別れ
本当に変な夢だった。
令和に始まった恋。
終わりは?
令和の現在より、もっと後で……俺?が老齢期に入っている。
まるで、未来だ。
家は今の家では無かった。
変な夢なのに、変に鮮明に覚えている。
夢なのに……夢でなかったら良かったのに……!と思ってしまう。
あの日、急にデートの最後に、まぁちゃんから「別れて欲しい。」と告げられた。
俺たちは結婚の約束をしていて、二人で貯金をしていた。
偽名になるが……俺の苗字とまぁちゃんの名前で通帳を作った。
今なら出来ないことだが、あの当時は可能だった。
「嘘の名前なのに……。」
「直ぐに、まぁちゃんの名前になるよ!
再来年には、な。
結婚するために貯金しておかないとな。
俺と二人で毎月決めた2万円を入れよう!
再来年までに少しでも貯めような。」
「うん!」
毎月、貯めたんだ。
それなのに!
何故なんだ? 何故?
「好きな人が出来たのか?」と聞いても、まぁちゃんは否定した。
「じゃあ、なんで? なんでなんだよ!」と怒鳴ってしまった。
何度も二人で会って、話し合った。
でも、最後まで何も言わなかった。
ただ、「別れて……。」とだけ言った。
まぁちゃんは何も言わなかった。理由が無かったのと同じだ。
抱きしめても俺の腕から逃れようとする。
そんなことが続いて、俺は諦めてしまった。
俺の腕から逃れようとするまぁちゃんが遠くに行ったように感じたからだ。
俺のことなど「好きじゃなくなった。」のだと俺は理解した。
最後の日、「分かった。別れよう。」とだけ言った。
俺はその時の……まぁちゃんの顔を見られなかった。
それから、俺は酒を飲む量が増えたと母に言われた。
「別れたの?」
「うん。」
「あの子22歳よね。
女の子の22歳がどういう意味なのか、あんた知らないの?」
「別れるって言ったのは俺じゃない! 俺からじゃない!」
「うそ……まぁちゃんから…なの?」
「そうだよ!」
それから、母は「あまり飲み過ぎないようにね。身体だけは大事にして!」と言ったきり何も言わなくなった。
俺は寂しかった。
寂しくて……居酒屋で後姿が少し似ていただけで声を掛けてしまった。
それが今の妻だ。
付き合い出して間もなくの頃だった。
1歳上の妻は、まぁちゃんとは違っていて……俺はまぁちゃんに会いたくて仕方なかった。
一度だけ、まぁちゃんの家に電話をした。
「会いたい!」と告げたら、まぁちゃんは会ってくれた。
「もう一度、付き合って欲しい。
俺、他の子と付き合って……やっぱり、まぁちゃんがいいと思った。
もう一度……。」
「付き合ってる……。今……彼女が居るのね。」
「まぁちゃん……。俺……。」
「ごめん。ごめんなさい。」
「無理なのか? 俺じゃ……無理なのか?」
「ごめんなさい。」
駄目だった。
それから、直ぐだった。
今の妻との結婚を決めたのは……。
1歳上なので今の妻の両親から結婚を責っ付かれたからだった。
俺はまぁちゃんと撮った写真の全てを燃やした。
貰った手編みのセーターも……全て処分した。
まぁちゃんに電話して「まぁちゃんが持っている俺の写真、全部送って!」と告げた。
まぁちゃんが「どうして?」と聞いたから、「結婚するから写真全て燃やす。」とだけ告げた。
まぁちゃんは「私、明日、入院するの。だから、少し遅れるかもしれないけど……必ず送るから。守るから。」と言った。
俺は⦅入院? なんで? どこが悪い?⦆と頭の中は、入院のことばかりになっていた。
でも、俺の口は冷静に「頼む。」とだけ言っていた。
そして、電話を切った。
何も知らなかったんだ。何も………。
まぁちゃんと別れて1年後、俺は今の妻と結婚した。
子宝にも恵まれた。
何も無く過ごす日々だった。
穏やかな日々だった。
それは妻のお陰だ。感謝している。
ただ……忘れられない人は居た。
あれから何十年も経ってから、まぁちゃんの人生を教えて貰った。
まぁちゃんが余命宣告を受けたからだった。
友達が「最期に会いたい人は……たった一人なの。だから、もし可能だったら……直接会わなくてもいいの。貴方の姿だけ遠目に見せたあげて欲しいの。お願い。」と言われた。
その時に全てを知ったのだ。
まぁちゃんがご両親から虐待を受け続けていたことを……。幼い日からずっと受けていた虐待の数々を教えて貰ったのだ。