二人の短い時間
⦅車の助手席に女の子を乗せて走るのは何年振りだろうか……。⦆などと思いながら、俺はまぁちゃんに「乗って!」と言った。
可愛い声で「はい。」と答えてくれて少しホッとした。
まぁちゃんは会社に行っている振りをしている。
時間を潰す必要があることと、親御さんに知られないような場所へ行くことが俺の使命だと母は言った。
どこへ行けばいいのか、全く分からない。
「どうしようか? どこに行けばいいと思う?
お父さんやお母さんにバレない場所、ある?」
「父は会社に行ってますので、会社から遠かったら……。
母は家に居ると思います。出掛ける先は買い物位だと……。」
「お父さんの会社とは逆の方向とか?」
「父の会社から家の間は……。」
「そうだね。」
「母は母の実家と父の実家に行くかもしれません。」
「じゃあ、その辺も避けないとね。
でっ、どっちの方向に行けばいい?」
「そう……ですね。……神奈川方面なら……。」
「じゃあ、鎌倉にでも行こうか?」
「はい! 行ったことがありませんから嬉しいです。」
「そ……そうなんだ。ちょっとだけ観光しようね。」
「はい。」
まぁちゃんと二人並んで鎌倉を歩いた。
一般的な観光地を二人で巡った。
凄く嬉しそうにしているまぁちゃんの瞳はキラキラしていた。
その笑顔がとても輝いて見えた。
⦅可愛いなぁ……えっ?……まさか……まさか……
俺……惚れた?……否、そんなこと………ないよな……。
罪悪感だよな……。⦆
まぁちゃんとの時間は短く感じた。
帰る時間が迫って来ると⦅もっと一緒に居たい。⦆と思うようになっていた。
まぁちゃんに言われたとおりの駅近くで別れた。
車から降りるまぁちゃんを見ていた。
遠ざかるまぁちゃんを見ていた。
そして、思った。
⦅大丈夫だよな。叱られないよな。⦆