虐待認定
友達夫婦に連れられて精神科を受診したまぁちゃん。
その時に、蓋をしていた幼い頃の自分が出て来たのだった。
マッチのこと、物干し竿のこと、家でのこと……全て、それはまるで写真一枚一枚を見ているような感じだったらしい。
話しながら泣いていたまぁちゃんは、「愛されたかった………。お父さんに……お母さんに……。」と……。
そして、大人のまぁちゃんが……まるで幼子のように大きな泣き声で泣いたそうだ。
「診断結果を一人で聞くのが怖い。」と言ったまぁちゃんが医師に頼み込んで、友達夫婦の同席を認めて貰った。
診断名は鬱病。
そして、医師は告げた。
「親の虐待は程度の差があれ……
子どもの心にトラウマになって残れば虐待だと判断します。
貴女はご両親の精神的虐待および身体的虐待を受けて育ったのです。
マッチで火傷をさせなかったから悪くない!のではないのです。
貴女はマッチが持てない。
それはトラウマになったのです。
トラウマになって残っているから、貴女は虐待を受けたのです。
貴女は何も悪くない。 悪くないのですよ。
虐待を受けて育った人で精神科を受診する人には2つあります。
1つは、リストカットを繰り返す人。
この人たちは自分が消えればいい!と思っています。
そして、もう1つは貴女のように自分さえ我慢したら良い!
自分さえ我慢したら家族が上手くいく!と思っています。
眠れていますか? ご飯を美味しく感じられますか?
全ての欲が失われる前に来てくれて、ありがとう。」
「あ……ああああああ……………。」
まぁちゃんは幼子のように声を上げて泣き続けた。
それから1年後に姑が亡くなり、まぁちゃんの両親が相次いで亡くなった。
そして、両親が生きている間は許されなかった離婚を夫に切り出したのだ。
「どんなに怒鳴られてもいい!離婚したい。」「泥水を啜ってもいい!一人で生きていきたい。」そう言ったそうだ。
まぁちゃんの子ども達は大学生だったから、学費のことを考えて「お父さんの所に居るよ」と答えたそうだ。
離婚には全く反対しなかったそうだ。
「だってさ、酷かったもん。お父さんとおばあちゃん。」
「そうだよな。逆切ればっか!」
「お母さん、一人で大丈夫?」
「それが心配だよ。」
優しい息子さんたちだ。
まぁちゃんは一円も貰うことなく離婚した。
離婚してからは掃除の仕事に就いて、一人の暮らしを始めた。
「怖くないのよ。怖くない日々なの。
やっと私、楽になれたわ。」
「楽になれたとは言ったが、幸せになれたとは言わなかった。」と……友達は言った。
そして、「だからお願い。遠目に姿だけ見せてあげて……まぁちゃんが人生でたった一人……愛した男性の姿を見させてあげたいの。」と言ったのだ。