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ひとひらの花弁  作者: yukko
もうひとつの……ひとひらの花弁
33/45

別れと……結婚

まぁちゃんを俺と別れさせたのは、まぁちゃんの両親だと教えられた時、「どうして俺の腕の中に飛び込んでくれなかったんだ!」と言ってしまった。

「そういうことが出来ないほど、まぁちゃんは親に支配されていた。」と友達が言った。

そして、その支配が形成されたのは幼い頃からの虐待だと教えられたのだ。

俺が結婚した後、まぁちゃんは「結婚しない」と決めていたそうだ。

だが、親が許さなかった。

母親は「あんたが嫁げないから、私は恥ずかしくて家を出られない。」とまで言ったらしい。

父親は「お前を嫁がせないと……世間体と言うものがある。早く出ていけ!」と言ったそうだ。

出て行けと言われたまぁちゃんは「家を出ます。」と一人暮らしを決意したが、それを両親が止めた。

「女が一人で暮らすなど、あり得ない!」「家を出るなら結婚しか許さない!」と……。

そうだ……当時は今と違って女性の一人暮らしは無かった。

親と暮らしていない女性は寮に入っているか、同棲しているか……だった。


それから、俺の子ども達が生まれて何年か経った頃に、まぁちゃんが結婚した。

相手は3歳上の人だった。

ただ……夫の母親との同居が条件だったらしい。

そして、それが……まぁちゃんを更なる不幸に追いやった。

所謂、「嫁姑」だ。

助けてくれない夫を、それでも支えたそうだ。

「愛してもいないのに……まぁちゃん、無理したの。」と友達が言った。

初日から嵐だったらしい。

俺と妻は、どちらの親とも別居だったから、同居の苦労はしていない。

楽だったのだ。俺たち夫婦は……それだけでも幸せだったのだ。


まぁちゃんの姑は、結婚直後から嫁のまぁちゃんを目の敵にしたらしい。

会社を休んで看病しても、ほんの些細なことで叱られる。

家事をしてお粥を作り始めた時に、部屋から出て来た姑が怒鳴った。


「何も食べなかったら死ぬ。あんたは私を殺す気かっ!」

「済みません。今、作っています。」

「姑を殺す嫁など要らん!」

「………そんなこと……思っていません。」

「嫁のくせに! 姑に逆らうのかっ!」

「済みません。」


どうして看病している嫁が叱られないといけないのか……。

まぁちゃんの姑は、まぁちゃんの祖母と同じ年だった。

5人、子どもを産んだ姑の最後の子どもが夫だ。

最後に産んだ子で、たった一人の男子。

可愛くて仕方なかったのだろうが、毎日、嫁を虐める最低な姑になった。

姑は息子の前では決して酷いことを言わなかったらしい。

だからか……夫は最後まで息子だった。

妻の側に立ったことは一度としてなかったそうだ。

まぁちゃんは、そんな夫と姑に懸命に仕えたそうだ。

「愛してもいないのに……頑張ったから……まぁちゃんは姑の介護の最後の方で鬱病になったの。」と友達は言った。

そして、「その時に私達も初めて知ったの。まぁちゃんのことを……。」と言ったのだ。

友達たちも「早く知っていたら……助けられなかったかもしれない。だけど、せめて……話だけでも聞いてあげられたのに……。」と泣いた。

夫は姑からの全てのことを「俺は関係ない。お前と母さんの問題だ。」と言ったくせに、自分の親の介護も、姉が残した子どものことも、全てまぁちゃんに丸投げ……。

それが、まぁちゃんの望んでない❝させられた結婚❞だったのだ。


結婚してからも、まぁちゃんは自分の母親の言葉に傷つけられていた。

姑の介護中に母親から電話が架かってきて、「お母さん、忙しいから電話を切らせて。」と言うと、母親は「親の話を聞けない娘は、娘じゃない!」と激怒して電話を切ったそうだ。

それが、何度か繰り返されたと……。

「私ね。居場所が無いの……どこにも……無いの。」と……まぁちゃんは友達に言ったそうだ。目に涙をいっぱい溜めて……。

「実家も……家も……針の(むしろ)なの。」と泣くまぁちゃんを友達は抱きしめて一緒に泣いたと言った。


姑が亡くなってから、まぁちゃんの両親も亡くなった。

その後に……まぁちゃんは夫に離婚を申し出た。

夫は激怒したが、「一円も渡さない。」という条件で離婚できたそうだ。

夫にとって妻であるまぁちゃんは、どんな存在だったのだろう。

「妻が子育てと自分の母親の介護をしてくれたから会社で仕事が出来た。」とは思わなかったのだろうか?

