涙
店は綺麗になっていた。
ソファー近くの壁に見たことが無い大きなタペストリーで飾られていた。
母はそのソファーに座るようにと言った。
「はい。ここで撮るわね。」
「そのカメラ……。」
「古いでしょう。これ、お父さんのカメラなのよ。
それもフイルムなの。」
「デジカメじゃないんですね。」
「そうなの。だから現像出来るまで時間が掛かるのよ。」
「現像して貰えるんですか?」
「ええ、同じ駅前の商店街の写真館の人に頼むのよ。
今はこの商業施設の中で写真館をしてるわ。」
「へぇ~っ。」
「じゃあ、女の子はちょっと髪を変えていい?」
「変えるんですか?」
「切ったりしないわ。」
「じゃあ、お願いします。 まぁちゃんも、ね。」
「私も?」
「うん。」
「そうよ。貴女もね。」
「……はい。お願いします。」
やっと、まぁちゃんの声を聴けた。
それから、母はまぁちゃんの髪を梳かしながら……。
「お顔、少し赤い所があるけれど……。」
「……私……アトピーなんです。」
「そうなのね。……オデコに髪が当たると痒くなっちゃう?」
「あ……はい。」
「じゃあ、前髪を編み込みましょう。」
「編み込み……お願いします。」
「はい。」
編み込みをしながら母は優しく話した。
「辛いでしょう。アトピー……。」
「えっ?」
「痛いのは辛いけど、痒いのも辛いよね。」
「………。」
「痒いのを我慢するのって辛いよね。
ちょっとでも触れると痒くなるでしょ。
私も年だから乾燥で痒くなるのよ。
それを我慢するのが辛いのよね。」
「……はい。」
「我慢するのもストレスになったり……。」
「……は……い。」
何故か、まぁちゃんは泣き出した。
結い終わった母は、まぁちゃんを抱きしめて優しく背中を撫でていた。
「泣きたいときは泣けばいいのよ。
我慢しないで………。」
最初は驚いていたまぁちゃんだったが、母に抱きしめられて小さな声で言ったのだ。
「お母さんに……抱きしめられたこと……ない……。
アトピーも叱られて……。この顔……醜い……って……。
病気になると……お前が悪い………って……言うの。
……私、アトピーになりたくなかった。
治りたい………治りたいの。
けど、痒すぎて眠れなくって……搔きむしってしまうの。
駄目だと分かってるのに……痒すぎて……
⦅もう、どうなってもいい。⦆って思って……。
血だらけになって後悔するの。
私……早く結婚出来ないから……お母さん……言った……の。
『お前のせいで外を歩けない。』って……。」
母は何も言わずに、まぁちゃんの話を聞いていた。
まぁちゃんは母親から酷いことを言われていたのだ。