと言ったんだ。

 このこと、実は息子さんたちからのお願いだったんだ。

 叶えて頂けるだけで充分だと……そう言ったんだ。」

「息子さんたちは俺のことを?」

「知ってるよ。俺たち夫婦が教えた。」

「そうか………。」

「だから、土曜日に緩和ケア病棟に来てくれないか?

 娘さんと一緒に……。

 まぁちゃんの様子を知りたいんだろう?

 それは娘さんから聞いてくれ。頼む。」

「会えないのか……。」

「済まない。」


土曜日、娘たち二人と緩和ケア病棟へ行った。

病棟に入る前に俺たちは、まぁちゃんの息子さんたちに会った。


「初めまして。息子です。

 今日は無理を言ってお越し頂き誠にありがとうございます。」

「いいえ、こちらこそ……ありがとうございます。」

「母にどうしても最後の幸せと思える一瞬を……と思いました。

 その我儘を聞いて下さって心より感謝申し上げます。」


俺の後に娘たちが挨拶して、これからのことを話し合った。

遠目ではなく会うことが出来ないかと娘たちは言った。

それは出来かねると断られた。

ボランティアとして、娘たちは会いに行く。まぁちゃんの病室へ……。

俺は娘に頼んだ。


「何とかして声だけでも聴きたい。

 頼むから録音してくれ。」

「分かったわ。

 ……父の願いを叶えてあげてください。

 親によって引き裂かれたのですから……父の想いも……残っています。」

「分かりました。……スマホで動画を撮るのは如何ですか?」

「どういう風に?」

「首からスマホをぶら下げて撮るしか……ないよな。」

「うん。それくらいしか思い浮かばない。」

「それをします。ブレブレでしょうけれど……。」

「良いのですか? まぁちゃんの動画……撮らせて頂いても……。」

「はい。」

「あの……貴方の動画を僕に撮らせて頂けませんか?

 母のために……。

 お帰りになった後に母に見せます。」

「……はい。どうかお願いします。

 ……まぁちゃん、いい息子さんたちを育て上げたね。

 似てるね。」

「顔ですか? そうかな?」

「優しい所が……穏やかな所が……似ています。」

「そうですか……ありがとうございます。

 僕たちにとって一番嬉しい言葉です。」

「じゃあ、行く?」

「はい。宜しいでしょうか?」

「行かせて頂きます。……お父さん、待っててね。」

「うん。ありがとう。……本当にありがとうございます。」


俺は友達夫婦に……まぁちゃんの息子さんたちに……そして、俺の娘たちに深く頭を下げた。

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