公共の場での……
まぁちゃんが見合いの席に居ると思うだけで、俺は⦅出来るなら乱入して……ご両親にお願いしたい。⦆と何度も思った。
1時間半後……まぁちゃんが出て来た。
出て来たまぁちゃんの頬は涙で濡れていた。
まぁちゃんを睨み付けているお母さん……そして、お父さんは、まぁちゃんの腕を掴んで引っ張って連れて行こうとしている。
俺は走って出て行った。
「まぁちゃん!」
「貴方は昨日の……。」
「誰だ。こいつは……。」
「お父さん、この方は娘の会社の方です。」
「いえ、違います。」
「でも、貴方そう仰いましたよね。」
「俺は美容師です。」
「うそ……嘘でしたの!」
「申し訳ありません。」
「兎に角、私どもは今から帰宅しますので、失礼します。」
「待ってください!」
「なんですか!」
「俺は、まぁちゃんにプロポーズしました。」
「えっ? 今、なんて?」
「まぁちゃんと結婚したいと思っています。」
「結婚? 美容師風情が?
それは、うちの娘が高卒だからか?
あえての高卒だ。女に学歴は不要だからだ。
だがな、男は違う。学歴は必要なのだ。
たかが美容師では、うちの娘の結婚相手として不足だ。
このまま立ち去りなさい。」
「まぁちゃん! 俺のこと……好きだと思ってくれていたら俺の手を…
俺の手を取ってくれ!」
「早く! 行きなさい! 親の言うことを聞くんだ!」
「……い…や……。」
「まぁちゃん……おいで!」
まぁちゃんが走って俺の腕の中に来てくれた。
俺の腕の中から娘を取り戻そうとするお父さんの手を俺は振り払った。
「お願いです。結婚を許してください。」
「娘を返せ!」
「誘拐犯です。誰か娘を取り返して!」
「返せません。無理強いした見合い結婚をさせるご両親に返せません。」
「早く! その男から離れなさい!
言うことを聞くんだ!」
「嫌です。」
「聞かない気かっ!」
平手で頬を叩く音がした。
叩かれたのは俺だ。
「お前、どけ! 邪魔だ!」
「まぁちゃんを叩かないで下さい。お願いします。」
「どけ!」
「お止めください。」
「あっ! 今日は娘が失礼しました。」
「お嬢さんに無理強いしていたのですね。」
「無理強いなど……。」
「こんな風にお相手がいらっしゃるのに、お見合い相手をお探しになる。
お嬢さんのお気持ちを無視なさって……。」
「いいえ、そのようなことは……。」
「私からお断りさせて頂きますわ。間に入らせて頂きましたが……。
もう二度と労をとることは致しません。
このような所で人の頬を叩くなど……言語道断ですわ。
そのような方と何方も縁を結びたいとは思いませんわ。」
「あの……。」
「もう、失礼いたします。
あ……お嬢さんのご婚約、おめでとうございます。
どうか、お嬢さん、お幸せに。」
「本当に申し訳ありません。」
「貴女から聞く言葉ではありませんわ。
その言葉はご両親から伺いたいものです。
では、お元気でね。貴方も……。」
「はい。ありがとうございました。」
項垂れているご両親に手を貸してから、俺は車でご両親を家まで送った。
助手席は勿論、まぁちゃん。
ご両親は後部座席に座って貰った。
俺は車を運転しながら、怒りが収まらない状態のご両親に謝罪をしてから話を続けた。
「俺は美容師です。
お父さんから見たら、たかが美容師風情!です。
でも、今まで俺なりに頑張って仕事をしてきました。
仕事には誇りを持っています。」
「大した学歴でもない。」
「はい。その通りです。
でも、俺は二人で幸せを掴みたいと思っています。
苦労掛けるかもしれません。
二人で乗り越えたいと思います。」
「許さない。」
「許して頂かなくとも結構です。」
「なんだとぉ~!」
「許しを得なければならない年齢ではありません。」
「このぉ~~!」
「だから、俺たちはいつでも結婚出来るのです。
でも、叶うことならお許しを得たいと思っています。
俺は諦めません。」
「……会わないぞ!」
「会って頂けるまで待ちますから……。」
「勝手にしろ!」
「はい。」
ご両親を送って、助手席のまぁちゃんを見ると降りられないようだった。
凄く震えている。
⦅怖かったんだろうな。俺も怖かった。⦆と思っていると、まぁちゃんが「帰りたくないの。」とだけ言った。
俺はまぁちゃんを降ろさずに、俺の家に向かうことにした。