結婚している時は常に「お前がしている家事を俺なら完璧に出来る。でも、俺と同じ金額の給与をお前は一生貰えない。お前は俺が稼いだ金で暮らしているのに文句言うな!」という言葉を妻に投げかけていたそうだ。

そんなこと……俺には出来ない。

そんなことを言った瞬間、俺の妻は家を出ただろう。

だが、まぁちゃんは出来なかったのだ……と俺は思った。

そうだ。出来なかったのだ。逃げることも、拒否することも……。

それが「幼い頃からの親から受けた虐待が原因だった。」と友達から聞かされたから……。


まぁちゃんは泣いてばかりで、近所の人に「こんにちは。」と声を掛けられた瞬間、涙をこぼしたと言う。

それを見た近所の人は「どうしたの? いつもニコニコしてる貴女らしくないわ。」と背中を撫でてくれたそうだ。

撫でられるままに……まぁちゃんは泣き続けてしまったらしい。

近所の人が心配して、夫に「奥さんが追いつめられたら大変だから。支えてあげてね。」と言って下さったそうだ。

だが、夫はその助言さえも怒りになって妻にぶつけた。

まぁちゃんはより一層追いつめられた。

姑の介護が苛烈を極めたからだ。

姑の言葉は常に毒を含んでいた。

「食べさせない嫁。」「私の物を盗る嫁。」「息子を返せ!」など……。

毎日、顔を合わせる度に繰り返された言葉の暴力。

その上、姑は食器を投げたり、杖を振り回したりしたそうだ。

姑が杖を振り回した時、まぁちゃんの頭の頭の中は真っ白になったそうだ。

⦅どうすれば杖を私に渡してくれるだろうか?⦆と思いを巡らせ、やっと言葉を発したまぁちゃん。


「お義母さん、どうされました?」

「私のご飯は誰が作るの!」

「私が作ります。」

「私の面倒は誰が看るの。」

「私がさせて頂きます。」

「お腹が空いて堪らない。早く食べさせて!」

「はい。……椅子に座って下さいね。

 今、お持ちしますから……。」

「早くだよ。」

「はい。」


そう言って、まぁちゃんは姑から杖を渡して貰ったそうだ。

俺には出来ない……そう思った。


まぁちゃんの心は限界に達してしまったのだろう。

家事が思うようにできなくなっていく。

姑と夫の言葉は酷くなっていった。

そんな日々の中、やっと、姑が入所出来る特養が見つかったそうだ。

特養に入所した姑は、特養で問題を起こした。

自分が気に入った職員だけにしか何もさせなかったらしい。

気に入らない職員を嫌悪して暴言を吐く……転倒して入院するまで変わらなかった。

姑が特養に入った頃からも、まぁちゃんは楽にならなかった。

夫だけで行けばいいのに、夫はまぁちゃんを連れて行った。

まぁちゃんは段々、車酔いをするようになった。特養に行く日だけ……。

それは、まぁちゃんの心のシグナルだったのだろう。

特養に着いても酷い車酔いのために姑に会う余裕はなく、心配した職員さんから別室で休ませてくれた。

その職員さんたちから夫に話をしてくれたそうだ。


「お嫁さんに会いたいと思っておられません。

 会いたいのは息子さん。貴方だけですよ。

 車酔いが酷い奥さんを連れて来られなくても良いではないですか。」


夫はその言葉を無下には出来なかったのだろう。

その日を最後に連れて行かれることは無くなったそうだ。



その頃、友達が夫婦で動いたくれたのだった。

現状を知った友達が夫婦で会社を休んで精神科を受診させてくれたのだ。

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