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ひとひらの花弁  作者: yukko
ひとひらの花弁
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ひとひらの花弁

モテ男の結婚式がきっかけで、まぁちゃんは「父が言うような式にしたい。」と言い出した。

あの長かったキスを見たからだった。

俺たちの結婚式はガーデンウェディングで進めている。

だから、まぁちゃんはウエディングドレス着用だ。

モテ男たちは教会で挙式だった。

だから、同じではないのだけれど……。


「まぁちゃん、キスは嫌なんだ。」

「……うん。」

「恥ずかしいから?」

「うん。……それに、お父さんが見たら………。」

「怖い……?」

「……うん。ねぇ、変えたいの。駄目?」

「キスとか……気にしてなかったなぁ……。」

「駄目?」

「いや、ウエディングプランナーさんに聞こうよ。

 まだ、細部にわたって決めてないんだからさ。」

「うん!」

「元気出たみたいだね。」

「え………へへ……。」


それから、ウエディングプランナーさんと相談して、キスは無しになった。

⦅あぁ……残念だぁ……。⦆が俺の本音だった。



挙式の日、まぁちゃんの髪を整えたのは俺だ。

まぁちゃんが喜んでくれた編み込みをした。

まぁちゃんが嫌がったキス………俺はしてしまった。

ただし、頬にである。

本音は……⦅唇にしたかった! 軽くでも……。⦆

それでも、まぁちゃんは驚いて泣き出してしまった。

俺はビックリして、「ごめん。」を繰り返した。

司会者が上手に「新婦の喜びの涙です。」と言ってくれたから、その声で俺が謝ったその言葉は聞こえなかったようだった。まぁちゃん以外には……。

式が終わってから、まぁちゃんは涙の理由を教えてくれた。

驚いたことが大きかったようだった。

そして、夫婦になれたのだと実感したとも言っていた。


「嫌だって言ったけど、❝誓いのキス❞をして貰って、私……

 夫婦になったんだなぁ~って思ったの。

 籍は入れてたし、仮祝言も終わってるから夫婦なんだけど……。

 一緒に暮らしていないからかな?

 夫婦になれてないみたいだったの。」

「うん。俺も……。」

「だから、嬉しかったの。」

「そうなんだ。良かった……。」

「どうして?」

「まぁちゃんを傷つけたんじゃないかって落ち込んだ。」

「ごめんなさい。」

「一瞬、酷く落ち込んだ。」

「ごめんなさい。どうしたらいい?」

「それは、これから❝いい夫婦❞になることだな。」

「それは私の願いでもあるわ。」

「今日から、よろしく!」

「私こそ……よろしくお願いします。」


やっと俺たちは一緒に暮らせる。

新婚旅行から帰ったら……。

俺は絶対にまぁちゃんのご両親に口を出させない。

どんなことがあっても、まぁちゃんを守ると決めた。

そして、穏やかな時間を過ごせたら、まぁちゃんのアトピーが治ってくれたらと切に願っている。

まぁちゃんが俺に肌を曝せない今から……真っ暗な中でしか肌を合わせられない今から……いつか、薄明りの中で見られても良いと思えるようになって貰いたい。


あの日、リップクリームを渡した俺。

受け取りながら使えなかったまぁちゃん。

夫婦になった俺たちは、これから出会う様々な出来事を二人で乗り越えたい。

俺たちが別れる最後の日まで………夫婦で居たい。


「まぁちゃん……。」

「なぁに?」

「何でもないよ……ただ呼んでみたかっただけ……。」

「もぉ~~。」

「なぁ………。」

「なぁに?」

「おじいさん、おばあさんになっても一緒に居ような。」

「うん。ずっと、一緒……!」



あれは………何十年前のこと?

俺のまぁちゃんは、今、どこに居るのかな?

俺より先に逝った最愛の妻は……俺の最期の時、迎えに来てくれるかな?

庭の桜の花弁(はなびら)がひとひら……舞ってゆっくり落ちて行った。

綺麗なひとひらの花弁(はなびら)……。

まるで、まぁちゃんが「迎えに来ますよ。」と応えてくれているようだった。


⦅あぁ……幸せな日々だったなぁ……。

 子宝にも恵まれた。

 まぁちゃんに愛された長い時が一番幸せだった。

 ……そうか……俺を迎えに来てくれるんだ。

 迎えに……まぁちゃんが……。⦆


娘の声がした。


「お父さん、ご飯ですよ!って呼んでたのに!」

「綺麗だな。」

「何が?」

「桜の花弁……ひとひら……舞って……綺麗だ。」

「お母さんが植えた桜よね。」

「あぁ……。」

「この庭でずっと咲いてくれてるわ。」

「そうだな。」

「お母さんが亡くなって1年ね。」

「そうだな。」

「お父さん……お母さんは『お父さん、私の分も長生きして!』って……。

 覚えてる?」

「うん。」

「お願いだから、長生きして! お母さんの分も……。

 お願いだから………。」

「うん。……まぁちゃんは……

 あの……ひとひらの花弁のようだった。」

「お父さん?」

「綺麗な心を持っていた………。」

「お父さん………。そうね。そうだわね。

 ……お父さん、見守ってくれてるわ。お母さんが……

 だから………。」

「うん。そうだな。」

「だから! ご飯! 冷めちゃう。」

「分かった。」

「さぁ、立って! 早く、早く。」


娘に追い立てられるように俺は縁側から立ち上がって歩いた。

その俺の肩にひとひらの花弁が………。

⦅あぁ……まぁちゃん、一緒に行こう。⦆とひとひらの花弁を手に取って、花弁に話しかけた。

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