メイク
その後の彼女はずっと俯いていた。
話にも積極的に入らなかったし、もう最後の方は居ないような存在になっていた。
⦅何の為に合コンに来たんだか……。⦆と思っていた。
⦅折角あげたのにリップも塗ってない……何なんだ? この女は…。⦆とも思った。
一次会が終わって二次会に行くという話になっても、彼女は乗って来ない。
「済みません。帰ります。」
「まぁちゃん、帰っちゃうの?」
「うん。もう帰らないと……今日はありがとうね。誘ってくれて……。」
「ううん。来てくれてありがとう。」
「今日はありがとうございました。
お先に失礼します。」
「ねぇ、君、急いで帰らないといけないほど遠いのか?」
「……いいえ……。」
「じゃあさ、これから俺の店でメイクしない?
3人ともメイクしてあげるからさ。ここから近いし、どう?」
「うわぁ~~っ! 行きます!」
「まぁちゃん、行こうよ。」
「私は……。」
「はい、行くよぉ~。」
「俺も見たい!」
「俺も……。」
「皆で来いよ!」
「ありがとう。」
5人を引き連れて店に帰った。
今日は定休日だから、こんなことも出来る。
「自分の店?」
「親が作った店なんだ。」
「じゃあ、二代目?」
「そうだよ。
さぁ、最初は誰? 決まったら、こっちに座って!」
そして、彼女以外の女の子のメイクを終えた。
満足して貰って俺は嬉しかった。
彼女の番になった。
何故か……彼女は尻込みした。
それを周りの皆が「さぁ、座って!」と勧めると彼女も無下には出来ずに座ってくれた。
メイクを施していく。
見る見る間に大人の顔になっていった。
終わって「鏡を見て!」と言っても俯いていた。
俺も皆も恥ずかしがっていると思った。
⦅これで、彼女もメイクの仕方を覚えただろう!⦆
「あの……ありがとうございました。」
「うん。いいよ。」
「……あの……失礼してもいいですか?」
「まぁちゃん、もう帰るの?」
「うん。帰る。……ごめんね。最後まで居れなくて……。」
「ううん。今日は無理やり連れて来ちゃったから……
私こそゴメンね。」
「ううん。ありがとう。気に掛けて貰って……。」
「まぁちゃん、また飲みに行こうよ。
合コンもね。また誘うから、ねっ!」
「…うん。……ありがとう。
あの……済みません。お先に失礼します。
ありがとうございました。」
彼女は直ぐに帰ると言った。
俺たちは二次会に行くと決めていたが、俺は家に帰ることにした。
男が3人ってのもね。
後の4人は「いい雰囲気」だったからね。
彼女は急いで駅のホームに向かって走って行った。
その後を追いかけた。
⦅もしかしたら初メイクだったかもしれない!⦆と思うと、感想を聞きたくなったからだった。
追いついて彼女に聞いた。
「なんで、そんなに急いでるの?」
「えっ?」
「追いついたよ。」
「どうして?」
「メイク……どうだった?」
「……ありがとうございました。」
「どう感じたか聞きたいんだ。」
「どう………。」
「うん。」
「済みません。早く帰りたいんです。」
「えっ?」
「済みません。」
「まだ9時だけど? 実家なの?」
「はい。」
「厳しいの?」
「はい。………あの、もういいですか?」
「えっ?……うん。じゃあ、気を付けて!」
「ありがとうございます。失礼します。」
急いで電車に乗り込んだ彼女は嬉しそうじゃなかった。
⦅そんなに怖いのかな? どんな親なんだろう?⦆と不思議だった。