三度目の……
モテ男経由でモテ男の婚約者に頼んだ。
婚約者から、まぁちゃんに「飲み会」の話をして貰った。
あの合コンの時の6人で会う!という話にしてくれた。
理由は「婚約したから」だということにしたらしい。
まぁちゃん以外は本当の理由を知っている。
その辺も抜かりなくしてくれたモテ男の婚約者に感謝だ。
いよいよ……その日がやって来た。
俺は⦅母さん、余分なこと言わなかったらいいんだけどなぁ……。⦆と不安な気持ちが段々と膨らんでいった。
でも、俺には「精神科」という言葉を出すことも出来ないと思ってもいた。
凄くドキドキした。
何故か? 母は俺の服装を気に掛けていた。
「母さん、何なんだよ。」
「気になるのよ。もうちょっと……ね。」
「これでいいんだよ! それよりも早く行こうよ。 待たせたくないんだ。」
「そうね。早く行きなさい。」
「えっ? 母さんは?」
「少し後で合流するわ。不自然じゃないようにしないとね。」
「あぁ……分かった。行ってきます。」
「はい。行ってらっしゃい。」
母の店は駅前再開発の影響で立ち退きを余儀なくされた。
立ち退き後に入居したのが、今の店が入っている駅前の商業施設だ。
母は父が亡くなる前から店を持っていた。
父が職場で倒れたのは、俺が高校生の時だった。
父の葬儀を終えてから、母が「今日から一馬力ね。」と呟いたのを覚えている。
経済的にも精神的にも親が一人だという覚悟の言葉だったのかもしれない。
⦅母さん、大変だったんだよなぁ……。⦆と思いながら上に階にある居酒屋に入った。
入ると直ぐに案内されて予約していた部屋に通された。
もう皆揃っている。
その中で、まぁちゃんの姿を見つけた時……俺は凄く嬉しくなった。
⦅良かったぁ~。来てくれたんだ。⦆と嬉しかった。
「こんばんは! 遅かったか?」
「いいや。遅くないよ。」
「それはそうと、婚約おめでとう!」⦅何回目のおめでとう!だ?⦆
「ありがとう!」
「ありがとうございます。」
「先ずは、乾杯だよな。皆、ビールでいいよな。」
「うん。」
「はい。」
ビールで乾杯してからは婚約の経緯を聞いていた。
まぁちゃんは笑顔を見せていたが、顔は伏せている時間が多かった。
顔が赤くなっている箇所が増えていた。
きっと見られたくない気持ち、恥ずかしい気持ちなのだろうと思った。
どんなに恥ずかしくても電車に乗って会社に行き仕事をしている。
凄く頑張っているのだと思った。
会社に行くのもストレスではないかと思った。
母のことなど忘れて話していたら、母がやって来た。
⦅げっ! 本当に来た。⦆と思っていると、母がモテ男に声を掛けた。
「久し振りねぇ~。」
「おばさん、久し振りです。お元気そうですね。」
「ありがとう。元気よ。
それはそうと、ご婚約おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「婚約者さん、私はこの愚息の母親で、美容院をやってます。
モテ男くんとは高校からのお付き合いなんですよ。」
「そうなんですか。」
「これから、モテ男くんと仲良く良い夫婦になってね。」
「はい。ありがとうございます。」
「それでね、私からのお祝いで写真を撮らせて貰いたいのよ。
この皆一緒の写真を、ね。 どうかしら?」
「ありがとうございます。お願いします。」
「ありがとう。それでね。私の店で取らせて貰えるかしら?
ここじゃ。悪いから……。」
「はい。分かりました。」
「母さん……聞いてないよ。」
「店はちゃんと写真館みたいにしたから大丈夫よ。」
「聞いてないって!」
「ここが終わったら、下に来てくれるかしら?」
「はい。」
「伺います。」
それから、直ぐに俺の……否、母の店に皆で行った。
まぁちゃんも一緒だ。
俺はまぁちゃんに何て話しかけたらいいのか分からなかった。